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界隈(かいわい)消費

Z世代が牽引する新しい消費トレンド

界隈消費は、特定の趣味や嗜好を持つ人々のコミュニティ(界隈)内で行われる独特の消費活動を指します。この現象は主にZ世代の間で広がり、従来の大衆向けマス消費とは異なる特徴を持ちます。共通の関心事や価値観を軸に形成されたコミュニティ内での共感や連帯感が消費行動を促進し、単なる物質的な満足を超えた意味を持つ点が特徴的です。SNSの普及により顕著になったこの消費トレンドは、コミュニティへの帰属意識を示す手段としても機能しており、個人的な欲求充足よりも共感と共有を重視する新たな消費文化として注目されています。

界隈消費の定義と概要

界隈消費とは、特定のコミュニティやグループに属する人々が共感や連帯感を軸にした消費行動を行うことを指します。ここでいう「界隈」とは、共通の趣味や価値観、世界観を持つ人々で構成されるゆるやかなコミュニティのことです2。この消費形態は、単に商品やサービスを購入するだけでなく、その消費行動を通じてコミュニティへの帰属意識を示したり、仲間との繋がりを深めたりする社会的な意味を持ちます1

界隈消費という言葉が広く認知されるようになったのは、SHIBUYA109 lab.による「SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2022」でこの言葉がランクインしたことがきっかけです6。15~24歳のZ世代の間でトレンドになったもののひとつとして取り上げられ、これまでのコロナ禍でのクローズドな環境で楽しまれる消費から、「行動範囲は広がったものの、深く狭いコミュニティを重視する」傾向が見られるようになりました6

界隈消費の本質は、従来の「流行に左右されるマス消費」や「単発のインフルエンサープロモーション」による購買とは異なり、コミュニティ内での共感と信頼が購買動機の原点となっている点です7。商品そのものの価値だけでなく、その商品を取り囲む世界観や価値観、そしてそれを共有する「人々」とのつながりが重視されるのが特徴です。

界隈消費の主な特徴

界隈消費には、従来の消費行動とは異なるいくつかの顕著な特徴があります。これらの特徴を理解することで、なぜこの消費形態がZ世代を中心に広がっているのかが見えてきます。

コミュニティへの帰属意識

界隈消費の最も顕著な特徴は、コミュニティへの帰属意識が消費行動の大きな動機となっている点です。同じ趣味や価値観を持つ人々との繋がりを求め、界隈に属することで安心感や共感を得ることができます1。例えば、K-POP界隈では推しグループの応援棒などのグッズを持っていることが当たり前という風潮があり、同じグッズを持つことで「自分はこの界隈の一員である」という意識を高め、界隈内の他者との連帯感を強化することができます4

情報感度の高さと相互影響

界隈内では、特定の分野に関する情報が活発に交換されます。口コミやSNSを通じて、新たな商品やサービスの情報が瞬時に広まり、消費行動に大きな影響を与えます1。また、界隈内での口コミや推奨によって、消費が連鎖的に広がっていくのも特徴です。インフルエンサーの影響力も大きく、彼らが紹介した商品やサービスは爆発的に売れることもあります1

界隈消費は、あるコミュニティの中で支持されているトレンドが徐々に他のコミュニティにも伝わり、複数の界隈に広がっていくという特徴も持っています3。これにより、最初は小さなコミュニティ内での流行だったものが、次第に大きなムーブメントへと発展することがあります。

熱量の高い消費行動と体験重視

界隈消費では、好きなものに対する情熱が高く、グッズ購入やイベント参加などにお金を惜しまない傾向があります1。限定商品や特別な体験には、高額であっても積極的に投資することが見られます。また、商品そのものだけでなく、その商品を通じて得られる体験や感情を重視する傾向があります1。例えば、アイドル界隈ではライブへの参加や聖地巡礼など、思い出や感動を共有することが消費の大きな目的となっています。

共感駆動型とコミュニティ内対話型

界隈消費は、単なる「有名ブランドだから買う」ではなく、「自分と同じ悩み・価値観を持つ人たちが支持しているから買う」という共感や信頼が購買の原点となります7。また、情報は信頼する仲間内で共有され、疑問点や使用感、使い方のコツなどがコミュニティ内で循環します7。これにより、消費行動は一過性の「流行消費」ではなく、長期的な関係性や信頼を基盤にした「定着した購買習慣」へと進化していきます。

界隈消費が注目されている背景

界隈消費が注目されるようになった背景には、デジタル技術の発展とZ世代の価値観の変化があります。これらの要因が複合的に作用し、新たな消費形態が生まれました。

SNSとデジタル技術の普及

界隈消費が注目されるようになった背景には、SNSの普及が大きく影響しています2。特にアルゴリズムによる情報の最適化が、特定の興味や趣味を共有する人々を自然に結びつけ、自然とコミュニティが形成されるようになりました2。こうして形成されたコミュニティ内で発生する消費行動が界隈消費と呼ばれ、多様な文化や価値観が共有されるプラットフォームとなっています。

