見出し画像

モノカキングダム答え合わせ②【ゆにさん】

モノカキングダム2024の入選作品の考察の続きです。

自分の立場を完全に棚に上げて「モノカキングダム過剰考察」なるものをやってしまいました。

結果発表は終わりましたが、入選作品はどれも間違いなくK点を超えていました(お前が偉そうにいうな笑)。もし結果が考察と違うと思ったら、気がつかれないようにこっそり書き換えようと思ったのですが、これは書き換える必要がありませんでした。

エントリー作品です。


では、入選作品は、どのようにしてK点を突破したのか。

そんな観点で、先日優勝したマイトンさんの作品を考察をしてみました。

うれしいことに「面白い!」「次が楽しみ」「私のも考察してほしい!」といったお声もいただきました。

そんなわけで、調子に乗って、入選作品の過剰考察をやってみたいと思います!

今回は第二位の2作品の中から【ゆにさん】の文章を取り上げてみます。




合言葉を言え。【ゆにさん】


前代未聞(?)の試み


今回は、見事2位となったゆにさんです。
これも言いたいことがたくさんあります。

そんななか驚くべきことがありました。
なんとゆにさんが自分の作品の振り返り記事を書こうとしていたところ、lionの考察記事が出てからにするか迷ったとつぶやいていたのです。

刺激強めの自分の記事の振り返り(ゴクリ…)

え~なんかお任せされてる!変なことで迷わせてしまいすいません🙇‍♂️

え~!!これはもう6時30分に予約投稿するしかないじゃん😂

ということで、ゆにさんが自分の作品の振り返り記事を出すのと同時に、なぜかlionがゆにさんの同じ作品の考察を出すという暴挙に出ます(笑)。
lionがしくじらずに12月27日の6時30分に予約投稿していれば、たぶん同時に読めます(たぶんゆにさんはしくじらない)。
いったいどうなるのか全く分かりません。見てから書いてもよかったのですが、全っ然違うことを書いていたら、それはそれでめちゃくちゃ面白いかなと思ったので、出しちゃいます。

そんなわけで、前代未聞(?)の考察いってみま~す。


ゆにさんの文章


ゆにさんのことはいつからかフォローさせていただいており、それ以来、書かれる文章は割とよく拝見させていただいておりました。

それで、これまで感じていた印象。それは、

王道。正統派。

でした。

自分のことを棚に上げて言うとnoteを書いている人たちは、だいたいクセのある人たちばかりだと思います(笑)。文体に関してもしかり。文章を見ただけで、この人クセが強いな~と思うことはしょっちゅうです(みんな自覚あるでしょ)。それは、個性であり、たくさんある文章の中で、唯一無二感を出すためにはとても大事なことです。

そんな中、ゆにさんの文章の特徴は、まずむちゃくちゃ読みやすい。そして驚くほど雑味がない。文章に真摯に取り組んでいる。プロフィールを見ると公務員エッセイストを名乗っておられますがめちゃくちゃ納得です。

この雑味のなさ。基本に忠実。王道。正統派の文章。誰でもすらすらと読める。

noteを書き続けている人の中に、ここまで雑味がなく、すんなりと誰でも受け取れる文章を書かれる方、そっちのほうが少ないのではないかと思います。文章は個性を出さないとなかなか読んでもらえません。その中で、基本に忠実に王道を貫いているゆにさんの文章は、この希少性によってかえってひときわ目を引いているのではないかと思います。


一方で、基本に忠実な王道・正統派の文章には弱点があると思います。それは、「真面目すぎる印象」を与えてしまうおそれがあること。
よみやすいだけの文章は、それでも十分素晴らしいのですが、多くの人の目に止まるためには、それだけではない個性がやはり必要かなと思ってしまいがちです。

これは、私の勝手な予想ですが、ゆにさんはそのような自分の文体の特徴をわかっているのではないかと思います。そして、それを打破することを課題というかテーマにして書いているように思われます。

ここにゆにさんの文章がただ読みやすいだけではない秘密があるのではないかと思います。

この自覚によって何が起こるのか?

