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モノカキングダム答え合わせ③【大塚ぐみさん】

先日行われたモノカキングダム2024。自分の立場を完全に棚に上げて「モノカキングダム過剰考察」なるものを書き、モノカキングダム2024の入選作品の考察を順番にしています。


エントリー作品です。

①マイトンさん

②ゆにさん

分析をやっていて気が付いたことがあります。審査モードに入る前にコメントを書くために1回、審査をするためにもう1回、考察を書くためにもう1回は読んでいます(実際は多分もっと多い)。

考察を書くためにもう一度読ませていただくとそれまで気が付かなかったことに気が付くことがあります。

エントリーされた作品は、どれもその作品の意図があって絶対的に素晴らしかった。本来であれば文章なんて善し悪しで比較して判断する代物ではないと思っています。それぞれの意図は向かっていく先が本当は違うはずだから。独断と偏見で一方的に比較して順位づけをする勇気は私にはありません。

ただ、エントリー作品は全部なるべく丁寧に読み込んでみたつもりです。その過程で、全ての作品について、あ、これはここにこう書いてあるから良い、あ、この作品のここの部分がまだ触れられていない作品の良さかもしれないと気づくことがありました。国語の読解能力は上がりそうです(笑)

どこがどう良かったかを検証することで、もっと良い文章を書くため、あるいはもっと面白く読むための足掛かりになったらと思います。自分だけでとっておいてもよかったのですが、まあ、殻にこもった考察よりは、間違っていたら修正できるように柔軟にしたいので、基本的には出してしまいます。もし何か参考になるのであればこれほどうれしいことはありません。

ダラダラ語るのはこのくらいにして、今回は第二位の2作品の中からもう一つの【大塚ぐみさん】の文章を取り上げてみたいと思います。



君だけの宇宙が生まれた日【大塚ぐみさん】



今回は、見事2位となった大塚ぐみ(以下、「ぐみさん」)さんのこの作品です!!
こちらも言いたいことたくさんあります。

ぐみさんの作品は、ワクワクするようなテンポ感が魅力だと思っています。
たしか、本田すのうさんのすのう杯とか「なぜ、私は書くのか」のテーマでぐみさんの作品を読んだ記憶です。

テンポ感……なんていうんでしょうか。ことばのチョイスと語感を捉えるのがうまいのでしょうか……。日常生活やごはんのことが書いてありますが、笑いとほっこりのあるテンポ感です。

テンポ感が出るもう一つの理由は、「手数」ではないかと思います。Ⅿ-1でいうと「ヤーレンズ」とか「真空ジェシカ」みたいな感じでしょうか。ボケが大量に出てくるのに一つも外さないんですよね。そのままのテンポ感でいつの間にか終わってしまう。

そうすることで、ライトで読みやすい文体が可能になっていると思いますが、文章そのものが軽いってわけではないです。たぶん、ボケる(?)とき、いくつかある言葉の選択肢の中から、最適な言葉を選択している、その時の選択肢の数とチョイスのセンスが卓越しているのではないかと思いました。

この作品は、そんなぐみさんの魅力が凝縮されていると思います。

書き出し ヤーレンズ


「ねぇ! 俺、見ちゃった!」


長男(8歳)が学校から帰るなり、マンションでの許容デシベルをはるかに超える声量で叫んだ。

急いで走ってきたのか、頬は鮮やかに紅潮し、息が弾んでいる。

普段、「ただいま」の代わりにスカして「……っす」というような長男だ。これは、ただごとではない。

君だけの宇宙が生まれた日 より

この書き出し、どうでしょうか。

開始20秒でボケを2ついれてきました。ヤーレンズです(笑)

書き出しは、世界観へ引き込む。一行目で撃つ。

そんなことを言いましたが、冒頭の「マンションでの許容デシベルをはるかに超える声量」。これが、つかみとして最高でした。初手からキラーワードレベルのギアマックス感があります。

「普段、「ただいま」の代わりにスカして「……っす」というような長男」。ここで2つ目のボケ、ほんますべらんな~(笑)

もう開始20秒の2ボケで長男がどんな子なのか、一発把握です。ドタドタと音を立てながら廊下を走ってくる様子が見えてきそうです。そして、普段は、スカしている……か、かわいい(笑)。

もう一度も行ったことのない大塚家のマンション内に既に入っているような気持ちです。

完全に空気感を作られました。

書き出しマジでみなさん秀逸ですよね。

中盤① 真空ジェシカ

「あのさ、まず確認なんだけど、飛行機ってさ、雲より上いくことある? 月の横飛ぶ? 飛ばないよね?!

