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ブックレビュー:ハリネズミの願い

 成人の日 朝日新聞の天声人語で「ハリネズミの願い」という本の紹介をしていた。新成人のかたへのメッセージとされている内容ではあったけれど、50過ぎのオバサンの琴線をかき鳴らすものでもあって、さっそく購入してみました。大人の童話ともいうべきお話です。
(ワタシはこの本のことを知らなかったのですが、2017年の本屋大賞で翻訳本で受賞していたことを、今回初めて知りました。知っている人にとってはおなじみの一冊なのかもしれません。)

 主人公のハリネズミはみんなを我が家にお招きしたい。でも、自分が相手を傷つけるかもしれない。あるいは訪ねてきた相手から傷つけられたくない。そんな思いを逡巡させながら、一向に実行に移せないでいる。

 本が届く前に、書評やアマゾンのレビューを読みました。高評価のものが多い一方、「ハリネズミがずーっとネガティブなままで、読んでいて苦しくなってしまう」という人や、「難しい!」という意見もあって。実際、物語の大半は「ハリネズミの家の中」と「ハリネズミの頭の中」で展開されていくのです。

 正直、ワタシが最初に読み進めたときの印象も
「うーん、読み進めていくのがしんどい」。
でも、それは自分自身のなかの「ハリネズミの気持ち」を突き付けられたからなのかもしれません。読みながら、もうイライラするわけです。

だれかとつながっていたい。でも傷つきたくない。
自意識は高くて、まだ起きてもいないのに「あの人はきっとこんな風に思っているに違いない」とか思って、先に進めなかったりするわけで。

 物語の最後の最後までハリネズミはずーっとネガティブなままでした。でも、「よかったね、ハリネズミ君」と言ってあげられる展開になりました。・・・この展開そのものが、その後のハリネズミくんをちょっとだけ変えてくれるかもしれません。社会とつながってゆくのはしんどいことだけど、疑い過ぎないことが打開策につながるのかもしれません。

 それからこの物語にはいろいろな動物が出てきます。カメはカメとして、ゾウはゾウとして。いろーんな性格の「人」を表しています。それぞれに生々しい「生」を生きているので、読んでいてなかなかにイラつきます。
でも、読み進めていくうちに、だんだん愛すべき人たちに思えてきます。

 完璧な人なんてこの世にはいなくて、それぞれに不完全なところもあって、それを補完しあうことで世の中は回ってゆくんだな。

なーんてことを、思ったりするわけです。

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