vol.15 5月13日・顔が痒い
「なんで困った顔をしてるの?」
朝、起きると妻にそう言われた。
鏡を見ると、両の眉毛の上がお岩さんのようにぷっくり腫れていた。
前日──。
やまのあいだファームは草刈りの一日。
刈り払い機という道具(2メートルほどのシャフトの先端に丸鋸が付いていて、手元の小さなエンジンで鋸を回転させる)を使って、薙ぎ払うように草を刈っていく。草の切れ端や小石が飛び散るので、ゴーグルをした方がいいと取り扱い説明書には書かれているのだけれど、僕はメガネをかけているので、横着をしてゴーグルなしで使っていた。休憩のときに顔を洗おうとしてメガネを外すと、レンズは傷だらけで、草の汁で緑色になっていた。そのうちサングラスになりそうなくらい。
そして、やけに顔が痒かった。
腫れを見たとき、これはブトだと思った。
ブト(ブユ・ブヨ)に刺されると、蚊の何倍も痒くて、ものすごく腫れあがると話には聞いていた。草刈り中は気付かなかったのだけれど。
困った顔の僕に、妻はヘッドネットなるものを教えてくれた。養蜂家の人たちが被っているアレだ。カタログを見ると、帽子に付けるネット部分だけで2000円以上と、なかなかのお値段。でも、ブトに刺されることを思うと使った方がいい。メガネのサングラス化も防げるし。
気になるのは通気性だ。
去年の夏はものすごく暑い日がつづいて、熱中症にならなかったのが不思議なくらいだった。あの熱気のなかで、目の細かなネットを被るのは、想像するだけでたまらない。顔面サウナスーツになってしまう。
サングラスをかけたお岩さんか、顔面サウナか、すごく悩ましい……どっちがいいと思います?
●ケンゾー
※写真は、撮影のためにポーズをとっています。刈り払い機はとても便利な道具ですが、反面、危険な道具でもあります。使用中は他の物音がほとんど聞こえないため、周囲の安全にはとても注意しますが、それでも、この機械で怪我をしたという農家さんの話をよく聴きます。
※本記事は「坂ノ途中・やまのあいだのダイアリー」からの転載です。