「光がさ、上にも下にもさ、ピカピカしながら動く飛行機ある? ないよね?!


ははーん、見たっていうのは、アレだな……。

君だけの宇宙が生まれた日 より

もうね、とりあえず長男君がかわいいんですよ(笑)。

ただ、これは長男君が実際に言った言葉のはずです。だから、それを文章にできるということについて、尊敬すべきは、母であるぐみさんがしっかりと子どもの話を聞いてあげているということ。愛情深く育てられているんだろうな。自分、さっき子どもとカードゲームやってたはずだけど、発言思い出せないですもん……

そして、ここでは長男君かわいい、面白いこと言ってるだけで終わっていないということがすごさだと思います。

「アレ」っていう言葉で、読み手は「アレ」のことを考える。そうすると、「アレ」ってもしかして「アレ」のこと……?ってなります(笑)「アレ」の正体が明らかになる場面を読み手は想像してしまう。

すぐに「アレ」を書こうと思えばすぐ書けるはずでしたが、正体をすぐに言わずにちょっと引っ張るんです。これは長男君へのやさしさであると同時に、読み手は一緒になって長男君に「ああ「アレ」でしょ「アレ」」って一緒に暖かく子どもを見守ってあげるモードに突入する。

うっかり否定しそうになったが、グッと言葉を飲みこんだ。「俺、結婚とかしない、金かかるから」とか言うような、斜め上のクール系8歳が、ここまでピュアに目を輝かせているのだ。さすがに論破は気が引ける。

「へぇ? 光るやつが? いっぱい飛んでたの?」

否定も肯定もせず、聞いていることをアピールできる育児の必殺技、オウム返し。

君だけの宇宙が生まれた日 より

いや~ボケまくるのにスベらないですね~(笑)真空ジェシカですね。「オウム返し」とか真空ジェシカのつっこみのガクくんが言いそう(?)です。

「光るやつ」って一瞬ぐみさんのお笑いセンスのことかと思いました。

長男君に「アレ」のことを言わせてあげようとしているんですね。ぐみさんもすぐには言わない、否定しない、だから読み手もすぐには言わない、否定しない。これはもう育児経験を積んだ母のなせる技ではないでしょうか。必殺オウム返し。

「そう! 俺、あれ絶対UFOだったと思う!!」

君だけの宇宙が生まれた日 より

そのうえで出た長男君のセリフの効果たるや。

「アレ」のことはUFOのことだと最初からネタバレすることは十分に可能だった。なんだったら、冒頭の書き出しで、「長男が初めてUFOの話をしてきました」的なことを言ってしまうこともできる。読み手もこれはUFOのことだろうなという想定に、早い段階で至るのはそこまで難しくない。

このセリフは、ぐみさんが、ためにためて長男君のセリフを最初のキラーワードにしてあげたんです。ぐみさんの愛情を感じました。

中盤② マユリカ

彼の興奮はさめず、夕飯の食卓もUFOの話題で持ちきりだった。

次男(5歳)は兄の話に目を輝かせ、話題についていけずに取り残された末っ子(2歳)は、ひたすら「ウ○コ!」と叫び、みんなの気を引こうとしていた(食事中はやめてください)。

君だけの宇宙が生まれた日 より

ぐみさんのボケが止まりません、滑りません。そしてマユリカ出てきましたね(笑)

そして、UFOに対して、宇宙に対して興味が上がっていく長男君。階段を駆け上がっていくように彼の熱が上がっていきます。

「俺、もっと宇宙のこと知らなきゃ……!」

おいおい、宇宙は壮大かつ複雑だぞ。いきなり大きなテーマに飛びつく前に、スモールステップとしてまずは今日の宿題をやってくれよ。

君だけの宇宙が生まれた日 より

ここまで拾って気づきました。これボケを全部拾ってたら、ほぼ全部引用してしまいそうです(笑)ほんとに軽快なテンポ感です。宇宙に対するスモールステップとしての今日の宿題って、ほんと面白い。こんな秀逸なボケ出されたら、思わず触れたくなっちゃうけどこれじゃあ考察終わんないっすよ(笑)

って思ってたら、あれ?