基本に忠実、王道、正統派の文章から自覚的に逸脱をする。そして、この逸脱がとんでもなく決まることで、文章がとんでもなく跳ねる、これが強みなんじゃないかと思います。

「ちょっと真面目なんじゃないかな」って人が、とんでもない逸脱をして、とんでもなく跳ねる。これは、とんでもないことですね(笑)。

そんなゆにさんが書いた今回の文章。上記の背景を知っておくとより「映える」と思います(笑)


書き出し

誰にも知られていない、合言葉がある。

合言葉が生まれたのは、私がまだ小学2年生のころ。
初めて家族で旅館に宿泊した時だった。

合言葉を言え。 より

いかがですか?この書き出し。

この文がわからない人は、一人もいないはずです(笑)

全く雑味がない。しかしながらですね。もう仕掛けられていると思うんです。

まず一文目の「誰にも知られていない、合言葉がある。」この一文目によって、もう読み手の頭はこうなります。「え?ゆにさんの合言葉って何だろう?」

つまり、「ゆにさんのいう合言葉は何か?」が読み手の問いとしていきなり植え付けられます。この後合言葉が書いてあるはずだ。どんな合言葉なんだろう。

そして「小学校2年生のとき」「初めて家族で旅館に宿泊したとき」という、シチュエーション把握のための必要最低限の情報が提供されます。

それにしても、無駄がなく、雑味がない。基本に忠実、王道。でも、ちょっと真面目な感じかも?
ゆにさんの読みやすい文章が読みやすく提示されます。
しかしこれはゆにさんワールドの前触れにすぎないと思います。

旅行という非日常と、旅館に宿泊という初めての体験。私は心からワクワクしていた。興奮しすぎて、旅館へ向かう車の中で2度鼻血を出した。それでもはしゃいでいる私に、家族は呆れてしまった。

合言葉を言え。 より

ここはもう完全に「車の中で2度鼻血」が逸脱です(笑)。正統派の人は、車の中で2回も鼻血なんか出さないです(本当かよw)。少なくとも、そう我々は思い込んでいる。この正統派イメージからの逸脱が、ゆにさんの文章を際立たせるのではないかと思います。

そして、もう一つのポイントは「ワクワク」です。これがこのあとの本大会最大級の逸脱に向けた極めて重要な伏線ではないかと睨んでいます(笑)

この後で、小学2年生のゆにさんはとにかくはしゃいでいる。そして、その様子を描くために使った表現手法が「オノマトペ」ではないかと思います。最初のワクワクからたぶん500字目くらいまでの間に「ワクワク」「ビシッと」「キビキビ」「フラフラ」たぶん10個くらいのオノマトペを多用しています。

これは、小学2年生のゆにさんのはしゃぎっぷりを感覚的・身体的に表現していると思います。一方で、それを止める親(大人)がいる。それでもはしゃぎっぷりは止まらない。あれいつの間にか対比構造?

しかし、私の勢いは誰にも止められない。
だって初めての旅館だもの。
キラキラの施設にワクワクしちゃう。

合言葉を言え。 より

序盤で、世界を作りつつ、はしゃぐ子どもと止める親というかたちで、すでに対比構造張ってるんですよ。めちゃくちゃわかりやすく。オノマトペという表現手法を効果的に使いつつ対比構造を描くなんて、なんて基本に忠実。教科書的。そして読みやすい。

そしてこれは、もう先に言ってしまいましょうか。あえてだと思います(笑)


中盤①

中盤①のスタートはこれです。

部屋の詳細はあまり記憶にない。
窓から富士山が見えたことだけは、鮮明に覚えている。

合言葉を言え。 より

先に突っ込んでいいですか?

「真面目かっ!」(笑)

部屋の詳細なんて誰も覚えてないですよ(笑)

でもね、これは、もう一回言ってしまいましょうか。あえてだと思います(笑)

基本に忠実。王道・正当派の弱点は「真面目過ぎる」印象。その文体の特徴をわかっていてもなお、ゆにさんはこの文章を入れたんだと思います。あるいは無意識だったら本当に真面目です(笑)ゆにさんは本当に真面目な人だと思うのでそうだとしても間違いではないです。むしろ適時打です。ただ一つ言える一番大事なことは、ここまでの文章は、中盤②を意識して書いているということです。

父が館内の温泉に行くというので、部屋に入るための合言葉を決めようという話になった。
(中略)
私は姉を巻き込んで、合言葉の練習をさせた。
まずは私が部屋の外へ出て、入り口をノックする。

「合言葉を言え」

合言葉を言え。 より

来ました「合言葉」。そうだ、そういえば問いは「合言葉は何か」だった。

姉の声がする。
私は張り切って言った。

「ひかるげんじぃ~!!!」
「声でかいよ」

合言葉を言え。 より

はしゃぐ姉妹。「ひかるげんじぃ~!!!」ではしゃぎっぷりがマックスです。

さあさあ、準備はできました。いよいよ来ますよ。


中盤② キラーフレーズ炸裂

ここまでの「起承」で、教科書的に基本に忠実、王道の表現技法、はしゃぐ子どもと叱る親の対比構造としっかりと作りこまれてきました。

そして、おそらく本大会で参加者の誰もに印象に残ったあのキラーフレーズが炸裂します。

思い込んだ私は、語気を強めてもう一度言う。

「合言葉を、言え!」

すると、返事が返ってきた。



(中略)



