あなたのイランのイメージは大間違い!?『イランの地下世界』

若宮總『イランの地下世界』、KADOKAWA


タイトルを見ればイランのマフィアかなにかの話だと思うでしょうが、そうではありません。この本で書かれている「地下世界」とは、イスラムという建前に隠された、イラン国民の本音の部分です。
そもそもイスラム教の国は、毎日お祈りをしたり、食事に禁忌が多かったり、コーランを燃やされると全員が怒り狂うなどという「イスラム命!」の宗教に熱心なイメージが強いと思います。しかしイランに長年住み、日々イラン人と接している著者が語るのはそれとは真逆の世界です。
イランはイスラム法学者がイスラム法に基づいて統治するとても宗教的な国のように見えます。しかし意外にもイラン人は大変世俗的な裏の姿を持っているのです。
著者は「あれもダメ、これもダメと言いながら、実はそのすべてにちゃんと抜け道が用意されている(p95)」のだと言います。
一歩自分の家に入れば、被ったスカーフを脱ぎ捨てて男女で一緒に食事をし、禁忌のはずの酒を飲みまくり、絶対指導者ハメネイを罵倒する、イメージとは真逆の風景が広がっているのだと言います。
彼らは禁止されている衛星放送を視聴したり、VPNを使ってインターネットから情報を得て、客観的な視点で自国の政治を見ています。イランでイラン人に「この国はどうだい?」と聞かれたら、「いい国だね」と答えてはならず、「酷い国だね」と言わなければなりません。彼らは外国人に、イランは酷い国だと言って欲しいのです。(p54)
その中でも特に諸悪の根源とイラン人が考えているのが「政教一致」です。とある10歳くらいの男の子は、前出の質問をした後、著者に何が一番悪いのかと問い、「政教一致だよ」と答えたといいます。
多くのイラン人はイスラムを嫌い、仕方なく表面だけ取り繕ったり、密かに「隠れキリシタン」として生きたりしているのです。
解説を務めるノンフィクション作家の高野秀行氏の言葉を引用すると、

日本人の多くが宗教を訊ねられて「一応、仏教徒」と答えるように、彼らも「一応、ムスリム」という感覚なんじゃないか(p288)

とのことです。「イランといえば厳格なイスラム」というイメージが覆される一冊でした。

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