「日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」の本当の意味


 自公政権が軍事費を倍増しようとしています。
 そのような軍拡を行う際によく使う言葉は「日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」です。
 果たしてこれは一体どういう意味なのでしょうか。

 外務省のサイトに、この文言の「解説」が掲載されていました。

アジア太平洋地域については、

・核兵器国を含む大規模な軍事力を持つ国家等が集中する一方、安全保障面の地域協力枠組みは十分に制度化されていない。
・北朝鮮による核・ミサイル開発の継続や挑発行為。
・中国による透明性を欠いた軍事力の強化、海空域における活動の活発化。

外務省公式サイト

と、中国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を名指しで挙げています。
 ちなみに、「安全保障面の地域協力枠組みは十分に制度化されていない」そうです。日米安保条約では不十分という事なのでしょうか。
 なお、掲載日付は2016年4月です。ロシアがクリミアを武力併合した2年後ですが、その名前はありません。ちなみに、この年の暮れにはプーチン大統領が来日し、安倍首相(当時)と首脳会談を行いました。
 それに「配慮」して名前を出さなかったとしか思えません。これだけ見ても、政府が「隣国の脅威」など、本気で信じていない事がよくわかります。
 このサイトが公開されてから6年半経ちましたが、ロシアのウクライナ侵略以外に変化はありません。しかし、ロシアがウクライナを侵略する口実に使ったもののなかで、日本に当てはまるものはありません。
 もちろん、ロシアの侵略戦争は許されません。しかし、それと「日本を取り巻く安全保障環境」とは別問題です。
 ロシアの侵略を加味しても、このサイトに書かれている「日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」には現実味がありません。
 また、この10年間、日本は毎年防衛費を増額し続けてきました。しかし、「日本を取り巻く安全保障環境は、防衛費増額によって厳しさが緩和された」などと政府が発信した事は一度たりともありません。
 では一体、繰り返し使われ、防衛費増額の理由となっている「日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」の正体とは何なのでしょうか。

この10年で変わった「日本を取り巻く安全保障環境」とは

 日本が軍事費増を始めたのは、10年前に発足した安倍自公政権になってからです。
 その理由は先程述べたように、「近隣国の脅威」に対抗するためのものではありませんでした。
 実は、「日本を取り巻く安全保障環境」を変えたのはそれらの国ではありません。「同盟国」であるはずのアメリカなのです。
 現在、岸田政権が進めようとしている「防衛費倍増」はその典型例です。
 しんぶん赤旗2022年6月5日付けに以下の記事が掲載されました。

大軍拡の裏に米要求 GDP2%「同盟国の下限」 2022年6月5日【1面】  5月23日の日米首脳会談で、岸田文雄首相は日米同盟の「抑止力・対処力の強化」と称して、(1)大軍拡=「防衛費の相当な増額の確保」(2)敵基地攻撃能力=「反撃能力」の保有検討を公約しました。その背景を探ると、いずれも、日本を「力対力」の道に引き込もうとする米国の要求が浮かび上がってきます。根源にある日米軍事同盟の存在が正面から問われています。  首脳会談に先駆け、自民党は5年以内の「軍事費GDP(国内総生産)比2%以上」達成を提言し、維新も「GDP比2%」を公約。暮らし破壊の大軍拡を競っています。これを実現すれば、軍事費は現在の約5・4兆円から11兆円規模まで膨れ上がります。  「軍事費GDP比2%」の発端はNATO(北大西洋条約機構)です。2006年、米国の要求で「GDP比2%」の指針を設定。14年のロシアによるクリミア侵略を受け、同年9月のNATO首脳会議で、「24年までの2%達成」を目標に掲げました。

 17年に発足したトランプ米政権は、NATO以外の同盟国にも「2%」を要求。当時のエスパー国防長官は20年10月20日、ワシントン市内の講演で、「われわれはNATOを超えて、すべての同盟国が防衛にもっと投資することを期待している。少なくともGDP2%を下限として」と発言。オブライエン大統領補佐官も21日、GDP比2%は「NATO以外でもゴールドスタンダード(黄金律)だ」(米軍事専門誌ディフェンス・ニュース)と述べ、絶対的な数値だと強調しました。
 21年に発足したバイデン政権は、中国に対抗していくため、日本の大幅な軍事分担拡大を要求します。菅義偉前首相は同年4月16日のバイデン大統領との共同声明で、「自らの防衛力を強化する」と誓約。自民党は10月の総選挙で、初めて軍事費の「GDP比2%以上」を公約しました。エマニュエル次期駐日米大使(現大使)は10月20日、上院外交委員会の公聴会で自民党の公約に触れ、日本の軍拡は「同盟に不可欠だ」と発言しました。

