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第4話 それはノイズか、シグナルなのか

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その年の、ゴールデンウィークをどう過ごしていたかは、あまり覚えていません。

連休突入前、我がプロトレード社内は、GEとオラクルからの2億円ゲットのニュースに沸き立っていました。創業メンバー4人と、社員1人。あとはアルバイト2人ほどでしたでしょうか。それぞれが、次のステージへと進めることに、安堵感と期待感を持って、連休に入ったと思います。


Protrade.ne.jpは、ネット上で簡単に相見積もりがとれて、地域の離れた企業同士でもビジネスができる、会社と会社の出会いサイトでした。

データベースを叩くと、毎日どんな案件が成約したかが分かり、それを見るのは新鮮な感覚でした。本当に見ず知らずの人たちが、僕らのシステムに乗っかって、仕事を受発注して、喜んでくれている。その時風の言葉では、

「サイバーな空間にビットな仕事が流れアトムが繋がるポータル」

といった感じだったでしょうか。そんな時代でした。

とにかくシリコンバレーで何が起きていて、どんなビジネスモデルが投資家を惹きつけていて、どんな最新テクノロジーが世界で生まれているか。そういう類の情報シャワーを毎日浴び続けて、「頭の中がビットな奴」になりきっていたあの頃のオレ。

そんなおり、今思えば何かのサインだったのかと思える、とある印象的な出来事がありました。


サービスローンチ後、僕らはユーザー様オフィスへの訪問をよく試みていました。

とある、成約案件がやたらと伸びていて、お客様からも絶賛の声が届けられていたウェブ制作会社が気になり、足を向けてみることにしました。

日焼けした40代の男前な、カリファ社の森山社長という方が、こじんまりとしたコンクリート打ちっぱなしのオフィスで迎えてくれました。バリの家具やヨーロッパの小物などでセンス良くまとめられ、ウェブ制作会社というよりは、建築家の事務所のようです。

声が低く、ゆったりと話す人でした。美味しい深煎り珈琲を頂きながら、三時間以上は話をしていたように思います。いつのまにか、インタビューするはずが、インタビューされる側になっていました。おそらく渋谷の若い子が何をしているのか、興味があったのでしょう。

森山さんは、世界を旅してきたカメラマンでした。

「小野さんね、僕の会社のネーミングの「カリファ」って。何だと思う?Africaを逆さまにしたんだよ。」
「身体的なものってね、とても大事なんだよ。僕は君がいうビットな世界は、世の中をよくするか疑問を持っているんだ。音楽とか、踊りとか、身体を揺さぶる何かにこそ、この世の中の真実があると思うな。

君もいつか、アフリカの大地の音を聴くことを願ってるよ」


森山社長とは、その一度お会いしたきりのご縁でした。数年後にふと気になり、Google検索しても、何も出てきませんでしたので、長くはウェブ制作会社をやらなかったのでしょう。


僕は、人生には、どこかで妙に心に引っかかりを残す出会いとか、出来事があると思っています。少し立ち止まって、その引っかかりが、ただのノイズなのか、何かを伝えようとするシグナルなのか、想いを馳せることが大切なのではないでしょうか。

27歳の僕には、そこまでの力は育まれていなかったように思いますが、森山社長の「身体性」という言葉が、心に妙な引っかかりを残したことは事実としてあったと思いますし、その後の人生を考えると、確実にそれはシグナルだったのだと今は思います。


2000年のゴールデン・ウィークが明けました。

いつも僕はモノを買うとき、勇気を持って他と違う路線を歩く決意を帯びたモノを選ぶことにしています。その時に選んだ携帯電話はNokiaのミリタリー風、モスグリーンカラーのモデル。

- 着信 -

それは、何度か電話を入れたのにつながらなかった、GEの投資担当者からでした。

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