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第27話 悪魔のささやき

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午前中に、プロトレード役員へのヒアリングを終えた僕の、次のターゲットは、一般社員とアルバイトです。

ネクストバッターは、一号社員の、相川くん。

彼は、僕の大学時代のスキークラブの後輩です。創部以来25年以上、男子だけという、超硬派な体育会系クラブで、パワーハラスメントの総合デパートのようなところでした。

ちなみに、僕も相川くんも、入部した理由はシンプルに、

「うちは学内10サークルの大会で5連覇。強いから、モテる。」という話と、

「お前な、サークル内で、付き合った別れたとか、いろいろあると面倒だろ。俺たちは外で彼女をつくるから、クリーンなんだ。」

という、めちゃくちゃな勧誘文句に騙されたことにありました。

そんな相川くんは、いつでも歯に衣着せぬ男。しかも、かなり几帳面なので、細いところをいろいろとつついてきます。

楽天は給料が安いのが嫌ですね。なんか、垢抜けない感じがするじゃないですか。でも、楽天の方が実務経験が学べそうなので、その点では前向き。

ICGは、外資なんで、いつ日本から、いなくなるか分からないですよね。でも、自由度は高そうですね。

クレイはやめてください。相当、評判悪いじゃないですか。

とはいえ、何が一番大事かというと、小野さんはじめ、役員の方々が、いち抜けとかしないことだと思いますよ。そういうのはマジ勘弁してくださいよ。

(結論:答え出せないけど、給料それなりに出るなら楽天がいいかな)


彼のシビアなコメントには、かなり堪えたことを覚えています。期待を裏切ってしまったなぁ。という思いが、強くありましたね。

(数年後、彼の結婚式でスピーチをさせていただきましたが、ご両親にお会いしたときは、ご心配をかけて、申し訳ございませんでした。と思わず謝ってしまいました。)


次は、千葉県の大学院2年目をぶっちして、社員となってくれた小川くん。(熱血純情派)

それと、御茶ノ水方面の四大を卒業したあと、ぷーたろーをしていて。気づいたらプロトレード にたむろしていた、バイトの白木原くん(タイムボカンのボヤッキーに似てるので、シラッキーと広く呼ばれています)でした。

二人とも、こちらが笑ってしまうくらい、心配そうです。

小川社員: 

まずは、ものすごくショックです。社会人として自分はまだ、土台がないです。

できれば、楽天みたいな、しっかりした会社で2−3年働きたいです。

事業として考えても、楽天が一番伸びそうですし。(結論:楽天)
シラッキー: 

ぶっちゃけよくわかんないっす。自分、あんまり気合入ってないタイプっすから、楽天の社風に合うか、心配っす。

クレイは会社が困っているみたいだから、俺みたいなのにも、社員になれるチャンスあるかもしんないっすね。(参考にならず)


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ヒアリングを終えて、僕は神泉の坂道をぷらぷら歩きながら考えました。

取締役の二人は、起業の前には、アクセンチュアで2、3年仕事をしてきているので、キャリアの下敷きがある。どこでも多分食べていけそうな力を持っている。

でも、社員の二人と、バイトとはいえ、社員同然に頑張っている(ように見えた)シラッキーについては、ちょっとこのタイミングでキャリア間違うと、人生が大変になりかねないな、と。


ここで、弱者である彼らのために立ち上がり、ずばっと楽天へ!と決断を下す俺...


そんな感じで、カッコいいストーリーを語ってみたいものですが、人間の心の中は、そんなに美しくも単純でもありません。

若いメンバーの将来を考えたのは本当なのですが、お金という現実的な力を目の前にすると、例の「金欲」ってやつが頭をもたげてくるのです。


生々しい計算はここでは割愛しますが、クレイに売り抜いたら、自分の持ち株の売却益は楽天に売るよりも、倍近くになるのです。

しかも、うまくいけば上場企業の役員になるチャンスもあります。悪魔の声って、やっぱりあるんですよ。囁くんです。こんな感じで。

悪魔:

資本主義ってのは、株主の権利と利益を最優先するのが正しいらしいよ。

僕らに投資してくれた、NetAgeさんに、できるだけのリターンを出すようにするべきだ。

ほら、川野さんも、不義理をするなって言っていたじゃないか。

社員の意向を優先したら、株主に対して不義理を働くことになるよ。

(で、そういうロジックで考えれば、株主の俺自身も、儲かるしね)


あぁ、もう十分やったよな。

クレイに売って、少し働いて、またやり直せばいいじゃないか。

そんな風に考え始めていた折、偶然なのか必然なのか、神泉の駅前の踏切近くで、僕はある人に、ばったりと出会うのでした。

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