その30 キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系 その1
今回から2回にわたって「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」について厚生労働省の資料等から引用してご紹介したいと思います。私たちキャリアコンサルタントは、この能力体系に示される項目を学習し身に着けることを求められます。
試験でその習熟度が測られますが資格合格は入り口でしかありません。それぞれの専門家と同様に、実務をこなしながら技能を磨く、より専門性の高い領域で研鑽していくことになります。私自身はプロティアンキャリア協会の認定ファシリテーター取得や放送大学での心理、統計などの単位取得、ACCNの勉強会への参加など知識の獲得、更新に努めています。
これらの研鑽は、驕ることなく皆様に質の高いキャリアコンサルティングを提供したいという思いからです。
また、今回このお話をさせていただくもう一つの理由は、私自身がキャリアコンサルティングの学習を通じて多くの気づきを得たと実感があるからです。きっかけは企業内における課題に対応するためでしたが、課題の背景や人の行動特性などを客観的に見つめなおすことが出来るようになったと思っています。同様にそれらの課題を世間に通じる一般的なことばで言語化・構造化できるようになったと感じています。資格は二の次としても、管理職の皆さん、チームリーダーの皆さんにも知っていただきたい知識も多く含まれます。
この能力体系にはキャリアコンサルタントの勉強をしなければ咀嚼しにくい内容も含まれます。長文になりますのでお時間が無ければ項目だけを拾っていただければと思います。2回にわたる能力体系のお話の後は、キャリアコンサルティングについてもう少し説明をしていきたいと考えています。
改めて言葉の定義
「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すものです。「職業生涯」や「職務経歴」などと訳されます。
「キャリアコンサルティング」とは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うことをいいます。
キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系
下の4つの大項目のうち今回はⅠ、Ⅱを紹介します。
I. キャリアコンサルティングの社会的意義 (今回)
II. キャリアコンサルティングを行うために必要な知識 (今回)
III. キャリアコンサルティングを行うために必要な技能 (次回)
IV. キャリアコンサルタントの倫理と行動 (次回)
V. その他 (次回)
項番号の取り方、レベルがわかりにくいのでメモ※を付記します。
※ ローマ数字(Ⅰ、Ⅱ)>漢数字(一、二)>アラビア数字(1,2)>カッコ付き数字(⑴、⑵)
Ⅰ. キャリアコンサルティングの社会的意義
一 社会及び経済の動向並びにキャリア形成支援の必要性の理解
技術革新の急速な進展等様々な社会・経済的な変化に伴い、個人が主体的に自らの希望や適性・能力に応じて、生涯を通じたキャリア形成を行うことの重要性と、そのための支援の必要性が増してきたこと、個々人のキャリアの多様化や、社会的ニーズ、また労働政策上の要請等を背景に、キャリアコンサルタントの活動が期待される領域が多様化していることについて十分に理解していること。
二 キャリアコンサルティングの役割の理解
キャリアコンサルティングは、職業を中心にしながらも個人の生き甲斐、働き甲斐まで含めたキャリア形成を支援すること、また、個人が自らキャリアマネジメントにより自立・自律できるように支援すること、さらには、個人と組織との共生の関係をつくる上で重要なものであること等、その役割、意義について十分に理解していること。
また、キャリアコンサルティングは、個人に対する相談支援だけでなく、キャリア形成やキャリアコンサルティングに関する教育・普及活動、組織(企業)・環境への働きかけ等も含むものであることを十分に理解していること。
Ⅱ. キャリアコンサルティングを行うために必要な知識
一 キャリアに関する理論
キャリア発達理論、職業指導理論、職業選択理論等のキャリア開発に関する代表的理論の概要(基礎知識)について十分に理解していること。
二 カウンセリングに関する理論
キャリアコンサルティングの全体の過程においてカウンセリングの理論及びスキルが果たす役割を十分に理解していること。
また、来談者中心アプローチや認知行動アプローチ等の代表的なカウンセリング理論の概要(基礎知識)、特徴について理解していること。
