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恋の炎の前のアレ

映画館の思い出

大抵は映画や映画館に1つや2つの思い出を持っている。
そんなの人によって違うだろうし、色々なのだけれど。
でもなんというか「映画館に行く」のは初デートの代名詞だと思うのは世代によって違うのだろうか。
今だったら、スポッチャ的なのとか色々あるけれど。
でも初めてのデートは映画館っていう人は今も変わらずたくさんいるんじゃないかと思う。

映画のチケットが手に入ったんだけどさ。一緒に行かない?

見たい映画があるんだけど、今週空いてない?いやならいいけど。

結局、そこまで行かなくても言われたことがあったり、言ってみようかなって考えたりしたことがある人は実はたくさんいるんだと思う。
僕は言われたことも言ったこともある。
恋人同士になってからの映画鑑賞もあるけれど、その前のやつ。
なんか、これって僕としては映画館だけが持つ特権だと思う。
ギリギリデートっぽいやつみたいな。友達同士っちゃあ友達同士な。

心のライン

多分、映画に誘うのは他の誘いよりもずっと軽い。
高校生とかに取って見れば他のものに比べればチケット代も安いしさ。
遊園地とかショッピングとか、なんかデート感が強いしさ。
例えば断られてもダメージも少なさそうだしさ。
男子も女子も誘いやすいんだと思う。
唯一の弊害があるとすれば作品のチョイスにセンスが問われるぐらいで。

だから多分、良い映画というのは「話せる映画」だ。
そのあと、お茶して映画について話す。
別に面白くても面白くなくてもいい。
良かったでも、作品の悪口でもいいから、話せるかどうか。
同じ作品を同じ時間、同じ場所で観ているのに、自分が感じたことと相手が感じたことがこんなに違うのか、何が面白くて何が面白くないのかこんな風に思う人なのか、なんてことの心や頭の交換ができる。
そこからもう一度、この人と映画を観たいと思うのかどうかは自由なわけで、心のラインの上を綱渡りしているような、そんなことの出来る最高の場所こそ映画館なんだって思う。

もちろん子供の頃の映画館、友達と行った映画館、初めて一人で行く映画館、歳を重ねてからの映画館、色々な思い出があるしこれからも生まれていくのだけれど。
なんというか基本の基本は、このデートに誘いやすいってことなんじゃないかなぁって僕は思っている。
映画館に入る前と映画館を出てからで、人生が変わること。
もちろんライブでも舞台でもいいのだけれど、より広く考えれば映画館が唯一なんじゃないかなぁ。
僕なんかはもう映画館にそれを求めていないし、経験を重ねてきたからつい忘れてしまう。いや多分、映画産業の中にいる人たちもいつの間にか忘れるし、それは映画の一部でしかないなんて言い出しちゃうんだろうなぁって思う。
でもやっぱ基本だよなって思う。
その誘いやすさ、共感できることこそ、映画館だけの独自の魅力だ。
心のライン上に立つことが出来る場所なんだってことだ。

まぁ極論だけどさ。

アートはカジュアルだ

本来、アートってカジュアルなものだと思う。
だってさ、着ている服だって髪型だって、履いてる靴だって、持っているカバンだって、何から何まで誰かがデザインしたものなのだから。
それどころか住んでいる家だって、ひねる蛇口だって、お菓子だとか煙草のパッケージだって、全部アートなのだ。
どうしてもアートといえば前衛的なもののように感じてしまうけれど。
日常的に溢れているし、囲まれている。むしろ生活に根差してる。

特に小劇場なんかに長くいた僕からみれば最高にカジュアルなのが映画だよなぁって思う。前衛的な映画や極端なジャンルモノやなんかもあるけれど、それも含めて入りやすいし、楽しみやすいし、文句も言いやすい。
そしてそれは多分、ミニシアターや単館とか、そういうのも実は変わらないよって僕は思っている。

特に地方のミニシアターはコロナ禍で大変なダメージを今も負っている。
土地のシルバー需要に実は支えられていたりして、毎月老夫婦がデートに来てくれるなんてことが往々にしてあったのだけれど、コロナでシルバー需要はほぼ全滅したと当時聞いた。そしてそれは今も戻っていないという。
なんか老夫婦の毎月の映画鑑賞とか最高だよなぁって思う。
そんな人たちにどうやって戻ってもらうのかは大事なことじゃないかなぁ。
ミニシアターはどこか映画マニアのものっていうイメージがあるし、インディームービーは一部の人たちのものっていうイメージの人もいるかもしれない。
でも全然そんなことはなくてもっとカジュアルに年に数回しか映画館に行かないような人たちが、これは見たいなぁって足を運びやすい場所だ。
すくなくとも、小劇場やライブハウスよりもずっと足を運びやすいはずだ。

アートをカジュアルに楽しめる場所なのだもの。
映画館だけが持っている価値だ。

高校生

映画「演者」を観た人は、どこがだよ!って言うかもしれない。
でも、僕は高校生がなんとなく興味を持って好きな女の子をデートに誘って観に来るかもしれないという視点だけは持っていようと思って映画を製作した。
この作品を観た後にどんな話をするかなぁなんて想像もした。
それまで観たどんな映画とも違うんじゃないかなぁとかさ。
お互いの見解が分かれるかもしれないなぁとかさ。
あるいは、なんだよつまんねぇよ!なんて会話になることも含めて。

だってそんなのって最高じゃね?
まぁデートに誘いやすいビジュアルでもあらすじでもないけどさ。
でも、まぁ、僕の十代を思い出すと、恋愛映画なんて絶対に選ばなかったし、ハリウッド大作でもなかったし、なんかアンテナ張ってこれ面白そうだなっていうのを探してた。だから一人ぐらい映画「演者」を選ぶやつがいても全然おかしくないよなって思う。
その時に話せる映画であるかな?心が動く映画であるかな?心のラインの上を歩ける作品かな?なんてことはたくさん考えた。
そのデートは絶対に成功するだろう。あっはっは。

恋の炎はそこから始まるのさ。うふふ。

とまぁ。こんな話もたまには書いてみた。
これを読んで映画デートに行きたくなったあなた。
夫婦でも。恋人同士でも。片思いでも。行きたくなったあなた。
今すぐ、今週末上映しているのはどんな作品かチェックしてくださいな。

ほら。ワクワクする。しないわけがない。

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小野寺隆一
投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。