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花筏

散れば悲しむひとひらも
散らねば何も思えない
散って悲しむその前も
愛しく思っていたはずで
 
舞うや奏でや花吹雪
去冬の名残を惜しむよう
去るや去るなと思っては
未練濡らした袖を振る
 

いつか掠れて霞んでく
そんなことは知りながら
今はそれすら寂しいのです
 

頬を伝うは花筏
流れゆくのは記憶の花弁
あなたでないのはわかってて
濡らした袖をもたげるは
無慈悲に根を張る生の幹
 

ぽつりぽつりと薄紅も
葉桜いつか山中に
馴染んで消えたと思っても
明春迎えてまたぽつり

不意によぎって忘れ雪
底花冷えの日々に立ち
上手に結えた髪の毛を
見せたい人がいない時
 

いつか褪せてもまた映える
愚かなことと知りながら
それでも今は縋っていたいのです
 

いろはに覚えた花化粧
散りゆく思いは春霞


心揺れては花嵐
舞う幾千は追憶の調べ
あなたでないのと強がって
振れない袖を濡らすのは
心でなくて春時雨

頬を伝うは花筏
流れゆくのは記憶の花弁
あなたのいない今はそう
乾いた袖をもたげるは
いつかの春の私だから

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