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その31 キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系 その2

今回は、キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系の2回目です。前回はキャリアコンサルティングの社会的意義必要な知識について紹介しました。今回は必要な技能倫理と行動についてご紹介いたします。今回も長文になりますのでお時間がない方は項目と最下段の「キャリアコンサルタントとは」をご覧いただければと思います。

項番号の取り方、レベルがわかりにくいのでメモ※を付記します。
※   ローマ数字(Ⅰ、Ⅱ)>漢数字(一、二)>アラビア数字(1,2)>カッコ付き数字(⑴、⑵)

キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系
下の4つの大項目のうち今回はⅠについて説明します。
I.    キャリアコンサルティングの社会的意義 (前回)
II.  キャリアコンサルティングを行うために必要な知識 (前回) 
III. キャリアコンサルティングを行うために必要な技能 (今回)
IV.  キャリアコンサルタントの倫理と行動 (今回)
V.    その他 (今回)
 

III. キャリアコンサルティングを行うために必要な技能
一 基本的な技能
1 カウンセリングの技能
カウンセリングの進め方を体系的に理解したうえで、キャリアコンサルタントとして、相談者に対する受容的・共感的な態度及び誠実な態度を維持しつつ、様々なカウンセリングの理論とスキルを用いて相談者との人格的相互関係の中で相談者が自分に気づき、成長するよう相談を進めることができること。
また、傾聴と対話を通して、相談者が抱える課題について相談者と合意、共有することができること。
さらに、相談者との関係構築を踏まえ、情報提供、教示、フィードバック等の積極的関わり技法の意義、有効性、導入時期、進め方の留意点等について理解し、適切にこれらを展開することができること。

2 グループアプローチの技能
グループを活用したキャリアコンサルティングの意義、有効性、進め方の留意点等について理解し、それらを踏まえてグループアプローチを行うことができること。
また、若者の職業意識の啓発や社会的・基礎的能力の習得支援、自己理解・仕事理解などを効果的に進めるためのグループアプローチを行うことができること。

3 キャリアシート(法第十五条の四 第一項に規定する職務経歴等記録書を含む。)の作成指導及び活用の技能
キャリアシートの意義、記入方法、記入に当たっての留意事項等の十 分な理解に基づき、相談者に対し説明できるとともに適切な作成指導が できること。
また、職業能力開発機会に恵まれなかった求職者の自信の醸成等が 図られるよう、ジョブ・カード等の作成支援や必要な情報提供ができること。
4 相談過程全体の進行の管理に関する技能
相談者が抱える課題の把握を適切に行い、相談過程のどの段階にいるかを常に把握し、各段階に応じた支援方法を選択し、適切に相談を進行・管理することができること。

二 相談過程において必要な技能
1 相談場面の設定
(1) 物理的環境の整備
相談を行うにふさわしい物理的な環境、相談者が安心して積極的に相談ができるような環境を設定することができること。

(2) 心理的な親和関係(ラポール)の形成
相談を行うに当たり、受容的な態度(挨拶、笑顔、アイコンタクト等)で接することにより、心理的な親和関係を相談者との間で確立することができること。

(3) キャリア形成及びキャリアコンサルティングに係る理解の促進
主体的なキャリア形成の必要性や、キャリアコンサルティングでの支援の範囲、最終的な意思決定は相談者自身が行うことであること等、キャリアコンサルティングの目的や前提を明確にすることの重要性について、相談者の理解を促すことができること。

(4) 相談の目標、範囲等の明確化
 相談者の相談内容、抱える問題、置かれた状況を傾聴や積極的関わり技法等により把握・整理し、当該相談の到達目標、相談を行う範囲、相談の緊要度等について、相談者との間に具体的な合意を得ることができること。

2 自己理解の支援
(1) 自己理解への支援
キャアコンサルティングにおける自己理解の重要性及び自己理解を深めるための視点や手法等についての体系的で十分な理解に基づき、職業興味や価値観等の明確化、キャリアシート等を活用した職業経験の棚卸し、職業能力の確認、個人を取り巻く環境の分析等により、相談者自身が自己理解を深めることを支援することができること。

(2) アセスメント・スキル
面接、観察、職業適性検査を含む心理検査等のアセスメントの種類、目的、特徴、主な対象、実施方法、評価方法、実施上の留意点等についての理解に基づき、年齢、相談内容、ニーズ等、相談者に応じて適切な時期に適切な職業適性検査等の心理検査を選択・実施し、その結果の解釈を適正に行うとともに、心理検査の限界も含めて相談者自身が理解するよう支援することができること。