なお、グループを活用したキャリアコンサルティング(グループワーク、グループガイダンス、グループカウンセリング、グループエンカウンター、サポートグループ等のグループアプローチ)の意義、有効性、進め方の留意点等について理解していること。
三 職業能力の開発(リカレント教育を含む。)の知識
個人の生涯に亘る主体的な学び直しに係るリカレント教育を含めた職業能力開発に関する知識(職業能力の要素、学習方法やその成果の評価方法、教育訓練体系等)及び職業能力開発に関する情報の種類、内容、情報媒体、情報提供機関、入手方法等について理解していること。
また、教育訓練プログラム、能力評価シート等による能力評価、これらを用いた総合的な支援の仕組みであるジョブ・カード制度の目的、内容、対象等について理解していること。
四 企業におけるキャリア形成支援の知識
企業における雇用管理の仕組み、代表的な人事労務施策・制度の動向及び課題、セルフ・キャリアドックをはじめとした企業内のキャリア形成に係る支援制度・能力評価基準等、ワークライフバランスの理念、労働者の属性(高齢者、女性、若者等)や雇用形態に応じたキャリアに関わる共通的課題とそれを踏まえた自己理解や仕事の理解を深めるための視点や手法について理解していること。
また、主な業種における勤務形態、賃金、労働時間等の具体的な労働条件について理解していること。
さらに、企業内のキャリア形成に係る支援制度の整備とその円滑な実施のための人事部門等との協業や組織内の報告の必要性及びその具体的な方法について理解していること。
五 労働市場の知識
社会情勢や産業構造の変化とその影響、また、雇用・失業情勢を示す有効求人倍率や完全失業率等の最近の労働市場や雇用の動向について理解していること。
六 労働政策及び労働関係法令並びに社会保障制度の知識
職業安定法、雇用対策法、高年齢者雇用安定法、障害者雇用促進法、若者雇用促進法、労働者派遣法、職業能力開発促進法、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、女性活躍推進法等の労働関係法規及びこれらに基づく労働政策や、年金、社会保険等に関する社会保障制度等、労働者の雇用や福祉を取り巻く各種の法律・制度について、キャリア形成との関連において、その目的、概念、内容、動向、課題、関係機関等を理解していること。
七 学校教育制度及びキャリア教育の知識
学校教育制度や、初等中等教育から高等教育に至る学校種ごとの教 育目標、青少年期の発達課題等に応じたキャリア教育のあり方等について理解していること。
八 メンタルヘルスの知識
メンタルヘルスに関する法令や指針、また、職場におけるメンタルヘルスの保持・増進を図る対策の意義や方法、職場環境改善に向けた働きかけ方等、さらに、ストレスに関する代表的理論や職場のストレス要因、対処方法について理解していること。
また、代表的な精神的疾病の概要、特徴的な症状を理解した上で、疾病の可能性のある相談者に対応する際の適切な見立てと、特別な配慮の必要性について理解していること。
さらに、専門機関へのリファーやメンタルヘルス不調者の回復後の職場復帰支援等に当たっての専門家・機関の関与の重要性、これら機関との協働による支援の必要性及びその具体的な方法について十分に理解していること。
九 中高年齢期を展望するライフステージ及び発達課題の知識
職業キャリアの準備期、参入期、発展期、円熟期、引退期等の各ライフステージ、出産・育児、介護等のライフイベントにおいて解決すべき課題や主要な過渡期に乗り越えなければならない発達課題について理解していること。
また、それらを踏まえた中高年齢期をも展望した中長期的なキャリアプランの設計、キャリアプランに即した学び直しへの動機付けや機会の提供による支援の必要性及びその具体的な方法について理解していること。
十 人生の転機の知識
初めて職業を選択する時や、転職・退職時等の人生の転機が訪れた時の受け止め方や対応の仕方について理解していること。
十一 個人の多様な特性の知識
相談者の個人的特性(例えば、障害者については障害の内容や程度、ニート等の若者については生活環境や生育歴、病気等の治療中の者については治療の見通しや職場環境)等によって、課題の見立てのポイントや留意すべき点があることについて理解していること。
参考文献、引用資料
木村周.「キャリアコンサルティング理論と実際 5訂版」.一般社団法人 雇用問題研究会. 令和3(2021)年11月
キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会(2022年11月22日)資料より「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」.厚生労働省. H30.3