糖尿病患者さんとスティグマ
こんにちは、私は糖尿病療養指導士として糖尿病患者さんと関わって12年目になります。
みなさん、スティグマという言葉を聞いたことはありますか?
スティグマとは不名誉な烙印を意味し、糖尿病におけるスティグマとは糖尿病患者さんによくないレッテルを貼ってしまうことを指します。
スティグマには一般社会から受けるもの(社会的スティグマ)、医療従事者からうけるもの(乖離的スティグマ)、自分自身で感じてしまうもの(セルフスティグマ)があります。社会的スティグマは前述したとおり、糖尿病への不十分な理解により一般社会から偏見の目で見られてしまうケースです。
このスティグマにより辛い経験をしてきた糖尿病患者さんを数多く見てきました。
今回その中で紹介したいのが、我々医療従事者から受ける「乖離的スティグマ」についてです。患者さんに良くなって頂きたいという一心で関わっていることが、場合によっては患者さん自身を追い詰めることにもなりかねないのです。
例えば、「どうして間食をしてしまうのですか」「運動不足だと血糖値が上昇してしまいますよ」「インスリン注射や血糖値自己測定を忘れないように注意しましょう」など、医療従事者であれば普段から当たり前のように患者さんに話している内容です。
療養指導がうまくいかないときに「やっぱり糖尿病だから」「生活習慣病は自業自得」と相手をみてしまったり、口調がきつくなったりすることもあります。
患者さんは自身の行いを咎められた、否定されたという気持ちになってしまいます。結果として、スティグマを経験しないように回避行動として、隠れて間食をしたり、血糖値の自己測定をやった振りをして手帳に記録したりしてしまいます。これを予期的スティグマといいます。
そして、糖尿病のある人に自己スティグマを負わせ、自分は誰かに相談したり、誰かの助けを求めたりするに値しない人間だと思わせてしまい、ひいては糖尿病治療の中断や医療機関への通院を止めるなど、さらに糖尿病治療へ悪い影響をもたらす可能性があります。
では、何故このようなスティグマが発生するのでしょうか。
医療従事者の胸中に「模範的な糖尿病 患者像」「糖尿病患者のあるべき姿」を形成してしまい、日々の診療や療養指導を通して、目の前の患者を模範的な 糖尿病患者像に当てはめようとすることを糖尿病の療養指導だと勘違いしているケースが散見されます。
教科書に書いてあるような、理想的な指導の仕方ではなかなか上手くいかないことが多いでしょう。まずは、しっかりと腰を据えて「患者さんの話を傾聴する」ことから始めてみましょう。患者さんは、糖尿病を何とかしたいと思っているから通院や入院をしています。つまり、治療を受けるということは糖尿病に向き合って動き始めたということです。それだけで素晴らしいことなんです。そのことを念頭において関わっていくことが大切なのではないかと思います。