3 仕事の理解の支援
キャリア形成における「仕事」は、職業だけでなく、ボランティア活動等の職業以外の活動を含むものであることの十分な理解に基づき、相談者がキャリア形成における仕事の理解を深めるための支援をすることができること。
また、インターネット上の情報媒体を含め、職業や労働市場に関する情報の収集、検索、活用方法等について相談者に対して助言することができること。
さらに、職務分析、職務、業務のフローや関係性、業務改善の手法、職務再設計、(企業方針、戦略から求められる)仕事上の期待や要請、責任についての理解に基づき、相談者が自身の現在及び近い将来の職務や役割の理解を深めるための支援をすることができること。
 
4 自己啓発の支援
インターンシップ、職場見学、トライアル雇用等により職業を体験してみることの意義や目的について相談者自らが理解できるように支援し、その実行について助言することができること。
また、相談者がそれらの経験を自身の働く意味・意義の理解や職業選択の材料とすることができるように助言することができること。

5 意思決定の支援
(1) キャリア・プランの作成支援
自己理解、仕事理解及び啓発的経験をもとに、職業だけでなくどのような人生を送るのかという観点や、自身と家族の基本的生活設計の観点等のライフプランを踏まえ、相談者の中高年齢期をも展望した中長期的なキャリア・プランの作成を支援することができること。

(2) 具体的な目標設定への支援
相談者のキャリア・プランをもとにした中長期的な目標や展望の設定と、それを踏まえた短期的な目標の設定を支援することができること。

(3)能力開発に関する支援
相談者の設定目標を達成するために必要な自己学習や職業訓練等の 能力開発に関する情報を提供するとともに、相談者自身が目標設定に 即した能力開発に対する動機付けを高め、主体的に実行するためのプ ランの作成及びその継続的見直しについて支援することができること。

6 方策の実行の支援
(1) 相談者に対する動機づけ
相談者が実行する方策(進路・職業の選択、就職、転職、職業訓練の受講等)について、その目標、意義の理解を促し、相談者が自らの意思で取り組んでいけるように働きかけることができること。

(2) 方策の実行のマ ネジメント
相談者が実行する方策の進捗状況を把握し、相談者に対して現在の状況を理解させるとともに、今後の進め方や見直し等について、適切な助言をすることができること。

7 新たな仕事への 適応の支援
方策の実行後におけるフォローアップも、相談者の成長を支援するために重要であることを十分に理解し、相談者の状況に応じた適切なフォローアップを行うことができること。

8 相談過程の総括
(1) 適正な時期における相談の終了
キャリアコンサルティングの成果や目標達成具合を勘案し、適正だと判 断できる時点において、相談を終了することを相談者に伝えて納得を得 たうえで相談を終了することができること。

(2) 相談過程の評価
相談者自身が目標の達成度や能力の発揮度について自己評価できるように支援することができること。
また、キャリアコンサルタント自身が相談支援の過程と結果について自己評価することができること。

IV.  キャリアコンサルタントの倫理と行動
一 キャリア形成及びキャリアコンサルティングに関する教育並びに普及活動
個人の主体的なキャリア形成は、個人と環境(地域、学校・職場等の組織、家族等、個人を取り巻く環境)との相互作用によって培われるものであることを認識し、相談者個人に対する支援だけでは解決できない環境(例えば学校や職場の環境)の問題点の発見や指摘、改善提案等の環境への介入、環境への働きかけを、関係者と協力(職場にあってはセルフ・キャリアドックにおける人事部門との協業、経営層への提言や上司への支援を含む)して行うことができること。

二 環境への働きかけの認識及び実践
個人の主体的なキャリア形成は、個人と環境(地域、学校・職場等の組 織、家族等、個人を取り巻く環境)との相互作用によって培われるもので あることを認識し、相談者個人に対する支援だけでは解決できない環境 (例えば学校や職場の環境)の問題点の発見や指摘、改善提案等の環 境への介入、環境への働きかけを、関係者と協力(職場にあってはセル フ・キャリアドックにおける人事部門との協業、経営層への提言や上司へ の支援を含む)して行うことができること。
三 ネットワークの認識及び実践
1 ネットワークの重要性の認識及び形成
個人のキャリア形成支援を効果的に実施するためには、行政、企業の 人事部門等、その他の専門機関や専門家との様々なネットワークが重要 であることを認識していること。 ネットワークの重要性を認識したうえで、関係機関や関係者と日頃から 情報交換を行い、協力関係を築いていくことができること。 また、個人のキャリア形成支援を効果的に実施するため、心理臨床や 福祉領域をはじめとした専門機関や専門家、企業の人事部門等と協働 して支援することができること。
2 専門機関への紹介及び専門家への照会
個人や組織等の様々なニーズ(メンタルヘルス不調、発達障害、治療 中の(疾患を抱えた)者)に応えるなかで、適切な見立てを行い、キャリア コンサルタントの任務の範囲、自身の能力の範囲を超えることについて は、必要かつ適切なサービスを提供する専門機関や専門家を選択し、 相談者の納得を得た上で紹介あっせんすることができること。 個人のキャリア形成支援を効果的に実施するために必要な追加情報を入手したり、異なる分野の専門家に意見を求めることができること。
四 自己研鑽及びキャリアコンサルティングに関する指導を受ける必要性の認識
(1) 自己研鑽
キャリアコンサルタント自身が自己理解を深めることと能力の限界を認識することの重要性を認識するとともに、常に学ぶ姿勢を維持して、様々な自己啓発の機会等を捉えた継続学習により、新たな情報を吸収するとともに、自身の力量を向上させていくことができること。
特に、キャリアコンサルティングの対象となるのは常に人間であることから、人間理解の重要性について十分に認識していること。

