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ある男の不運な話

2023年8月1日、局地的な大雨と激しい雷を記録した。さほど長くはない私の人生では1番激しい雷だった。本当に空が割れている様な音に聞こえた。正直しっかり怖かったが、同時に途方のない存在というか、人間には到底敵わない存在への神秘や信仰的な思いが強く湧き、雷が鳴れば鳴るほどワクワクしていた。
ただ、こんなゲリラ豪雨に限って外にいる人、いわゆる、『ついてない人』もきっといるのだろうと考えた。きっと、そういう人は限ってこうである。

【ある男は自転車を朝から漕いでいた。その日も仕事場への出勤の為、約8キロを約30分前後のペースで、真夏だが颯爽と音楽を聴きながら走っていた。到着しても一服する余裕が持てるように逆算もしているほどの男である。
ただ、今日はなんだか空の様子が怪しい気がし、事故が起きない程度にペースを上げてはいた。半分の4キロくらいに差し掛かったその時、やっぱり降ってきた。しかもゲリラと呼ばれるヤツだ。しかし、その男も自転車歴は長く、バックには必ずレインウェア上下セットを持ち歩いてはいた。だが、ゲリラだからこそすぐに止むと思い、男は濡れながらもゴールを目指した。きっと、自転車を止めレインウェアを身に纏う手間と濡れるリスクを天秤に掛けたのだろう。しかし、それには誤算があり、思ったより長く降り続けるし何より雨粒が大きくかなり濡れてしまったのである。これ以上は仕事に支障をきたすと思い、仕方なく自転車を止め、レインウェアをしっかり上下着た。その途端、雨が止みはじめたのである。せっかく一服の時間を削り、着たレインウェアを脱ぐコトはせず、また降ってくる可能性も疑いつつ走りはじめた。真夏なだけあって、さすがに長袖長ズボンは蒸し暑い。空もなんだか晴れてきた。男はしかたなく、再度一服の時間を削り、レインウェアを脱ぎ、また走りはじめた。その途端、あろうことかまたゲリラである。
こんなことが、こんな不運な人はいるのだろうか、いや、いてくれなければと、そんな事を考えながら雨と共に、男は自転車を漕ぎ続けるのであった。】

そう、この不運なある男は、僕のことだ。嘘偽りなく本当にあったエピソードである。
結局は、仕事を開始時間ギリギリに到着となったが、びしょ濡れすぎる事を逆に利用して、堂々と一服してやったし、それを笑い話としても披露した。そうでもしなければ、僕の心は癒えなかったのである。みんな優しくニヤニヤしながら話を聞いてくれた覚えがある。きっと、その時の僕自身は、みんなからしたら雷みたいな存在に思えたのだろうと。
また、昔聞いた立川志の輔さんが演じていた落語で似ている話があったことに気づき、聞き返すと、やっぱり面白いと改めて痛感した2023年8月1日であった。

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