[日々鑑賞した映画の感想を書く]『由宇子の天秤』(2021年 春本雄二郎監督)(2021/9/23記)

 例によってなんとなく評判を聞き、事前に情報を一切入れず鑑賞。いや、これはすごい映画だった。重いテーマの重い作品で、見終わったあともあれこれ考えさせられる。脚本が抜群によく書けていて、演出も完璧、俳優の演技もすべて的確。2時間半という長尺だがまったく飽きさせず、無駄なシーンが一切なく、最後まで目が離せない。詳しく筋を語るとネタバレになってしまうので書けないけど、最後のどんでん返しに次ぐどんでん返しでどんどん疲弊していく主人公(瀧内公美)の演技は圧巻。たぶん今年のベスト1を争うことになるんじゃないか。

 テーマはいろいろ語れると思うけど、私が受け取ったのは「真実」の曖昧さ。関わった人物の立場によって、胸三寸で、見ているもので、いかようにも「真実」は変わり、そのつど姿を変える。主人公はテレビのドキュメンタリーディレクターという設定だが、最後にとった行動は、結局は客観性を装ったり正義感を振りかざすのではなく、個人として自分が主体的に事態に関わり「真実」を語るしかない、結局真実はそこにしかない、というメッセージと受け止めた。

 瀧内公美はキネ旬主演女優賞を獲った「火口のふたり」が圧倒的に印象的だったけど、これで2度目の受賞、行けるんじゃないか。春本監督は自分に確固たる信念とやり方があって、それを妥協せず的確に形にしていく胆力と腕力の持ち主のようで、久々に大物感のある監督に巡り会った感じ。次作が楽しみです。(2021/9/23記)   

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小野島 大
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