花を届けに
ふと覗いてみるとシアターセブンの初日に予約が入っていた。
前回、シアターセブンで上映した時は出演者の中に関西県出身の俳優もいたけれど、今回はほぼ全員が東の出身。
そういう意味でも実際にどのぐらい声が届いているのかが重要なのだろうと考えていたから嬉しかった。
冷静になって考えてみれば、名古屋でも大阪でも待ってくれている人がいるということがいかに幸せなことなのだろうと思う。
まったくの不安なまま舞台挨拶に向かうのではなく、思い浮かぶ顔がある。名前がある。それだけで勇気づけられる。
まだお会いしたことのない方まで含めて、逢えるんだなあと思えるということは幸せなことだ。
実際に逢えるかどうかはまだわからないのかもしれないけれどさ。
当日までわからないという方もいるかもしれないしさ。
名古屋シネマテークは予約がないけれど、記憶では僕が登壇した日、想像以上にお客様が来てくださった。シアターセブンも予約以上に当日が伸びていて、あの時、一人で登壇したのだけれどすごく嬉しかった。
あの時と今との違いはもちろん色々とあるし、上映時間だって違っているし、まったくわからないけれどさ。
それでもあの日は今も鮮烈に記憶に残っている。
むしろ関東の上映よりも熱を感じたことまで。
春雷が聞こえた。
のどかで暖かい春の日に急に寒気が流れてきて大気が不安定になる。
毎年のことなのに、毎年、ああ春の嵐ってあったなって思い出す。
夏が来て秋を過ぎて冬を越えると毎年のように忘れてしまうのかな。
まるで朝のアラームのように春雷は生物たちの目を覚ます。
さあ、春だぞ。冬は終わったぞと。
或いは冬の断末魔のようでもある。
もう桜も終わりだねなんて声も聞こえたけれど。
桜からしたら迷惑な話だ。
これから葉が育っていく。葉桜の季節が始まるのだから。
その葉が散るまで全身で太陽光を浴びる。
ソメイヨシノは種を付ける能力を失ってしまったけれど。
他の品種はこれからが種を育てていく季節だ。
世阿弥は花伝書で「花」についても残している。
日本最古の演技論。またの名を風姿花伝。
俳優には「花」というものがある。
若さゆえの花はあるけれど、その先に「まことの花」があるという。
時分の花ではない、まことの花。
心から心に伝える花。それが奥義だという。
桜にとって、花が咲く季節は時分の花なのだろうか。
まことの花はこれからなのだ、きっと。
そんなことを思う。
秘すれば花。そんな言葉を残している。
表に出さず心に留めて、それが誰かの心に伝わったその時に開く花がある。
ほんとうに面白いことってそこから始まるよなって思う。
春雷を聞きながら、ポツポツ雨の中を歩いた。
桜が散るなら散ればいいさ。
この雨は他の多くの花を咲かせる雨だから。
さあ始まるというその大音声。
春を告げる時の鐘。
それはまだ始まったばかりの映画『演者』へのエールのようだった。
これからだぞ。ここからだぞと。
地球が、大空が、僕に発破をかけている。
まことの花を僕は届けたい。
映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
「ほんとう」はどちらなんですか?
【限定3回上映】
2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)
各回10時から上映
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
初日舞台挨拶あり 登壇:小野寺隆一
【限定2回上映】
2023年4月15日(土)18:30、16日(日)19:00
シアターセブン(大阪・十三)
予約開始:4月8日9時より
2日間舞台挨拶あり 登壇:小野寺隆一
◆終映◆
2023年3月25日(土)~31日(金)
K'sシネマ (東京・新宿)
出演
藤井菜魚子/河原幸子/広田あきほ
中野圭/織田稚成/金子透
安藤聖/樋口真衣
大多和麦/西本早輝/小野寺隆一
撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟 録音 高島良太
題字 豊田利晃 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希 制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき
【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。
家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。
やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。