あのキラーフレーズ

合言葉を言え。 より

誰もが本記事のキラーフレーズはこれだ!と確信するあのフレーズ。考察記事とは言え、さすがにここで書いてしまうのはネタバレ感が強いような気がして、気が引けてしまいました。以下では、このキラーフレーズは「アレ」と表記します。

アレ」の爆発力が半端ないです。もう読んだ人の誰もが「アレ」を印象に残してしまったのではないでしょうか。

でも、「アレ」ってどちらかというとフレーズそのものが強いってわけではないと思うんですよ。

爆発したのは、完全に持っていき方だと思います。これはマジですごいと思った。

まず、一点目は、書き出しから中盤①までの「起承」が極めて効果的に描かれていること、教科書的に基本に忠実、王道の表現技法、はしゃぐ子どもと叱る親の対比構造は、すべて「アレ」を爆発させるために必要不可欠な仕掛けだったと思います。

つまり、「アレ」の爆発は、ゆにさんの「基本からの逸脱」を最大級に爆発させる持っていき方ではないかと思います。自分の強みを完全に理解した持っていき方ということだと思います。


もう一つ。それはnoteの特徴を生かした文字隠しです。

少し話がそれますが、noteというものは、文字をお化粧する機能が意外と少ないです。文字に色はつけられないし、下線も引けない。文字の大きさも自由自在に変えられるわけではない。できる機能は、太字と、見出し1、見出し2、引用くらい。
もう一つ、noteに特徴的な機能があります。それは、「行間をいくらでも空けられること」です。

そしてこれを生かして使われるテクニックが、「行間を大量に開けることで、次に書いてある文章がいったん読めなくなる手法」です。行間明けによる文字隠し(だれかこのテクニックに正式名称を付けてほしい)。

多分ですけど、ゆにさんはこの文章を書くときに「行間を何行分開けるか」をめちゃくちゃ考えたのではないかと思います。

携帯で見るとギリ見えない

このテクニックは、いわばnoteのテクニックとして、めちゃくちゃ効果的ですが、使いどころを間違えるとシラケる可能性、文章そのものが軽いとみられるリスクもあります。

その意味で、ゆにさんの前フリ、アレの爆発力、起承転結の「転」という展開いずれをとっても、ここでの文字隠しは有効というかここしかないとさえいえると思います。

文章としてもnoteとしても王道テクニックを駆使して、「基本に忠実」から一気に逸脱し、「アレ」を最大級に映えさせる、この持っていき方から学べることはすごく多いと思います。

ディズニーランドでスプラッシュマウンテンという乗り物がありますが、あれは序盤はなんか楽しい感じだったと思いますが、終盤で一気に落ちるところがあります。でも、超絶叫っていうよりは、気持ちのいい落ち方です。スプラッシュマウンテンみたいな文章だなと思いました。


終わらせ方

スプラッシュマウンテンって確か、二回くらい落ちるタイミングがあったんですよ。二回目は一回目ほど長くないけど、気分良く終わる流れですよね。

お父さんが、「アレ」のことについて、2回目の行間空けで言及します。
ここもすごいです。冒頭の「合言葉をいえ」の問いに対する答えであるとともに、絶妙に大人と子供の対比構造を逆転させる。ゆにさんが仕掛けた最大級の逸脱を昇華させた瞬間です。
正統派からの逸脱が、ここまで映えますか(笑)

文句なしのK点越えです。

30年以上たった今でも、実家で話題になる合言葉。

4人が集まった席でこのやりとりが出ると、笑い声が部屋中に響く。

「合言葉を言え」
「(アレ)」

合言葉を言え。 より


最後は、現在の幸せな団らんに着地してフィニッシュです。
完全にピークのキラーフレーズ(アレ)とそこまでの持っていき方、全て必要不可欠な要素としてつなぎ合わさっている。

今回も大変素晴らしいものを読ませていただきました。

またまた長くなってしまいました。ゆにさん、ありがとうございました!ゆにさんの振り返り読むの楽しみです!


そんなわけで、ゆにさんの今後の文章を楽しみにしつつ「今日一日を最高の一日に


いいなと思ったら応援しよう!