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趣旨: 町の自己肯定感について考える

作者:李 橋
  (東京大学建築意匠博士/liqiaostudio主宰)

 九〇年代に発足されたポジティブ心理学、その目標の一つである自己肯定感(Self-Esteem)は、職場や家庭においてますます注目されてきた。従来の心理学は「何でダメなの?」を答えるために、不登校やうつ病などのネガティブなテーマについて大量な研究・調査を進んできた。一方でポジティブ心理学では、さらに「どうすれば良くなるのか?」を問い、成功例を積極的に研究し、良くなる方法を科学的に導く。結論として「健全に育つ」には自己肯定感が必要であり、自己肯定感を培うには方法があることがわかった。その具体的な方法を紐解いてみても、実にコモンセンス的なものであり、「むやみに自己肯定すればいいのではなく、必要以上に自己否定をするのでもなく、自分自身の良さと悪さを素直に受け入れて向き合う」ことである。このスタンスを持って町のことを考えてみたい。

大成町二丁目夏祭り_2024.7.28

 自己肯定感と言いながら、依存型(dependent)、独立型(independent)、無条件型(unconditional)の三種類がある。それぞれは漸進する関係となり、依存型なしに独立型にならず、独立型なしに無条件型にならない。われわれは財産、名誉、好評などに恵まれると依存型自己肯定感を持つようになるのと同様に、町に関しては、学校や駅が近かったり、素敵な家庭やコミュニティに恵まれたりすると、頼りになる現代の町だと思う。では、如何に次のフェイスへ発展し、独立型自己肯定感を培うのか?もう一度ポジティブ心理学の方法に基づいて考えてみよう。

行動と認識の関係

 人間の認識は自分の行動と一致していないと気が済まないと言われている。独立型自己肯定感という認識とリンクしているのは「落ち着く」という行動であり、より独立型自己肯定感が高い人はより落ち着いていて、逆に、われわれは自分を落ち着かせることをやれば、独立型自己肯定感が高まる。人間の場合は何をやるのだろうか?瞑想、日記などの方法があるが、その本質は自分に向き合い、自分を深く知ることである。ここで、重要な原理が明らかになり、「より真摯に自分と向き合い、より深く自分を知ることにより、独立型自己肯定感が高まる」ことである。人の心理学的にそうであるだけではなく、もしかしてこの原理を「町」に応用することもできるかもしれない。つまり、町を深く研究・調査すれば、町の方々と話し合い、町の今と昔をもっと知るようになれば、町の自己肯定感も高まるのではないかと考える。当たり前のように住んでいる町は、どんどん解像度を上げて読んでみると、実は分厚い本のように奥深いものである。一瞬で思い浮かぶテーマでも多数挙げられる:町の原風景は何なのか?町の構成を如何に理解すればいいのか?中心的な施設はどんな歴史があるのか?町の区画は如何に出来上がったのか?町にはどのような種類の樹木があるのか?住宅地とは言っても、どのような多様な施設があるのか?人々は町のことをどう思っているのか?どんな問題があるのか?どういうふうに行動すればいいのか?.......これらのテーマと真摯に向き合って研究・調査・提案などを通じて、町を深く解読することは「まちづくりnote」の使命である。

筆者の紹介

1990年に中国・瀋陽生まれ
2009年に日本へ留学
2017年に名古屋大学卒業
2019年に名古屋大学大学院卒業
2021年まで日建設計 設計部門勤務
2021年から東京大学 建築意匠博士
2024年から大成町二丁目自治会 まちづくり部部長

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