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短編小説:「マミー制度」

西暦2033年
『マミー制度』開始。
それに伴い、児童養護施設に替わって、『マミーズホーム』という施設の運営が開始。

『マミーズホーム』概要
立地:
 『マミーズホーム』の立地は、公立の小学校または中学校の隣であること。
又、それらから徒歩5分圏内に公立の病院、あるいは、それと提携している中規模の民間の病院があること。
(中略)
講堂の設置:
『マミーズホーム』内には、講堂を設け、地域の自治体の集会などに利用する。
又、それ以外に、施設の利用対象の子供および近隣の住人の子供を対象とした、自習型学習塾として利用される。
利用対象者(入居者):
 『マミーズホーム』には、保護者のない子供と子育てが困難な家庭の子供が入居する。
入居する子供は、0歳児から大学院生まで。しかしながら、故意に就職する事を拒否する者を制限する為に、最長で実年齢が28歳までとする。
(中略)
利用対象者(入居者以外):
 過去に性犯罪及び子供に対する悪戯・犯罪行為をした者を除く。その地域住民および自治体関係者。
 (中略)
職員:
1)マミー資格者
 『マミー資格』を取得した職員が主に子供たちを担当する。(以降『マミー』と記す)
 マミーは、同時に2人の子供を担当する。
マミーは、三交代制勤務である。
よって、利用対象である子供は、1日に3人のマミーに担当される。
マミーは、利用対象の子供に対して、一般的な家庭と同じように、食事の調理と後片付け、掃除、マナー教育などを行う。
又、子供がそれらの家事を手伝える程度になった場合は、それらの家事を子供に手伝いをさせる、あるいは、自発的に行わせることが出来る。
(中略)
2)進路指導資格者
 『マミーズホーム』専属の進路指導資格者を1人おくこと。
 利用対象の子供それぞれに最適な進路相談・指導を行う。
 面談はマミーの立ち合いの下で行われる。又はそれに子供が通学する学校の教員も加えて参加する事を認める。
1) 及び2)の職員は、簡易的な医療行為(応急処置)の訓練を定期的に行う事。
1) 及び2)の職員は、法に定められた資格更新が正しく行われること。それを怠った場合は、刑事罰(行政刑罰)の対象となる
親との接触の禁止:
 入居中の子供に対して、親、保護者、親族など、その他親密な関係の者との面談及び連絡を禁ずる。
 又、利用対象の子供は、マミーズホーム入居後、将来的に実際の親や保護者との同居が認めらない。これは、成人となっても同じ。
 (後略)

 私は、国家資格である『マミー資格試験』を合格し、マミー第一号として、働き始めました。
 私は元々、看護師の資格を持っていたので、資格取得の際に、看護に関する部分の単位が免除されました。他の、医師、教師、保育士、前の制度の児童養護施設の時の児童指導員などの資格を持っている人達は、同様に一部の単位が免除されました。その為、私達マミー第一号の人達の多くは、それらの経験がある人が多くいました。
 しかしながら、実際のマミーの仕事は、専門的な知識よりも、日常的な生活力が必要な職業で、炊事洗濯掃除などの能力が一番重要なものでした。
 マミーズホームは、以前の児童養護施設とは大きく異なり、マミー1人が同時に2人の子供を担当します。
 三交代制で、早番は、午前6時からの勤務になります。
 例えば、担当する子供が小中学生の場合。子供たちは2人ずつの部屋で夜を過ごします。担当する子供たちが、まだ眠っている間に、遅番のマミーと交代します。そして、朝食の準備をします。それから6時半から7時の間に、担当する子供を起します。子供が起きたら、顔を洗うように指導し、歯磨きなど口をすすぐように指導します。それから服を着替えさせて、子供達とマミーの三人で揃って朝食を食べます。その後は、子供たちが身支度を整えている間に、洗濯を開始します。出来れば、朝食の食器を洗う(と言っても食洗器にセットする)ところを子供たちが感じるように行います。そして、子供たちを学校へ送り出します。送り出した後は、洗濯や部屋の掃除をして、担当する子供の朝の様子の記録を残します。時間に余裕がある時には、花を生けたり、何か小物を作ったりと、余暇の雰囲気を感じさせる部屋にします。その後、中番のマミーと午後2時に交代します。
 そうです。多くの一般的な家庭の朝の様子を再現するのです。
 中番のマミーは、おやつの準備や、夕食の準備をします。場合によっては、子供と一緒にそれらを作ります。又、マミーズホーム内の講堂で自習型学習塾を行っている時には、それに子供たちを行かせて、勉強をさせます。夕食は朝と同様に子供達とマミーの3人で食べます。そして、後片付けの手伝いを子供達にもさせます。小学4年生までの子供は、一緒にお風呂に入ります。お風呂の使い方や体の洗い方を教えます。マミーの中で他人とお風呂に入る事に拒否反応を覚える人は、このお風呂の業務は免除され、他のマミーが担います。又、お風呂に一緒に入るマミーはシスジェンダーで子供と同性のマミーが担います。又、一緒にテレビを見たり、宿題をみたり、そういった仕事もします。
 遅番のマミーは、22時に交代します。小学生は基本的には21時までに就寝させますが、中学生以上の場合は、勉強をしていることがあるので、夜食を用意することもあります。又、ゲームや友達と連絡をとりあったりしていて、夜更かしをしている場合は、指導をします。

