旅猫な分身
僕には愛猫がいる。齢4にして、まだまだ甘えん坊の長毛である。フワフワでモフモフな毛並みが魅力の一方、毛玉や大量の抜け毛も特徴的だ。ちゃんとブラッシングなどをしなければ、猫自ら自分の体を傷つけてしまうし、ちゃんとブラッシングなどをしても、どこかしらには毛が落ちていたり、くっついていたりするものだ。
そんな飼い主であり下僕でもある僕には、密かにやっている楽しみがある。それは“愛猫の毛玉や抜け毛を各地に上陸させる”というコトである。家の中でほぼ一生を過ごす飼い猫に、少しでも世界を知ってもらう為に始めた僕の気休めに過ぎない行為である。
ことの始まりは、職場で自分の服に毛が着いていたことに気づいた時である。家を出る前にコロコロをするのが日課だが、100%取れることはない為よく起こる。その毛を丸く集めて、ちょっとした悪戯心で同僚の肩に乗せた。帰る時には勿論その同僚の肩には無く、行方のわからない毛玉を考えてみたりすると、なんだか面白く思えてきた。
そして、その毛玉に「分身」と名付け、行く先々に置いてくるのである。今思うと、なんとも趣を感じられる。本体は東京であるが、分身は電車のシートや蟻の巣の近く、仙台駅の階段脇や熱海の旅館の窓から風に乗せたこともあった。このまま続けるとどうなってしまうのだろうとワクワクしています。
高い山に登った時に木や岩とか地面に自分の名前を書いたりするじゃないですか。きっと、アレに近い感じかなって。だから悪く思わないでください。