またスマホの普及やITの進展による情報量や入手経路の多様化も、界隈消費が生まれた大きな背景です5。これにより、若者たちがより簡単に自分の興味関心に合ったコミュニティを見つけ、参加できるようになりました。

Z世代の価値観の変化

界隈消費が広がっている主な担い手はZ世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)です。この世代は、インターネットが利用可能な環境のもとで生まれ、いわゆるデジタルネイティブの始まり世代です。携帯電話やスマートフォンとともに育ち、SNSにも親しんできたことから、ソーシャルメディアでのコミュニティ形成を重視する特徴があります6

Z世代の間では、いわゆる「万人受け」するものよりも、自らが所属する深く狭いコミュニティの間で共有できるものを大切にしたいという価値観が主流となりつつあります5。この価値観のもと、画一的なトレンドを追うのではなく、「〇〇の界隈では流行っている」のような、一部の界隈で強烈に支持されるものを好み、価値を見出すような消費行動が界隈消費として広がっています5

また、消費の目的が物質的な満足ではなく、所属するコミュニティへの貢献や他者との共感の共有にシフトしている点も特徴です2。これは従来の消費とは大きく異なる価値観に基づいています。

界隈消費の具体例

界隈消費は多様な分野で見られます。その具体例を見ていくことで、界隈消費の実態をより深く理解することができます。

アイドル界隈の消費

アイドル界隈は、界隈消費の代表例と言えるでしょう。応援するアイドルのため、様々な消費活動が行われています1

コンサートで使用するペンライトやうちわ、アイドルの写真集やCD、メンバーがプロデュースしたグッズなど、様々なグッズが販売されています。限定グッズや特別なイベントでしか手に入らないレアなグッズを求めて、多くのファンが消費を行います1

ライブや握手会、サイン会、舞台挨拶など、アイドルと直接触れ合える機会に参加するために、チケット代や交通費、宿泊費などを費やします。人気のイベントになると、チケット入手も困難になり、高額転売が行われるケースも少なくありません1

会報や限定コンテンツの閲覧、チケットの先行予約などの特典を得るために、ファンクラブに入会するファンも多いです。継続的な会費の支払いが発生します1

アイドルの誕生日を祝うイベントや、コラボカフェなどが開催され、ファン同士の交流の場ともなっています。特別なメニューや限定グッズなどが販売され、多くのファンが訪れます1

K-POP界隈の消費

K-POP界隈でも同様の消費活動が見られます。推しグループの応援棒をはじめとするグッズを持っていることが当たり前という風潮があり、同じグッズを持つことで連帯感を高めます4。また、推しのライブストリーミングなどに対して、スパチャ(スーパーチャット)や投げ銭などの行為が盛んに行われることも、界隈消費の特徴的な行動として挙げられます4

特別感を演出する場の消費

住所非公開カフェや会員制カフェなども界隈消費の具体例です。東京都内には、口コミ情報を頼りにしないとたどり着けないような住所非公開のカフェが存在します5。このような運営スタイルにより「自分たちだけが知っている場所」という特別感を演出することができ、若者からの支持を受けています5

これまでのように、あらかじめスマホで目的地を調べてから店に向かうのではなく、このような隠れ家的な居場所に意図せず出逢える楽しみも界隈消費の魅力の一つです5

ファッションにおける界隈消費

ファッション分野でも界隈消費の例が見られます。例えば、「SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2022」のファッション部門で1位になったアームカバーは、もともと「Y2Kスタイル(Year 2000=2000年ごろのファッションスタイル)」としてストリート界隈で欠かせないアイテムとして取り入れられていました6

その後、Z世代のガーリーなファッションテイストにも取り入れやすいレース素材やメッシュ素材、カラフルな色使いのアイテムとして登場し、アームカバーを付けることで手元にボリューム感が出て華奢に見えることも魅力として広がりました6。「ストリート界隈で圧倒的に支持されていたアイテム」に価値が見いだされた結果として、界隈を超えて広がった例と言えます。

従来の消費行動との比較

界隈消費と従来の消費行動には、動機や価値観、影響範囲など多くの点で違いがあります。これらの違いを明確にすることで、界隈消費の特徴をより深く理解することができます。

消費の動機と価値観の違い

従来の消費行動は、自分が欲しいものを購入する、自身の感じている課題に対する解決策として消費するというのが一般的でした4。このプロセスには基本的に他者は存在せず、消費が他の行為の代替となることはありませんでした4。例えば、リップグロスを購入する際、同じような質感でより安価なもの、もしくは手に入りやすいものがあればそちらを購入する可能性は十分考えられます4

