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俳文「七種粥」

旧暦の一月七日に春の七草を入れた粥を食べると、邪気を払い、健康に過ごすことができると言われている。「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草」という、春の七草を憶える三十一文字があることを知っている人もいるだろう。「せり」は、最近、根まで食べる仙台のせり鍋が有名になっている。「なずな」は、「ぺんぺん草」とか「三味線草」とかいう別名の方がわかりやすいかもしれない。「ごぎょう」は、小さな黄色い花を咲かせるハハコグサのこと、「はこべら」は、鳥の餌によく使われているハコベのことだ。「ほとけのざ」は、小さな蒲公英みたいに見えるコオニタビラコのことで、こんにちホトケノザと呼ばれているヒメオドリコソウの仲間とは別の植物である。「すずな」と「すずしろ」は、それぞれカブとダイコンのことである。

百人一首の第十五首、光孝天皇の「君がため春の野に出でて若菜摘むわが衣手に雪は降りつつ」は、その七草を摘んでくる景を詠んだものである。百人一首の、比較的初めの方の歌であることに加えて、百人一首の第一首、天智天皇の「秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露に濡れつつ」と取り札が紛らわしいこともあって、二首一組にして憶えられていることが多い歌ではないかと思う。

誰かのために、そのくらいの手間をかけて若菜摘みをするというのは風情のあるものだが、都会住まいの身であるゆえ、なかなかそうもいかない。そもそもスズナやスズシロが、そのあたりに自然に生えているとは思われない。そこで店に行って、七草を少量ずつ集めたセットを求めてくることになる。ところが今年、さらに便利なものが売られていることに気がついた。下ごしらえのすんだ七草をフリーズドライにしたものを、レトルトパックの粥と一緒にして売っていたのである。楽は楽だが、そこまでしてくれなくても結構、ということで、今年も未加工七草セットを買って帰った。

 まな板の七種のあを流しけり 俄風

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大瀨俄風
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