一筆書き1000 外面
僕が動物や昆虫、恐竜の図鑑に夢中になっていたのは小学校に上がるまでだった。日常の外にいる生き物への関心。僕はとりわけ食べ物の探し方や子供の守り方といった振る舞いに心惹かれていた。生きるための工夫、知恵、悪あがき、、、他者は他者で脳みそがあるという感覚はここではじめて得たのかもしれない。
小学生になると友達と友達の延長としての遊びに夢中になった。ニンテンドーDS。友達が持っているから買ってもらった。1人で進めた冒険は翌日友達に話すためのものだった。図書館に行かないわけではなかったが一気にたくさんの娯楽を手に入れてしまったからだろうか、本は背景になってしまっていた。
そんななか、僕の心を強く惹きつける本に出会った。ほとんど偶然と言ってもいい。その日はなぜか友達が、いや、この本と自分以外の全てが背景になっていた。宝石の本である。この宝石はこんな特徴があるだとかここで取れるだとかいう情報が大きな写真とともに載っていた。僕が心惹かれたのはその石が綺麗だったからでは決してない。石に名前がついていることに感動したのである。名前がつけられ、分類され、ランク分けされていることに驚いたのである。この宝石は云千万の価値があるといったことが書いてあるのを見て凄いと思った。また同時に怖いとも思った。
宝石の本を読んでからかそれとも読む前からなのかは覚えていないが僕は道に落ちている綺麗な石を持ち帰っていた。綺麗に洗って箱にしまう。たまに箱から取り出して眺めて、そしてしまう。ある時、この石が価値のあるものだったら、と考えた。同時に嫌な気持ちになった。価値があるわけがないと思ったわけではない。自分の集めた石をその基準で測ることに嫌悪感を覚えたのである。結局、集めた石は誰にも見せることなく、自分が大きくなって捨ててしまった。
宝石は加工されることで輝きを増す。綺麗に見えるような形にカットされ、鏡と見紛うほどに研磨される。宝石は元々偶発的にできたものなはずである。一つとして同じものはなかったはずである。しかしそうした原石達は画一的な加工が施されることで市場に出回る。そうした方が取り扱いやすいから、あるいは価値があると思ってもらいやすいからである。
本を読むようになったのは高校を卒業してからだったと思う。といっても月に2、3冊読めればいい方だ。でも自己紹介のときは趣味は読書だと言う事にしている。その方がウケがいいから。