一方、界隈消費では「共感」や「つながり」を重視し、消費が自己表現やコミュニティ貢献の手段となっている側面があります4。自分が欲しいかどうかといった判断基準に加えて、それを購入することで界隈の一員としてどのような影響があるか(界隈の人と同じグッズを購入することで連帯感を得られる、投げ銭をすることで界隈内での話題になる、推しが使っている/おすすめしているものを購入することで愛を表現できるなど)も判断基準の一つとなります4

そのため、話題になっているリップグロスに似たようなものがあったとしても、界隈の人と同じ製品であることや推しが使っているものと同じ製品であることに価値があるため、代替品を購入することは基本的にありません4。従来の消費行動がコストパフォーマンスや汎用性を重視するのに対し、界隈消費ではコスパが悪くても好きなもの(界隈に関係あるもの)であれば購入する傾向があります4

影響範囲と消費行動の位置づけの違い

従来の消費行動の影響範囲は、基本的に家庭や個人の範囲に留まりますが、界隈消費ではSNSや界隈内の不特定多数に共有されることが前提となっています4。また、従来の消費行動が自己の満足や生活の改善を目的としているのに対し、界隈消費ではコミュニティへの貢献や自己表現という位置づけを持っています4

このような違いは、SNSや推し文化の台頭、特定の価値観を共有する場が増えた現代社会の変化を反映しています4。界隈消費が従来の消費行動と大きく異なる点は、消費行動そのものが持つ社会的・文化的な意味合いが強まっていることと言えるでしょう。

界隈消費から見える未来の消費行動の展望

界隈消費の広がりは、今後の消費行動やマーケティングにどのような影響を与えるのでしょうか。ここでは、界隈消費から見える未来の消費行動の展望について考察します。

より細分化された市場への対応

新しい時代のカルチャーを作っていく若者の消費動向への理解を深めることで、ビジネス展開をする上でのヒントが見えてきます5。界隈消費の広がりは、市場がより細分化され、特定のコミュニティに特化した商品やサービスの需要が高まることを示しています。

マーケティング分野においては、今後より一人ひとりの生活環境や嗜好に合わせた綿密な情報収集や、特定のターゲットに絞った「狭く深いビジネス戦略」が求められていくと考えられます5。従来の大衆向けマーケティングだけでなく、特定の界隈に深く入り込み、そのコミュニティの文化や価値観を理解したうえでのマーケティング戦略が重要になるでしょう。

コミュニティとの共創

界隈消費の特徴として、コミュニティ内での情報共有や対話が重要な役割を果たしていることが挙げられます7。これからの企業は、一方的に商品やサービスを提供するのではなく、コミュニティと共に価値を創造していく「共創」の姿勢がより重要になると考えられます。

コミュニティのメンバーの声に耳を傾け、彼らの意見や提案を取り入れた商品開発や、コミュニティ内での評価を大切にするマーケティング戦略が求められるでしょう。また、コミュニティのメンバー同士が交流できる場を提供することも、企業にとって重要な役割となる可能性があります。

SNSを活用した新しいマーケティング手法

界隈消費においては、SNSが情報共有やコミュニティ形成の重要なプラットフォームとなっています2。今後は、SNSを活用した新しいマーケティング手法がさらに発展していくことが予想されます。

特に、特定のコミュニティ内でのインフルエンサーやオピニオンリーダーとの協業や、コミュニティ内での口コミを促進するような施策が重要になるでしょう。また、SNSのアルゴリズムを理解し、特定の界隈に効果的にアプローチするための戦略も必要となります。

結論

界隈消費は、Z世代を中心に広がる新しい消費トレンドとして注目されています。特定の趣味や嗜好を持つ人々のコミュニティ内での消費活動であり、コミュニティへの帰属意識や共感、連帯感を重視する点が特徴です。

SNSの普及やZ世代の価値観の変化を背景に生まれたこの消費形態は、従来の個人主義的な消費行動とは異なり、消費を通じてコミュニティへの参加や仲間との繋がりを求める社会的な側面を持っています。アイドル界隈やK-POP界隈、特別感を演出する場の消費、ファッションにおける界隈消費など、その具体例は多岐にわたります。

今後のマーケティングにおいては、より細分化された市場への対応やコミュニティとの共創、SNSを活用した新しいマーケティング手法の開発が求められるでしょう。界隈消費の理解を深めることは、Z世代を中心とする現代の消費者の心理や行動を把握し、効果的なマーケティング戦略を立てるうえで非常に重要です。

界隈消費は単なる一時的なトレンドではなく、デジタル時代における新しい消費文化の形として、今後も発展していくことが予想されます。企業や団体は、この新しい消費形態を理解し、適切に対応していくことが求められるでしょう。

引用:

  1. https://in-hous.com/neighborhood/

  2. https://www.issoh.co.jp/column/details/4535/

  3. https://seminars.jp/media/1048

  4. https://degipro.com/blog/kaiwai-shouhi/

  5. https://dime.jp/genre/1590129/

  6. https://the-owner.jp/archives/15629

  7. https://note.com/osake1st/n/n8bd53409d626

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