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短編小説:「幸せでありますように」

 西暦2052年
 私は、マミー資格を取得して、マミーズホームへの勤務を開始しました。

 『マミーズホーム』とは、昔の児童養護施設のようなもので、『マミー』とは、マミーズホームで子供たちの対応をする職員のことです。
 私自身も、父が亡くなったことで、高校生から大学進学そして社会人1年目までマミーズホームで育てて貰いました。

 そして、6年前に、夫を亡くし、息子をマミーズホームに入所させました。

 入所すると子供は親に会えなくなります。退所後も一緒には生活出来ません。しかしながら、親の素行に問題が無ければ、退所後には、親と会う事も、一緒に出かける事も可能です。

 子供がマミーズホームに入所している間、その親は年に1回、役所の担当者と子供が入所しているマミーズホームの職員のマミー資格取得者とで面談を行います。
 この面談を正しく行う事で、子供が退所した後に、子供と会う事の許可が得られるのです。勿論、面談に来ていても、素行が悪ければ、退所後も子供と接触する事が禁じられます。

 私は、子供をマミーズホームに入所させた後は、それまで勤務していた病院で看護師として働き続けました。
 そして、年に1度の面談も正しく行いました。私の素行は、私の知らないところで調べられていて、私は『問題無し』と評価されていました。それもあって、面談の際に、詳細は教えて貰えないけど、息子が元気にしている事を、さらっと教えて頂けていました。
 それだけでも、息子の事を知る事が出来て、私は喜びを感じていました。

 職場の同僚達は、私自身がマミーズホームに入所していた事を知っていましたし、子供をマミーズホームに入所させたことも知っていました。
 多くの同僚は、私の選択を理解して、それについては言葉にしないで過ごしてくれていましたが、中には、マミーズホームの利用について、詳しく知りもしないのに偏見を持っていて、軽蔑する態度を表す人もいました。
 だけど、私は、マミーズホームの良さを知っています。なので、そういう声に対しては「知らないだけ」なのだと考えて、その声には反応しないようにしていました。

 だけど、入院されている方のお子さんがお見舞いに来た時、外来で患者さんがお子さんを連れてきた時に。その親子の様子を目の当たりにして、私は、自分が何か失格者のように思えてしまうことがありました。
 そんな時に、区役所での面談で、息子がマミーズホームの中で、小さな子の面倒をよくみてくれているという話を聴きました。
 息子の成長を感じました。
 息子の成長が嬉しい反面、私自身は何も成長出来ていないように感じられました。
 それから、職場で見た患者さん親子の様子を思い出して、息子の成長を見守りたいと思いました。
 だけど、マミーズホームの利用ルールの為、私は息子と一緒に生活する事は出来ません。息子が退所するまで面会する事も出来ません。
 私が成長する為に、子供の成長を見守りたいと、強く思うようになりました。
 そして、私は、マミー資格を取得することにしました。
 看護師として働きながら通信制の授業を受けて、最後の1年間は実習が必要になるので、看護師を辞めて、マミー資格取得へ向けて勉強をしました。
 その甲斐あって、私はマミー資格を取得出来ました。それは、看護師の仕事をしていた事も役に立っていました。

 今、私が勤務するマミーズホームには、12人の子供たちが入所しています。そして、同僚のマミーは、24人です。とは言っても、マミーは三交代制なので、24人が一緒に居るわけではありません。
 子供2人に対して、1人のマミーが対応します。子供のペアの組み合わせも、担当するマミーも、組み合わせが変化するので、最終的には、マミーズホームの全員と関わり合いを持ちます。
 新生児の場合は、新生児1人に1人のマミーが付きます。或いは、大学生もしくは就職した子供がペアとなり、大学生などの大きな子供がマミーを手伝います。その手伝いの経験が、将来的に自らの子育ての役に立ちます。
 私は、看護師の経験と我が子が赤ちゃんだった時の新生児育児の経験があるので、新生児から就職した子供まで担当する事が出来ます。
 又、障がいのある子どもは、同じ敷地内にある別の建物で、専門的な対応が出来るチームが担当しています。
 同じ敷地内なので、お庭や講堂などで、子供同士のコミュニケーションが取れる時間を設けています。それぞれにとって、良い経験になっています。

 マミーとして勤務を始めた頃に、沢山の子供達と接している中で、小さな男の子を担当すると、息子と重なって見える事がありました。
 だけど、同じ小さな男の子でも、皆個性が違って、息子と同じではありません。
 そのうちに、息子はどんな感じに育っているのか想像することはあっても、小さな男の子を息子と重ねるような事は無くなりました。
 みんな其々に、子供たちには個性があります。皆違っていて、私自身が勉強をさせて貰っています。

 それから、私の勤務するマミーズホームには、私が入所していた時にお世話になった小百合マミーがいました。
 今は、同僚なのです。
 小百合マミーは、前職が学校の先生のせいか、沢山の子供に接してきたこともあって、子供が書く字で子供の性格が分かったり、子供の人格から、適職を言い当てたりして、子供が進路に迷っている時に、ピンポイントで職種を限定する事はありませんが、その子の向いている職業を丁寧に説明してアドバイスされています。さすが、元教師だなと思います。
 先日も体の大きな男の子で、ついパワーが有り余って物を壊してしまう子に、小百合マミーは「あなたは、正義感があって体力があるから、警察官や消防隊員などが向いているかもしれないわね。なるには勉強も必要よ」と声を掛けていました。すると、その子は、その後からの言動が正義感に満ちて、他の子が子供同士で叩きあったりしていると、仲裁に入るようになりました。そして、筋トレを習慣にしたり、マミーズホーム内の学習塾でも真剣に勉強に励むようになりました。目標を見つけたことで、ゴールを目指して進めるようになったようです。
 小百合マミーの子供達への助言は、『適性適合検査』の結果とも合致していて、凄いなと思います。
 それから、小百合マミーが私に教えてくれたのは、『人相』に人格が出ているという事。沢山の子供を見て、自然と身に付けるようにとアドバイスをくれました。
 確かに、ある子供が入所したての頃は、常に怒ったような顔をしていて、他の子供たちにキツク当たっていたのが、マミーズホームに慣れて、他の子供達とも遊べるようになってくると、怒った顔ではなくなって、穏やかな顔になりました。そして、他の子に優しく接するようになりました。
 又、マミーの前では笑顔でも、(この人相はどうかな?)と思う子供は、私達マミーが見ていないところで、他の子供に意地悪をしていたという事もあります。
 そういう子供は、なぜ意地悪をするのかを確認します。
 意地悪というのは、意地悪の被害者の問題では無く、意地悪をしてしまう子供側に問題があるのです。その問題を出来るだけ解決して、社会に送り出すようにしています。

 本当に、子供達には、色々な違いがあります。
 この子供たちが、皆。幸せな人生を生きられるように、願っています。

 それは、私にとって、我が子への罪滅ぼしの意味もあるのだと思います。
 だけど、この頃では、目の前の子供達の幸せが、私の幸せになっていると実感しています。
 この子供たちが幸せなことが、私の幸せなのです。

どこかで息子も幸せでありますように・・・。

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