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ソジャーナ・トゥルース 14イザベラ母になる

「泣いているのは誰の子?」と思わず突っ込みたくなる、優しいご主人。

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 数年たつうちにイザベラは五人の子の母になり、自分を抑圧する者の財産を増やせることに喜びを感じていた! 自らの「肉の肉」であるわが子を喜びいさんで奴隷制の祭壇に差しだし 、「母親の涙と子どもたちの血に塗れた魔王」モレク(訳注:古代中東で崇拝された神)に捧げる母親の姿を、親愛なる読者はひるむことなく想像してほしい! しかし、そうした生贄を捧げることができるのは母ではなく、「もの」であり「動産」である「財産」なのだ。

 しかしこの時からわれらの主人公は、動産から、女性と母親である存在へと変貌をとげた。イザベラが当時の無知で貶められていた自分の考えや気持ちをふり返るのは、まるで悪い夢の恐ろしい光景を思い返すようなものだ。怖い幻影のように感じられることもあれば、凄まじい現実のように思えることもある。悪夢のような神話であればどれだけよかっただろうが、これは三百万人もの奴隷が今なお置かれている、悲惨な現実なのだ。

 イザベラが身をもって例を示し、子どもたちが盗みを働かないよう教えたという話はすでにした。彼女はとても文字には表せないうめき声をあげながら当時をふり返る。「パンを下さいと言えず盗るわけにもいかず、あの子たちにはずいぶんひもじい思いをさせました。何度そんなことがあったかは、神さまだけがご存じですよ」

子どもたちに言い聞かせることと反対のことをしている親たちは、彼女の例を見習うがいいだろう。

 もう一つ、主人の優しさを示す例がある。彼が帰宅して赤ん坊が泣いていると(赤ん坊の世話をしながら夫人の指示にいつも従うことは無理だったから)、妻に非難のまなざしを向けて、なぜ赤ん坊がほったらかしになっているのかと聞いた。さらにはきつくこう告げた。「もう泣かせるな。赤ん坊の泣き声はもううんざりだ。これからはどの子どもも泣かせないようにしてもらおう。さあベル、ちゃんと面倒をみてやりなさい。一週間くらい家の用事ができなくてもいいから」さらには自分の指示が覆されることなく守られるよう、イザベラのそばで見ていた。 

 イザベラが野良仕事に出るときは、赤ん坊を籠に入れて取っ手に縄をゆわえ、木の枝からぶら下げて上の子に子守りをさせた。こうすればヘビなどに襲われることなく、ほかの仕事をするのは小さすぎる子でも赤ん坊をあやしたり、寝かしつけたりすることができた。著者はまた、インディアンの母親がやはりハンモックに病気の子どもを入れているのを見て感心したことがある。私たちの文化的なベビーベッドよりも優れた工夫で、子どもをちょうどいい具合にゆらすことができるのだ。ハンモックは高い位置に吊ってあるから、子守りがかがみこむ必要もなかった。

14イザベラ母になる 了 つづく

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