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その34 環境理解と環境への働きかけ

 先にご紹介した「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」の中でも職場を「環境理解」*¹の対象としています。また、「環境への働きかけ」*²の対象ともしています。

 知っている範囲でしかありませんが、キャリア理論の中で職場を正面から扱ったものはあったかな、と頭を巡らせています。ぱっと思いつくのは組織を構造化して示したエドガー・シャインキャアリア・コーンくらいでしょうか。それは組織を円錐形に見立て水平方向にマーケや営業、エンジニアリング、製造、設計、管理機能などの職能を配し、垂直方向で係長、課長、役員などの職位階層を表しました。円錐形なので職位階層の上に到達できる人は少なくなっていくという図になります。そして組織の意思決定にかかわる者は、円錐の中心に向かうとしました。これには「外的キャリア」(職務経歴書に書けるキャリア)という呼称がつけられました。

 シャインが焦点を当てているのは外的キャリアと対をなす「内的キャリア」の方だと思われます。それは、キャリア・アンカーと命名されて個人の価値観や自己イメージの実現をパターン化したもので、特定専門分野・機能別のコンピテンスや起業家的創造性など8つのパターンに類型化されて表現されています。

 シャインのキャリア論はキャリア・サバイバルという形で組織への適合の方策を示して結ばれます。 ――近年ではサバイバル(生き残り)からマネジメント(統合)に表現が変わっているようです。―― このようにシャインの職場を構造化したキャリア理論であっても、職場についてはそこにあるものとして前提条件でしかなかったようです。

 他の多くのキャリア理論においても「環境理解」は、職場への適合性(アダプタビリティ)の視点で、個人から職場や業務に向かって矢印がつけられ、理解し適合する対象*³として扱われます。私たちキャリアコンサルタントは、個人がその内面に気づくこと、職場や組織という環境の理解を促し、適合への支援をすることが、その職責とされていますので、キャリア理論の範疇ではそれでよいのかもしれません。 

環境への働きかけ

 では「環境の働きかけ」をどのように考えればよいか、ヒントになるようなものを探してみました。以下に少しだけご紹介しようと思います。

経営の視点から組織を分析しているのが、ゲイリー ハメル. 「経営は何をすべきか」ではないかと思います。著作は2009年のリーマンショック後に上梓されたものと思われ、著者自身がその難を逃れた逸話も含まれています。以前のブログでも同じ引用がありますが、再びこの著書から環境、特に組織や職場で有用と思われる記述を引用します。

ページ343、344より
課題4 信頼関係を深め、不安を和らげる

課題5 管理手段を刷新する

成功チームの5つの因子

 もう一つ、こちらは引用の引用で原書からではないのですが、グーグルの「プロジェクト・アリストテレス」が紹介されています。(斉藤徹. だから僕たちは、組織を変えていける.P117.)プロジェクト・アリストテレスは、莫大なお金と時間をかけて成功するプロジェクトチームの特性を分析したものです。

 そこでは成功チームの特性を5つの因子に分解して①心理的安全性、②相互信頼、③構造と明確さ、④仕事の意味、⑤インパクトを挙げています。これらは相互に関連し、影響を与え合います。そして組織がパフォーマンスや創造性を最大限に発揮する土壌となります。

このように、世の中では職場・組織が成果を上げるために必要な事柄がどのようなものかを知るため、実現するために提言や研究、試行錯誤が繰り返されます。

 もう少し身近なケースを考えてみます。例えば、二律相反な役割を担う組織間の課題を想定してみます。一方がルールや効率性の管理を重視して監視を強化し、もう一方が例えば彼らのアイディアを実現させて案件化に挑戦したりします。前者はその機能としてリスクを回避する行動をとり、後者は利益と自己実現という成果を得るための行動をとろうとして対立構造が生まれます。このような状態では管理コストが増え成果は増えていきません。前者の役割を管理から「成果を実現するためのルール・効率性の検討」にちょっとだけ方向を変えてみると、この二つの組織は「成果」という軸で協働するチームに変化するのではないかと思います。

いかがでしょうか。「環境への働きかけ」について2つの著作と1つの想定事例を挙げてみました。こうしてみていくと働きかけが必要な職場には組織的な課題があり、それを解決しようとする意思と実践するための合意形成、コミュニケーションが必要ということではないかと思います。そもそも課題があると認識できなければ端緒にもつけないということではありますが。

このブログへのご質問、ご意見は大島(ooshimatomohiro@gmail.com )までご連絡ください。

参考文献
渡辺三枝子編著.新版キャリアの心理学第[2版].ナカニシヤ出版.2018.
森津太子、向田久美子. OUJ 心理学概論.放送大学教育振興会.2024.
石井遼介.心理的安全性の作り方.日本能率協会マネジメントセンター.2020.
渡部昌平.人物で学ぶキャリア理論.福村出版.2022.

引用文献
斉藤徹. だから僕たちは、組織を変えていける ――やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた (p.117). 株式会社クロスメディア・パブリッシング. Kindle 版.
ゲイリー ハメル. 経営は何をすべきか (p.344). ダイヤモンド社. Kindle 版.2013.

*¹:ブログその31「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」その2
Ⅲキャリアコンサルティングを行うために必要な技能
>二 相談過程において必要な技
>3 仕事の理解の支援
Ⅳキャリアコンサルタントの倫理と行動
  >一 キャリア形成及びキャリアコンサルティングに関する教育並びに普及活動
この部分が「環境理解」に該当します。

*²:ブログその31「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」その2
Ⅳキャリアコンサルタントの倫理と行動
 >一 キャリア形成及びキャリアコンサルティングに関する教育並びに普及活動
 >二 環境への働きかけの認識及び実践 
この部分が「課題解決」に該当します。

*³:
「プロティアンキャリア」におけるアダプタビリティ、ダグラス・ホール(米.1940-.)
「キャリア構築理論」におけるキャリア・アダプタビリティ、マーク・サビカス(米.1947-)
「青年期の職業的発達の分析」におけるキャリア・アダプタビリティ、ドナルド・スーパー(米.1910-1994)

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