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タバコの銘柄を変えられない。

タバコを吸っている人にとってはあるあるかもしれないが、近所のコンビニの店員さんは僕のタバコの銘柄を覚えて下さっている。

だからと言って決して常連ぶって「いつもの」とは注文しない。タバコの棚に視線を向け、あたかも自分の銘柄を探すように「あの〜」と言うと、全てを察していつものタバコを持ってきて下さる。

この過剰な程のよそよそしい演技は、常連ぶる奴くらい鼻に付く所作な気がするが、そんな僕に対しても嫌な顔一つせず、いつものタバコを持ってきてくれるのだ。

そんな仕事熱心で優しい店員さんだからこそ困ったことに直面している。

タバコの銘柄を変えられないのだ。

何食わぬ顔で他のタバコを注文しようとしたとする。しかしタバコを注文しようとする素振りだけで、その店員さんはいつものタバコを持ってきてしまう。

「実は変わったんです。」

と、言えたら良いのだが、言えない。

毎日買うわけでもない一人の客のタバコを覚えているくらいだ。相当真面目で仕事熱心な方に違いない。だからタバコを変えたらまた改めて覚えてくれるよう努めてくれるだろう。僕によって新たな労力を生んでしまうと思うだけで「実は変わったんです。」なんて気軽に言えたものじゃない。既に金額以上のサービスを享受してしまっているのだ。これ以上求める立場に無い。もし海外のようにチップがあったら気軽に変えれたのかもな、なんて思ったりもする。

そしてもう一つ、ただただ自分の変化を人に伝えたり、察されるのが苦手なのだ。

例えば高校に入ってから急激に垢抜けたり、態度が大きくなったりする人がいたとする。「高校デビュー」なんて揶揄されたりするその変化を見ていて、色々考えてしまうのだ。かつての友達が変わってしまった悲しみもあるし、新しい環境に合わせることに必死でその人自身は無理をしているのでは無いか?と余計な心配をしてしまう。それを本人に伝え、身ぐるみを剥がすようなことは出来ないから、勝手に妄想を膨らまし、色々と勘ぐってしまうのだ。

そんな僕のように面倒臭い奴に変化を勘繰られたく無いのだ。メタによって自らの首を絞め、必要以上に変化を嫌う性格になってしまった。だから下手に髪型さえも変えられない。たとえ褒め言葉でも変わったと言われることに身体中が痒くなるのだ。高校デビューで頑張っている奴より、自分の心配をした方が良い。

これは友達に限らず、赤の他人でも発生する。
だからタバコ一つ変えるのにも一苦労なのだ。

おもてなし文化と考えすぎる人間は相性が悪いのかもしれない、と書いていて思った。無愛想なラーメン屋や居酒屋に居心地の良さを感じるのはそういうことだったのか。

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オヌ
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