一年に2度、思い出す彼女
春と秋が来ると思い出す彼女。
小学校の時に、ほんの少しの間だけ仲のよかった彼女。
あれは3年生か4年生だったか、それも定かではない。
まみちゃんは休憩時間にいつも本を読んでいて、
真面目で凛とした子だった。
まみちゃんと私は週に何回か、お互いの家を行き来して遊んだ。たまにはふらりと散歩に出て公園でブランコを揺らして話をした。
春休みのある日も私と彼女は公園にいた。
早めに咲いた桜がとても綺麗で、
何の気なしに「枝を一本持って帰りたいなぁ」とこぼすとまみちゃんは「公園の木を勝手に折るのは絶対にダメだよ!」と強めの口調で答えた。
その日は珍しくクラスの他の子たちが同じ公園に集まり、即席のドッジボール大会が始まった。
試合は白熱して暗くなるまで遊んでしまった。
ふと時計を見ると5時半。
彼女の門限は、5時だった。
まみちゃんは時間を確認すると「ティヌちゃん、どうしよう…お母さんに怒られちゃう…」と青ざめ、一緒に家まで来てほしい言った。
私は頼られたことが嬉しくて「大丈夫だよ!一緒に謝ろう!」と彼女の手を取った。
彼女がお母さんに謝るのに合わせてお辞儀でもしておけばいいだろうと甘く考えていた。
しかし、
初手から怒鳴り口調のお母さんを前に怯え切った彼女は
いつもの凛とした姿はどこへやら泣きじゃくりながらはっきりこう言った。
「帰りたかったけど、ティヌちゃんがどうしてもいてって言ったの!!!」
ショックだった。
友達をこんなあっさり、本人のいる前で悪者に仕立て上げるのかとショックだった。
お母さんは私を一瞥すると「あなた、もう帰っていいよ」と言ってまみちゃんを玄関に引き摺り込んでバタンと扉を閉めた。
春休みはそのまま明けて、
新学期から違うクラスとなった私とまみちゃんは口をきかなかった。
廊下ですれ違ってもお互い気づかないふりをした。
そのうちに段々と心のしこりもなくなり、私はマミちゃんのことを気にも留めなくなった。
季節は流れ秋になった。
金木犀が甘く香る中、友達と公園で遊んでいると私を呼ぶ声が聞こえた。
まみちゃんだ。
手には金木犀の枝を持っている。
「あのね、ごめんね。」そう言って彼女は私に金木犀の枝を渡した。
突然話しかけてくれたことに驚いた私は照れ隠しに聞いた。「これどうしたの?」
すると彼女は
「ティヌちゃんが好きだって言ってたから。本当にごめんね」と泣いた。
金木犀が好きだと言った覚えは全くなかったが、
私とのきっかけを作るために、真面目な彼女がルールを破って折ってくれた枝がとても愛おしく思えた。
金木犀はわたしの大好きな花になった。
春と秋が来ると思い出す。
本が大好きで色白ですぐ顔の赤くなる、まみちゃん。
今年ももうすぐ桜が咲くよ。