常田大希を考察する-西洋音楽とJポップのはざまで(前編)
自分が常田大希さんの演ろうとしている音楽を理解するには、相当な時間をかけて考え続け、チャットGPTに仮説をぶつけて、その答えの中からインスパイアされたものを更にまた考え、キングヌーとしてデビューした頃まで遡りながら、初物となる楽曲をも併せて聴き、持ち合わせている知識を総動員して、ようやくこういうことなのか…という感じでなんとかわかるかな…というものでした
ファンの方々にはご不快に思われるだろうこととも想定していますが、自分はこういう過程を経て「それでも常田大希は2020年代に活躍する音楽家として相応しい」との結論に至るまでの過程としてご理解いただけたならと、一言申し添えさせていただきます
多くの要点を必要としたため、前後に分けて自分の思うところを書いてみる試みです
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実は、初めて『紅白』に出演したキングヌーを観たときから、常田大希さんの演っていることは自分にはあまりよくわからないものでした
2018年を境に、ミスチルさんやミスチルチルドレンと自認する人たちがつくってきた音楽とは明らかに肌合いの異なるJポップが台頭してきたとの印象を強く感じたんですが、それはまるで他の惑星に降り立って聴くような、初めて耳にする音楽との印象すらあるもので、これは到底旧世代の物差しで測るものではないとは思わされて、一旦自分の中にある過去に愛聴してきた音楽をリセットして、現役として活躍する人たちの音楽と素直に向き合うよう努めてきて結構楽しんできたのですが、それでも常田さんのやろうとしていることはわからないままでした…
ニコニコ動画で腕を磨き作り手として表舞台に出た音楽家の皆さんの演ることはわかるんです
自分は『ガンダム』の前作に富野由悠季さんが手がけた、ロボットアニメとルパン三世のミックスを目指したと語っていた『無敵鋼人ダイターン3』には夢中になり、
自分でいろいろ追求し始めた音楽とどちらを選ぶか真剣に考えた結論として音楽の方を選んだ者ですが、中学に上がるのと同時に始めた部活で目に見える成果が出始めたこともあり、『ガンダム』を観るどころじゃなかったというのもあるにはあるのですが…
長じてお付き合いした方は、プロの漫画家さんとしてデビューしたものの、表現者としては野心や覚悟がまだ若くて足りなかったのだろうと振り返って思いますが、それでもその方面の感度は極めて鋭敏で、連載間もない時期から彼女が評価した作品は100%大ヒット作となるほどの目利きでした
彼女がひどく落ち込んでしまうよりない事情があったために「自分が本当にやりたいことをやってみたら」とアドバイスしたところ、漫画家を再び目指すのかと思いきや「コスプレをやりたい」との答えが帰ってきてひっくり返るほど驚いたものです
彼女がどんどんのめり込んでいく黎明期のコスプレ界隈の事情を窺い知る貴重な経験をさせてもらい、またマンガやアニメに対する鋭い評価眼に触れてきたから、初音ミクが世に生み出されて以降のボカロPの皆さんが夢中で盛り上がっていたのには、決して積極的には注目を払って来なかったものの、なんとなく感覚として「わかる」感じはありました
それが、ボカロPの人たちがつくる音楽が人間には到底歌いこなせないものへと発展を続けていき、故にそれまでのJポップとはまったく異なるものに進化したことも、閉ざされた動画配信サイトで鎬を削って切磋琢磨を重ね続けた結果なのだろうという程度でしかない浅い理解だったとしても…
常田さんを考察するために、敢えて「序論」として触れざるを得なかった藤井風さんは、
別の出自から大変大きな成長を遂げた方ですが、こちらも音楽そのものを受け止めるように聴いてみて、なかなかすごい人が出てきたと感じさせられました
でも、常田大希さんの活動もずっと追いかけていたにもかかわらず、彼のつくる音楽は相変わらずよくわからないままでした…
そのまま「すれ違い」になっていくのだろうと結論せざるを得ないかと感じ始めたタイミングで、カルティエのトリニティ発表100周年を寿ぐイベントで発表されたチェロ組曲《祝祭》をYouTubeで視聴し、ファンの方々が気を悪くされたなら申し訳ない限りですが「なんだコレは…」という印象を強く感じ、これは東京藝大に入学した人にしては、西洋音楽≒クラシックを学んだ演奏家のするものでは到底ないとするよりとなかったのです…
これまたファンの方々には平身低頭謝った上で言うならば、ひたすら鍵盤を叩きつけるように弾き、彼一流の大仰な「顔芸」も付け加えたYOSHIKIさんのピアノを、チェロに置き換えただけではないんじゃないかと思ってしまうよりない表現と受け止める他の感想が無かったほどで…
昨年末に放映された、ピアニストの清塚信也さんの《トルコ行進曲》の演奏は、ここでその一端を視ることができますが、
残念ながら今は視聴できないようですね…
代わりに映像付きでないのが残念なんですけど、現代を代表するピアニストのアンドラーシュ・シフによるものをリンクしておきます
NHKミュージック、なぁ…
これは、Jポップもその中に含まれるポピュラー音楽とは異なる、クラシックの演奏家のする演奏はこうしたものですよと教えてくれるような素晴らしいものです
とてもサラッと弾いているにも関わらず、彼の解釈による《トルコ行進曲》が、長い間鍛錬を重ねたが故の豊かな表現力やそれを支える確かな技術と共に感じとれる極めて優れたパフォーマンスです
《トルコ行進曲》は誰でもどこかで聴いたことのあるモーツァルトの名曲なので、クラシックなんて全然わからない…という方にも何かしら感じとることは比較的容易だとも思いますよ
アンドラーシュ・シフとは全然異なる、ヘンテコリンとしか思えないから面白いのが、20世紀に大きな足跡を残し、坂本龍一さんも終生愛した変人天才ピアニストのグレン・グールドの《トルコ行進曲》で、聴き比べてみると、クラシックの演奏家による解釈によって同じ曲でも全然違ってくることが、笑っちゃうほど楽しい😃
しかしながら、常田さんは表現者としてはクラシックではなくJポップのフィールドを自覚的に選んだ方ですから、そりゃそうなるのも当たり前だろ!という反論があるのは自分もわからないではありません
しかし、この序論として取り上げた藤井風さんのタイニー・ディスク・コンサートの、この自然に沸き起こるような、肩の力の抜けてリラックスした楽しい雰囲気と見比べても、
いかにもわざとらしくてどこか不自然だなぁと感じてしまう、ケレン味たっぷりの自己演出としか見えないと《祝祭》には感じてしまうんですよね…
(後編に続く)