軍事費GDP「2%」 根拠も財源も示さず
敵基地攻撃能力 次つぎ具体的要求
 米側はこれまで、日本の軍事費の目安である「GDP1%以内」は「少なすぎる」と批判してきました。中国の大軍拡やロシアのウクライナ侵略を利用して、一気に「2%」達成を狙っているのは明らかです。
 ただ、なぜ2%なのか。具体的な根拠は示されていません。NATO加盟国でも、今年3月時点で「2%」を達成しているのは30カ国中、米以外では7カ国だけです。それにもかかわらず、政府と自民・維新は財源も示さず、「2%」ありきで米への忠誠を競い合っているのです。
米のアイデア?
 「専守防衛」を根本から覆す敵基地攻撃能力の保有について、岸田首相は日米首脳会談後の記者会見で、「いわゆる『反撃能力』も含めて、あらゆる選択肢を排除しない」と表明しました。
 「敵基地攻撃能力」=「反撃能力」と言う言葉を最初に用いたのは、20年12月に公表された米戦略国際問題研究所(CSIS)の対日要求報告書=「第5次ナイ・アーミテージ報告」とみられます。報告書は集団的自衛権の行使容認などを高く評価した上で、「今後の課題は日本がどのように反撃能力とミサイル防衛を向上させるか」だとして、「反撃能力」=敵基地攻撃能力を次の目標に設定しています。
対中戦争に参戦
 「反撃能力」と言いますが、攻撃を受けて「反撃」するわけではありません。岸信夫防衛相は5月31日の参院予算委員会で、日本共産党の小池晃書記局長に対し、集団的自衛権の行使でも「敵基地攻撃」を行うとの考えを示しました。日本が攻撃を受けていなくても、自衛隊が米軍の海外の戦争に参戦し、「反撃」と称して武力行使するのです。
 米側は、既に具体的な要求を出しています。米インド太平洋軍は、「対中国」を想定した「太平洋抑止イニシアチブ」(PDI)の20年版予算資料で、九州沖から南シナ海にいたる「第1列島線」に、巡航ミサイルなどによる「精密打撃網」の構築に言及。そして、この打撃網は「増強された同盟国の地上配備兵器の参加」が前提とされています。
 既に防衛省は、奄美、宮古、石垣に陸自ミサイル部隊配備を進め、沖縄本島への配備も検討。射程を大幅に延ばした12式地対艦誘導弾をはじめ、極超音速誘導弾や高速滑空弾など最新鋭の長距離ミサイル開発に乗り出しています。これらが米軍の対中軍事戦略に組み込まれ、「反撃能力」として活用されようとしているのです。
 (竹下岳)

しんぶん赤旗2022年6月5日付

 これを読めば明白です。アメリカが「日本の軍事費を現在のGDP1%から2%に倍にせよ」と命じて、それに従っただけの話です。
 そして、現在、その財源として、社会保障削減・増税・復興税の流用などを自公政権が論じ、維新も「独自案」を出してそれを進めようとしているのです。
 そして、アメリカの言うがままに軍事費を増やし、アメリカ産の兵器を購入する約束をしているわけです。
 もちろん、そんな事をしても、「隣国の脅威」の緩和にはなりません。自公政権が反撃能力(=敵基地攻撃能力)の保有を閣議決定した直後、中国も朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)も、「日本が我々を敵視して軍拡するなら、こちらもそれに対抗する」という意味合いの談話を発表しました。いくら軍事費を増やして高額な兵器を揃えても、安全性など高まらないのです。
 一方、この方針を受けたバイデン大統領を始めとする米政府高官は大歓迎のコメントを出しています。

 繰り返しになりますが、「日本を取り巻く安全保障環境の変化」というのは、ロシアのウクライナ侵略でも、中国の軍事費増でも、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル発射でもありません。
 「我が国の兵器をもっと買え」というアメリカの対日要求の変化がその正体です。そして、その「変化」に合わせていれば、際限のない軍事費増と、その財源捻出のための増税が続くことになります。
 アメリカ言いなりをやめ、軍事力では安全は守れないという現実を認め、外交で安全を守る方針に切り替えないと、「日本を取り巻く安全保障環境の変化」=アメリカの軍事費増要求が続き、日本はさらに貧しくなります。

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