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「耕す市民」の力が、持続可能性を取り戻す!

 この秋、今年のコモンズ2冊目の新刊が書店に並び始めます。農の力で都市は変われるか(小口広太・アジア太平洋資料センター編著、四六判、192ページ、本体1800円+税)です。

都市の食の危機と「耕す市民」の力

 2019年、東京の自給率はついに0%台に。便利な生活の裏で食の海外依存も進んでいます。食料危機ももはや遠い国のことではありません。また、コロナ禍では貧困問題の深刻化、人付き合いの希薄化など、都市に眠る問題が次々にあぶり出され、人びとの不安感が増大してしまいました。

 しかし、農と食の社会学を専門とする著者、小口広太さんによると、一方で近年、都市の「耕す市民」も少しずつ存在感を増していて、その活動は環境・福祉・教育・まちづくりなどの分野で力を発揮しているとのことです。

著者の小口広太さん

 本書では、この都市住民による耕す営み=「耕す市民」の力に注目し、そ
の現場である体験農園(第3章)や団地のコミュニティ畑(第4章)、農家レストラン(第5章)などの活動の様子を深掘しています。

農家レストラン「青木農園 農家料理」(第5章)
青木農園のワンプレートランチ。青木農園では援農ボランティアが大活躍している。

 「農の力で都市は変われるか」という挑戦的なタイトルの本ですが、決して大げさではなく、上記で述べたような問題を解決して経済成長優先主義から抜け出して持続可能性を取り戻すために、今こそこの「耕す市民」の活動に注目すべきだという、問題意識があります。

 2022年には小口広太さんが企画し、PARC自由学校で「ポストコロナ時代のライフスタイル:都市は変われるか」という連続講座が開かれました。本書はこの連続講座を原案としています。

約20年間「食と農」をテーマに市民講座を開講してきたPARC自由学校「畑の学校」の様子

 「食料をほとんど自給できない都市」という大問題に向き合い、研究者、農家、NGO、コミュニティ農園経営者など多彩な執筆陣が、それぞれの視点・それぞれの現場から農の力がもつ可能性、包容力について発信しています。著者らが「なぜ今、農の力が大切なのか」「なぜ、暮らしを転換する必要があるのか」それぞれの言葉・視点で語る様子はとても説得力があり、読み応えたっぷりです。本書の魅力のひとつです。

 小口広太さんは、農の営みには人びとの暮らしの条件を整え、満たす力があると説明しています。人びとが「生活の質の向上」「コミュニティづくり」「都市農業、農家への理解と共感」「地域貢献」など、多面的な価値を見出すことで、「耕す市民」の活動が広がっていると分析しています。

 ポストコロナ時代の都市の未来をどのように描けばいいのか知りたい方、都市農業に関心があり、詳しく内容を知りたい方、参加してみたい方にもおすすめの一冊です。ぜひご一読ください。

目次

第Ⅰ部 都市はどこへ向かうのか
 第1章  日本における都市農業の可能性●東京を事例として 高木恒一
 第2章  都市農業の過去・現在・未来 小口広太

第Ⅱ部 都市を耕し、暮らしをつくる
 第3章  耕す力が人を育てる 小島希世子
 第4章  団地の中に畑がある生活 細越雄太
 第5章  都市で食と農をつなぐ 青木幸子

第Ⅲ部 これからの都市
 第6章  街を、人を、畑が導く 髙坂 勝
 第7章 世界に広がる農の力と都市の再生
 1. 香港の都市農業 安藤丈将
 2. 世界の連帯経済の現場から●ブラジル:フェイラ・リヴレ(自由の市)の挑戦 田中滋
 3.持続可能な未来社会の構築に向けた学校菜園の潜在力●米国カリフォルニア州の公立小学校の取り組み事例からの考察 山本奈美
 第8章  農の力で「コモンズ」を取り戻す 小口広太


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