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あのヒタヒタという足音は? 白馬岳での怪異!?

あれはもう30年も前になるだろうか……6月、単独で白馬山荘から杓子岳、白馬鑓ヶ岳を経由して、鑓温泉へ下りてきた。
温泉でひと風呂あびての休憩、あと3時間も下れば猿倉。

灌木で見通しのきかない曲がりくねった山道を、黙々と歩く。
人の気配さえなく、ガスがゆっくりと流れる中を、1時間も歩いただろうか……
後ろから足音が聞こえる。
「おお、やっと人に会えるか」と、思いながら歩調をゆるめた。
しかし、その人は追いついてこない。

「まあ、いいか」と、なおも先に進むと、相変わらずその足音が聞こえる……ヒタヒタと。
立ち止まって振り向けど、人影は見えず……???
オヤ? 足音が止まった。
私が止まると向こうも止まり、前進すると、ヒタヒタと迫り来る足音。
まさか、山荘に貼ってあった行方不明者捜索願とは関係ないだろうが……。

やけに喉がかわいたので、観念してリュックの中のポリタンクの水を飲む。
「さあ、来るなら来い」と立ち上がり、おもむろに歩きはじめると、
ムッ!? そのヒタヒタが聞こえない。
ヒタヒタのかわりにチャポチャポと聞こえる。
アリャ、これはポリタンクの水の音だ。

臆病者の言い訳:温泉に入ってからの行動は、身体に変調をきたすばかりか、脳の方にも異常をきたすことがある。
水の容器が、2リットル入りの四角いポリタンクだったので、水の遊びが多かったためと推測。吹奏楽ならぬ水奏楽に踊らされていたらしい。