そんな小言を言おうと振り向いて、息をのんだ。

長男の目が、本気だった。
なにかしらの主人公みを帯びた姿を前に、私は悟った。今彼を止めてはいけない、と。

君だけの宇宙が生まれた日 より

長男の目は、本気だった」で、スイッチが入りました。本気出してきた……?
ボケてボケ倒すだけの話ではなかった。
「……思いっきり、やっといで」で、雰囲気が変わります。

もはや、全文引用してしまいそうだけど、ここの流れも「宿題に目をつぶろう」、「小宇宙へ旅立った」も言葉のチョイスに隙がない、抜かりがないです。


中盤③ 持っていき方

さあ、ここまで来て、いよいよピークまで上がっていきますよ。

ここで、長男君の絵の写真を入れてきます。こ、これはズルい(笑)。いや、ルール違反じゃないんですが(笑)。そうきたか……。

愛の出発点は、興味だと思う。

今夜、彼の中でひとつ、新しい愛が生まれた。未知の世界への憧れと「自分だけの宇宙」への衝動。私は、彼の世界が広がっていく瞬間を、今目の前で見ているのだ。

君だけの宇宙が生まれた日 より

愛の出発点は、興味だと思う

なんて美しいことばのチョイス。

序盤であれだけボケ倒してきたのに、まさかこんなかたちでピークに持っていかれるとは……。

なんでこんなふうにピークに持っていくことができたのか。
これは、長男君が本気だったことに気がついたからだと思います。

我々は、最初、普段はちょっとすかした長男君がかわいいなあと、書き手であるぐみさんと一緒に、アレをUFOっていうまで付き合ってあげて、ほほえましく見守っていました。ところが、長男君は本気だった。そして、ぐみさんも本気だった。だから、そのことに気が付いた私たちは、彼の中でひとつ、新しい愛が生まれた瞬間に、一気にピークまで持っていかれたのだと思います。

やっぱ、キラーフレーズまでの持っていき方ってすごく大事……これよく読んでみたらめちゃくちゃ鮮やかな持っていき方じゃあないですか……ちょっと最初は気が付いていなかったです……すごすぎる。

彼に生まれた鼓動が、確実に彼を揺さぶった……。だからこそ、それにリンクするようにして読み手も、完全に揺さぶられました。

やっぱり中盤①から中盤③までの展開がとても印象的なんですよね。

終わらせ方 再びマユリカ

あの日、私の中にもまた、ひとつ愛が生まれた。だから今こうしてパソコンを開いている。鼓動は共鳴して、また新しい風になる。

同じように共鳴した次男も、色鉛筆を手に取った。お絵描きに夢中になる兄たちの横で、誰にもかまってもらえず寂しい末っ子は、相変わらず「う○こ!」と叫び続けるのであった。

君だけの宇宙が生まれた日 より

終盤で、ぐみさんがパソコンを開くシーンが入っているんですね。
鼓動が共鳴して広がっていく。その共鳴の中に、読み手である我々も巻き込まれていきます。

そして、最後の一文。オチ!笑笑笑。う〇こサンドイッチのマユリカです(笑)

ただ、ぐみさんは、最後のオチがちょっと不本意だったみたいです。

ぐみさんのコメント

不本意なのは、ぐみさんが末っ子ちゃんに対しても優しい愛情を持っているからだと思います。
ただぶち込んでしまいたくなる気持ちもとてもよくわかります。
これは、私の大好きな(?)ちょっと前の伏線回収でした。Ⅿ-1でもよく使われるテクニックですね。中盤で使ったボケを最後のオチでリフレインする。特に、長男君・次男君と末っ子ちゃんの対比からしたら、使いたくなる気持ちがよくわかります。

末っ子ちゃんの好感度up記事は、ぜひ続編で!また続きが読みたくなるような文章でした!

大塚ぐみさん、長々と好き放題書かせていただきましてすいません!ありがとうございました!!

そんなわけで、分析してみて初めて分かったことにまた揺さぶられつつ、「今日一日を最高の一日に

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