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『講義録』のまとめ

「人間っていうのはね、力を入れる時には急に入る。抜く時には暇がかかるんです・・・急にフォルテにすることは生理的に可能なんだけど、急にピアノにすることは生理的に不可能なんです」


「もしハーモニーに弱かったら、バッハは弾かないことですね、これは」


「日本に来てバッハを上手に弾いたのはカザルス。カザルスも少し崩れすぎていてね、あれ、感じはよく出るんだけれど。僕はナヴァラが一番良かったと思うんですけど」


「カザルスが過度に出し過ぎているのは、アクセントの音が長過ぎちゃうんです。それから下行導音、上行導音が強過ぎるんです。だから、あくが強くて抵抗があるんだけど、理解力から言ったら(シュタルケルよりも)カザルスの方が上ですね」


「バッハの曲は16分音符で同じように動いていても、いろいろな変化があるから、それを見極めて演奏しなきゃいけない・・・よくバッハがここまで考えぬいたっていうこと。曲の構成も、調性の変化っていうことも・・・それでロマン派につながっていく基盤ができた・・」


「(フォイアマンにバッハ無伴奏を習っていた時)あまりにも「たぶん」が多くて「分からない、分からない」って言うから「先生はバッハ弾くのきらいですか」って聞いたら「おれは大好きだ」って言う・・・自分で考えて自分で解釈を付けないといけないと教わったのです


「(ベートーヴェンの)後期の作品をよく聴いていると、ベートーヴェンの言いたかった心の触れ合いというものがたくさん出ている・・・もう少し年をとってから後期は弾くべきですね」


「シューベルトがはじめて声楽を器楽に取り入れたんだけれど、その時はただメロディーとして取り入れた・・・」「本当に人間の感覚を表すために声楽的なメロディーが取り入れられたというのはシューマン以後ですね」


「色々なメロディーを調べてみると、具体的なことを言って、その次に感情的なことを言うわけ・・・こじつけでもいいからそういうふうに演奏すると聞き手に伝わりやすい」


「(ベートーヴェン以前は音楽記号きちんと書いていない)・・・ハイドンでは、fのところはクレッシェンドに、pをデクレッシェンドに置き換えるよとすごくわかりやすくなる。そこで急に大きくなったり小さくなったりするわけではない。それはモーツァルトも同じ」


「(ベートーヴェンから記号をきちんと書くようになったが・・・)ベートーヴェンの場合は直す場所がごく少ないですね。だからベートーヴェンは譜に書いたとおり忠実にやっていれば、大体は行くんです。だけどやっぱりそれだけじゃ、精神が失われる」


「音楽の場合は二度あれば三度目は変える」


「バッハの中にたくさんロマン派的感情が含まれているということはお分かりになると思います。ロマン派というのは、シューベルト、シューマンと来て花が開く前にバッハが元を作ったんです」


「ハーモニーの推移のほうがメロディーよりよほど大事なんです」「それを知っていてやると、ロマン派の音楽と非常に相通じるところが出てくるんです」


「必然性をどうやって作るか、っていうほうがずっと重要な問題です」


「メンデルスゾーンの無言歌・・・テクニックがやさしいから皆、子供のうちに何も分からないでシャカシャカ弾いちゃうんだけど、すごく面白い曲なんです」


「”バッハがスラー書いたからこれは絶対スラー”、バッハが間違った音を書いたけど”バッハが書いたんだからこれはひかなきゃいけない”って。これはパリサイ人だって僕は言うの。もっと人間の心に触れ合う音楽を作ったほうがいいだろうと考える」


「作曲家と演奏家の違いなんですけど、作曲家がやるとどうしたって表現ということが二の次になって、あまり重要に考えないですね。だから作曲家が演奏するより、よその人が演奏したほうがよっぽど演奏の面白みっていうのが出てくる」
「楽譜を見て作曲家がこういうふうに考えたんだろうって作曲家の気持ちを察してやることもしますけど、それよりもっとそれを面白く演奏して、人にわからせるためにはどうした方がいいって方を、余計考えるわけですね。それでないと面白くなってこない」


「音符の長さをスピードを変えて表情を出すというのは、シューマン以来の発明なんです」
「人間っていうのは感情を表すと、テンポが変わるんです。日常の会話でもそうです」


「(メンデルスゾーンの曲でテンポの変化によって表現することを解説しつつ)・・・これをベートーヴェンを弾くように全く同じテンポで弾くと、全然つまらなくなっちゃいますよね。ベートーヴェンが難しいのはそこでテンポが変えられないっていうところにあるんです。」


「一つの音を強調する時に半音変化を使うとか、こういうふうに気分を転換するために半音変化を使うとか。だんだん年をとってみると、半音変えるってことは非常に重要なことですね」


「(ブラームスのチェロソナタ1番の解説)これも譜面で見るとの演奏しているのとでは大違いで、譜面からは想像できないだいぶ違うものがあるわけです。それがブラームスを弾く時に非常に重大な要素になって、譜面通りじゃ、どうにもしようがない」
「じゃ、ブラームスだけを譜面をそういうふうに読まなくちゃいけないかって言うと、ベートーヴェンを読むときも結局は同じです。モーツァルトを読む時はもっと大変ですね。譜面のとおり演奏すれば、本当につまらないものができる」


「(どんな音でも頭と真ん中と尻尾を持っているが、その3つには別の機能がある)頭はそのものの性格を表すんです。真ん中は、その機能がどういうように発達してくかっていうことを表すんです。で、一番大事なのは、もしかすると尻尾です。尻尾が感情を表すんです」

『斎藤秀雄 講義録』より

以前チェロのレッスンを受けていた先生が斎藤秀雄氏の直弟子だったらしく、当時レッスンでよく聞いていた感じの発言が結構出てくる。

ちなみに、チェロや楽器の弾き方、狭い意味でのテクニックについてはほとんど触れていません。
大半は”楽譜の読みこみかた”です。

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