満月桃のジャム
雨が多くなって、ジメッとした日が続く頃、一時だけ市場に出回る果物がある。
私も母も大好物で、具合の良いものに出会すと使命感に駆られるようにどちらともなくいつもの買い物にプラスしてくる。
この時期なかなか目にすることがなくなる月のように黄金色。
熟し赤みがかった様はまるで太陽なのだけど、手の中で細やかな銀糸のうぶ毛に光を称える佇まいはしんとしていて、それはやっぱり月の風貌だから、満月桃。
酸っぱくて、ちょっと甘くって、とってもジューシー。
ぷつっと皮を噛み破ると華やぐような香りが溢れ、少し緻密な果肉は心地よい歯応えを持っている。
干したものはよく通年出回っているが、生はこの1ヶ月近くだけだ。
とはいっても、うちでは生のまま食べることは稀で、大体がジャムやシロップ漬けになり、季節を過ぎても私達を楽しませてくれる。
酸味が強い分、他の果物より使う糖が多いのだが、こればっかりは好みによる。
いつも通りも、多いのも、それぞれにおいしい。
先日作った3瓶のジャムは残り2瓶。一番大きい瓶がさっさとなくなってしまった。
もっと作らないとまたあっという間になくなり、秋頃に寂しい思いをしてしまう。
もう名残の季節になってきた。これが最後の入荷だというので具合の良さそうなのを選り好んで、さあ今年最後の満月桃ジャムを炊こう。
満月桃 … 8個
北砂漠の砂 … 満月桃の7割
※北砂漠の砂
北海側の砂漠の島、ササメリ島の不思議な砂糖。
粉雪舞う冬至の朝、日の出とともに島の一部の砂が甘い糖へ変わる。不思議な現象だが、年越し前にもたらされるギフトとして愛されている。
穏やかな甘味と身体を温める作用を持つ。
・満月桃に縦に一周切れ目を入れ、両手で捻って種から外す。
実を刻み、砂をまぶし暫し置く。
・種を割り、中の白い核を取り出す。
薄皮を取り、割って実に加える。
※種のなかの白い核
甘くミルキィで爽やかな香りがするため、香り付けに加える。
この香りほんとうに好き!
但し生は微毒があるため齧らないように。お腹を壊す。
・実から充分水分が出たら、火にかける。
やや強火、短時間で炊くことで香りを損なわない。
焦げやすいためへらでこまめに混ぜること!
…といいながら、夕飯の雨イワシを捌いていたら少し焦がしてしまった。
幸い砂は焦げ付きにくいため、色は濃くなったがキャラメル風味になることで済んだ。
焦がしてしまったとき、慌てて底をこそげないこと。
上の方だけを別鍋に移すか、とろみがよければそのまま瓶へ。
ちなみに、今回は砂が足りなかったため、ツルミツバチの蜜を適当に加えたため、ちょっとリッチなお味に…。