【 こちら『office tamura』相談部

【コラム:ある宗教家の相談室乱入のメモリー】

 そのクライエントは相談室のドアを開けるなり私を眼光鋭く一瞥してソファに座った。
宗教家:「今日はいろいろと質問に来た。私は○○という宗教団体の教会を運営している。ま あ、世に言う新興宗教の教会長です」
カウンセラー :「はい。○○教の教会長をなさっている」
宗教家:「そや」
カウンセラー :「どのようなご相談でしょうか」
宗教家:「相談に来たのやない。質問に来たのや。と言うか、文句言いに来たのや」
カウンセラー :「ほう。文句を言いに」
宗教家:「そや」
カウンセラー :「はい。お聞かせください」
宗教家:「自宅を教会にしている。
 悩みを抱えた信者さんのために大枚はたいて増築してな、 24 時間解放してる。
 信者さんは昼でも夜でも真夜中でも、来たいときにいつでも来てくれたらえ え。
 いつでも温かいにぎり飯と味噌汁を用意してな、信者さんを待ってるのや。
 何時間でも話を 聴くで。
 場合によったら、何日でも聴くのや」
カウンセラー :「うん。ご自宅の教会で、信者さんのために 24 時間」
宗教家:「そや」
カウンセラー :「温かいおにぎりと味噌汁を用意して」
宗教家:「そや。それをやな。カウンセリングなんちゃら言うのは、
『悩み聴くで、聴いたるから予 約しいや』
 ぬかして、こんなとこに呼びつけて、時間を区切って、かね取って。
 あんたら、なにや っとんのや。
 私は腹がたってるのや。怒ってるのや」
カウンセラー :「うん。カウンセリングに怒っている。腹がたっている」
宗教家:「そや」

 (宗教家は、10 分ほど激しく捲し立てたあと、急に沈黙。下を見て、上を見て、また下を見て)

宗教家:「そーかー」
カウンセラー :「は?」
宗教家:「そーかー」
カウンセラー :「え?」 宗教家:「自分の言うたことがそのまま還って来よる(苦笑)」
カウンセラー :「言ったことが、そのまま還って来る」
宗教家:「それやがな。それやがな」
カウンセラー :「それ」
宗教家:「かなわんなー。わかった。わかった。カウンセリングいうのがわかったわ」
カウンセラー :「カウンセリングがわかった」

宗教家:「あんた。悪かったなぁ。言いたいこと言うて」
カウンセラー :「いえいえ。言いたいことは自由に、遠慮なくおっしゃってくださいね」
宗教家:「そうやねんな。カウンセリングやねんな」
カウンセラー :「はい。カウンセリングです」
宗教家:「私は誤解をしていました。勉強になりました。今のこと反芻して、改めてまた来ます。 感謝します。ありがとう」
カウンセラー :「はい」
宗教家:「面接の時間、まだ早いけど、今日はこれでおいとまします」
カウンセラー :「よろしいんですか」
宗教家:「はい、失礼いたします」
カウンセラー :「あ、カウンセリング料がまだです」


※ この事例は教材にすることの許可を得ています

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