強くなる
ここ何年か「昭和だ」みたいな言い方を耳にするのだけれど僕はそれがあまり好きではない。僕も昭和生まれだけれどなんかあまりにも大雑把で理解できないんだよなぁと思う。
昭和というのは60年以上も続いたわけで一区切りに出来る単位じゃない。
戦前、戦中、戦後、高度経済成長期、安保闘争、核家族化、冷戦構造とずっと変化しながら進んできたわけで、僕から言わせれば80年代と90年代だってまるで違う。文化的な背景だって全然違っているわけで、例えば昭和レトロなんてものは幅が大きすぎて、いっしょくたに出来るもんじゃないだろうと思うのだけれど。昭和枯れすすきとバンドブーム時代の音楽を並列に並べるような気持ち悪さがある。
その中で見かけた言葉で。
”何かを相談した時に「強くなりなさい」なんていう言葉を言う人は信じては駄目だ。なぜ被害者が変わらなくてはいけないのか。変わるべきは加害者側でありあなたが強くなる理由は何もない”的な昭和的な発想とかマッチョの発想とかっていう文脈で書かれているものを何度か見かけた。誰かがそれをバズらせてから、似たような文言を書く人がいるのだと思う。
とてもまっとうで、その通りの言葉でバズるのもわかる。
いじめやハラスメントは、被害者側ではなく加害者側がセラピーを受けるべきだという流れにも繋がっている、実に現代的な考え方だ。
正論過ぎてついつい閉口したくなる。
したくなるのだけれど「強くなる」ということに関してまで否定して良いのだろうか。
あなたは悪くない。変わる必要がない。それはわかる。
でもその流れで「強くなる」というアドヴァイスまで否定することはなんとなく僕はまだ違和感がある。
強くなることが、あなたのままではなくなるというイメージもあるのかもしれないけれど、あなたはあなたのままで強くなることも出来るという考え方はないのだろうか、なんて思う。
人は人を傷つける。
そんなことがない世の中になればいいと思うかもしれない。
けれど、それがなくなることは絶対にない。
誰かを愛することが結果的に誰かを傷つけることがある。
何かの成功に喜ぶことが誰かの嫉妬を生むことだってある。
誰だって家族に傷つけられた経験があるはずだし、誰だって家族を傷つけるようなことをしてしまったりする。
誰が見ても優しい人が、親に一度だけ酷いことを言ってしまったなんて後悔していることなんてよく耳にする話だ。
そりゃあ、悪気があって傷つけるようなことをわざと言うのは駄目だけれどさ、悪気もなく無意識に誰かを傷つけてしまっていたなんてことは生きていれば誰にだって起こりうることだ。
ましてや人はこれを口にすれば目の前の人が傷つくとわかっていながら、口にしなくてはいけない場面だってある。
優しい人たちはあえてそれを選択して自分の心を傷つける。
僕はこれまでどれだけの人を傷つけてきただろう。
弱いことをダメなことだとか、ダサいことだとか、そう言ってしまうのは違うと僕も思う。むしろ弱さこそ人の持つ本質なのかもしれない。誰から見てもみっともないような姿を演じる時、ああ、人間ってこういうものだなぁと実感することもある。
社会は弱さを受け入れ、引き受けるべきだろうと思う。
でも、強くなることはそれとは別のことだ。
多くのサクセスストーリーは主人公が物語の登場時から大きく成長して強くなっていく。
強さっていうのはマッチョな腕力じゃない。精神的修行とかそういうものでもない。自分に自信を持つことや、友達をつくることや、心に余裕が出来ることや、信念を持つことや、相手の立場になって考えることが出来ることだ。
昭和の人はマッチョな考え方で強くなれなんて言うんだよ的な発想であるなら、もう年上に相談なんかしないほうがいいよ、きっと。
それはきっと表層しか見ていないからだと思う。
自分よりも少し早く生まれて経験を重ねてきた人の言葉には含蓄がある。
その「強くなれ」にどれだけの意味が入っているかを考えられないなら、それこそ僕からすればハラスメントだ。
僕はたくさんの先輩たちの言葉を聞いて、それについて考えて、理解が及ばなくて何年もしてから、あの時、こういう意味で言ってくれたんだななんて気付いたりしている。僕はオツムが弱いんだ、きっと。
ただ表層で聞き流すようなことは自分にとってマイナスにしかならないことぐらいはわかっていた。
ステレオタイプなさ。
やれ、昭和だなみたいな。
そんな大雑把な感じで、古い考え方を斬り捨てる。
それは損失でしかないと思う。
まぁ、昭和生まれも、あの頃は良かったって言い過ぎだけどさ。
ぜんぜん良くなかったけどね、あの頃。
もっと繊細だよ。
想像の100倍ぐらいは傷ついたり涙を流したりして生き抜いてきているよ。
昭和も平成も令和もへったくれもあるもんか。
同じ目線で考えられないといけないと思う。
自制も含めて。
映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃
「嘘ばかりの世界」だ
「ほんとう」はどこにある
【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一
撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき
【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。
家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。
やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。
◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)
投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。