(2) スーパービジョン
スーパービジョンの意義、目的、方法等を十分に理解し、スーパーバイザーから定期的に実践的助言・指導(スーパービジョン)を受けることの必要性を認識していること。
また、スーパービジョンを受けるために必要な逐語録等の相談記録を整理することができること。

五 キャリアコンサルタントとしての倫理と姿勢
(1) 活動範囲・限界の理解
キャリアコンサルタントとしての活動の範囲には限界があることと、その限界には任務上の範囲の限界のほかに、キャリアコンサルタント自身の力量の限界、実践フィールドによる限界があることを理解し、活動の範囲内においては誠実かつ適切な配慮を持って職務を遂行しなければならないことを十分に理解し、実践できること。
また、活動範囲を超えてキャリアコンサルティングが行われた場合には、効果がないだけでなく個人にとって有害となる場合があることを十分に理解していること。

(2) 守秘義務の遵守
相談者のプライバシーや相談内容は相談者の許可なしに決して口外してはならず、守秘義務の遵守はキャリアコンサルタントと相談者の信頼関係の構築及び個人情報保護法令に鑑みて最重要のものであることを十分に理解し、実践できること。

(3) 倫理規定の厳守
キャリア形成支援の専門家としての高い倫理観を有し、キャリアコンサルタントが守るべき倫理規定(基本理念、任務範囲、守秘義務の遵守等)について十分に理解し、実践できること。
(4) キャリアコンサルタントとしての姿勢
キャリアコンサルティングは個人の人生に関わる重要な役割、責任を担うものであることを自覚し、キャリア形成支援者としての自身のあるべき姿を明確にすることができること。
また、キャリア形成支援者として、自己理解を深め、自らのキャリア形成に必要な能力開発を行うことの必要性について、主体的に理解できること。

V.    その他
一 その他キャリアコンサルティングに関する科目 (省略)
 
参考文献、引用資料
木村周.「キャリアコンサルティング理論と実際 5訂版」.一般社団法人 雇用問題研究会. 令和3年11月
 
キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会 資料より
「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」.厚生労働省. 2022年11月22日 
 
キャリアコンサルタントとは
これまでのブログのタイトルを少しだけ挙げてみます。
「その9 自己理解 ライフ・ライン・チャート」「その13 自己理解 強み」などはⅢ-二-2-⑴ 必要な技能のうちの一つ「自己理解の支援」として、皆さんのご自身に対する気づきを促すきっかけとしてお話しました。また、「その16 環境理解とアダプタビリティ」「その19 ジョブクラフティング」「その29 気づく」などはⅢ二-3「仕事の理解の支援」として組織の構造や組織の中でモチベーションを保ちながら仕事を続ける方法などのお話をさせていただいております。
前回の「その30」では、私自身の自己啓発も紹介いたしました。これはⅢ-二-4「自己啓発の支援」を意識しておりまして、「定年間際のおっさんでもやってるじゃん」を知っていただきたかった。
つまり皆さん自身が
①   どのような姿になりたいかに気づき
②   組織の中でどのような活動をして
③   不足する知識や経験を増やしつつ
④   ご自身の心理的な達成感と
⑤   組織への貢献を
どんなふうに勝ち取るかを支援させていただいているというのがキャリアコンサルタントの役目の一つという事です。
 
いかがでしたでしょうか。2回にわたり長文の引用となり申し訳ありませんでした。私たちキャリアコンサルタントがどのような視点で皆様の支援に携わろうとしているかはご理解いただけたのではないかと思っています。
 
このブログへのご質問、ご意見は大島(ooshimatomohiro@gmail.com)にご連絡ください。
 

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