 それぞれに、子供と会話する時間を確保し、相談事などがあれば、親身になって聴きます。
 又、マミーの中番の交代の時間と一緒に、子供同士のペアも換わります。しかしながら、同じ施設内の子供達でのシャッフルなので、暫くするとローテーションのようになって、子供同士も多くの子供に慣れていきます。

 又『マミーズホーム』は、子供たちの『適性適合検査』の結果別に、入居する施設が分けられています。しかしながら、それを区別する名称は使用しません。
 身体的障がいについては、私のように看護師経験のある者の得意分野となります。勉強については、私が教えてあげられる事はありませんが、学習塾の利用を促す事や、進路相談等のサポートに全力を尽くします。そして、その子が、将来的に知能を活かして活躍できることを私自身が夢見ています。
 又、精神障がいと、知的障がいや発達障がいは、別のカテゴリーとして対応していきます。それぞれにあった専門的な能力が高いマミーが担当します。
 私からすると、私の担当する子供達よりも、対応するのに高度な能力が必要となり、専門的な対応というのは難しいと思いますが、その分、給料も高額であり、何よりも彼らは「やりがいがある」と言って、私よりも更に志が高い人たちなので、私は彼らを尊敬しています。
 障がいの有無にかかわらず、子供たちは一人ひとり皆違っています。
 私自身は、上が娘、下に息子の二人の子供を育てました。娘も息子も社会人で独立しています。私の実の子供達も、2人とも全く違いました。更に、マミーズホームの子供達は全然違います。
 私達マミーは、子供達の事を理解する為に、たくさんの会話を子供達とします。又、それによって、子供達には『言葉にしないと伝わらない』という事を分かって欲しいと考えています。

 申し遅れました。私は、篠田海(しのだまりん)と申します。

 元々、開始当時のマミー制度では、入居中の子供は保護者との面談が許可されていました。
 現行のルールになったのは、保護者の問題行動が原因でした。マミーズホームで子供に提供した備品を保護者が持ち帰る、即ち、窃盗行為が行われました。又、面談の際に、子供に対して暴言を吐いたり、脅迫めいた発言をする者がいました。
 入居中に悪質的な保護者との面談を行い続ける事は、脅迫や洗脳が継続すると判断され、一切の面談や手紙やメールなどでの連絡が禁止されました。
 その親子の面談などを禁止する事に対して、反対意見を言う人が目立つことがありますが、私は、禁止した方が良いと考えています。
 それらの反対意見を言う人たちは、実際の状況を知らないから反対できるのです。
 勿論、子供に対して愛情が深く、子供に危害を加えない保護者もいます。しかしながら、そちらは許可して、あちらは許可しないとなると、許可されない子供達は、許可される子供との違いをストレスに感じてしまいます。その為に、全体として禁止する必要があるのです。

 私は、しみじみ思うのです。
 『保護者』とは、なんなのか。
 妊娠して、子を出産したら、それを『保護者』というのでしょうか。
 女性を妊娠させて、その子が生まれたら、それを『保護者』というのでしょうか。
 子供と一緒に暮らしているだけで、それを『保護者』というのでしょうか。
 私達マミーは、子供たちを守り、子供たちの将来の事を考えて育てています。しかしながら、マミーは職業であり、『保護者』とは呼びません。
 そこに、何か、虚しさを感じる時があります。

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