まだ一歩目の前なのに
全国区
舞台のドサ回りは様々な制約がある。バンドは楽器さえあればいいけれど、舞台は照明さんや音響さんなどスタッフさんや大道具もコミコミになるからだ。それに比較すると映画というのはなんと軽々と遠くまで行くのだろう。実際、映画祭で上映してセルビアからコメントが来たり、北九州で世界中の方と出会ったり、その触れている世界の広さにクラクラする。
劇団は一度旅公演をしたけれどそれ以外はずっと都内での公演だったから。
遠征
都内での舞台にも遠くから足を運んでくださる方は確かにいらっしゃった。引っ越してしまった方が来てくれたり、音楽の吉田トオルさんのファンの方が来てくれたり。それでも映画製作するまでは数が限られていたと思う。
映画を製作してから舞台にも映画にも遠征してくださるお客様が現れた。
驚くのは都内に来てくださるだけじゃなくて、都内から九州まで見に来てくださる方までいらっしゃったこと。
僕はそれに気付くといつも驚いてしまう。ええ!と声が出てしまう。
そして同時に、遠くで申し訳ないなぁと感じる。
やっぱり僕たちが近くに行くのがベストなんだよなといつも思うから。
遠征させてしまっているのかもしれないと思う。
だから遠くから連絡が来るといつも無理しないでくださいと伝えて、同時にその地に行くことが出来ない自分自身を悔やむ。
新宿で一週間限定上映
新宿での一週間の上映。
まずはそこを成功させないとその先が途絶えてしまうことはわかっている。
そしてもしかしたらそれを理解していて遠征できるかもと考えている方がいるかもしれない。
実は遠方に住む昔の劇団の仲間からそんな連絡があった。
嬉しい気持ちと同時に背中を冷や汗が流れた。
映画なんだから地元まで届くように僕が頑張るべきだから。
でもそっちで上映出来るようにするよと断言も出来ない。
ここに苦しさがある。
現在を乗り越えないと未来がやってこないのは誰だって同じだけど。
だからと言って基本的に遠征を期待するような姿勢じゃだめだ。
そんなんじゃ例え遠くまで上映館が伸びたとしてもなんにもならない。
待ってくれる人がいるところに届けていきたいと願うべきだ。
僕はそう自分に言い聞かせている。
ケイズシネマ公開前に
すでにSNSではいくつかのコメントが届いた。
すぐに全国で上映します!とは言えないけれど、頑張りますとしか伝えられないけれど、それでも僕なりに考えている。
ケイズシネマ公開前に。
東京以外の年での上映を発表したい。
映画「セブンガールズ」では毎回、上映館で次の上映館を発表してきた。
僕自身も知らなかったこともあった。
大抵は舞台挨拶で上映館が決まったことを発表した。
お客様も一緒に喜んでくださった。
だからそれはそれで間違っていなかったと思っている。
でも。
映画「演者」はそれを踏襲しようとは思っていない。
出来ればケイズシネマ公開前に、1つでもいいから上映館を発表したい。
僕が決められることではなく先方あってのことだから、絶対に出来るわけでもないし、名前もないのだから簡単なことでもない。
それでもギリギリまでそれを目指している。
なぜ事前に発表したいか
なぜ公開前に発表したいのか。
それはもちろん遠征してくださる皆様への申し訳なさ。
そしてもう一つ理由がある。
映画はやっぱり上映中が一番盛り上がっている。
SNSでも感想があがってくるし、熱がある状態で情報が入ってくる。
その上映館で上映される作品がどんなものか調べる方はたくさんいらっしゃる。
色々な方の反応が上がっていれば、それぞれの映画館でチラシやポスターや予告編を目にした方がより楽しみにしてくださる。
話題が落ちついてからでは届かない方々がいる。
ホットなうちに届くことはとても大事なことだ。
それにね。
映画ファンのコメントを読むと、こっちには都内から遅れて上映されるのでいつか来るかなぁなんてコメントがどんな作品でもある。
シネコンで上映されるような映画が全国一斉公開なのはちゃんと理由があるということだ。
実績
それでも大事なものはきっと実績だ。
都内でどれだけの回数上映したのか、どれだけ盛り上がったのか。
その盛り上がりをみて、それぞれの地域から興味を持ってもらえるのか。
そういう全てが合致しないと、中々、上映出来ない地域は多いだろう。
それは充分に理解している。
映画館だって一人でも多くのお客様が足を運んでくれる状況で上映したいはずなのだから。
ましてや、知名度のない全国区ではないこの映画は実績を積み重ねる以外には手がない。
日本中に。
なんか面白そうな映画があるぞ。
そう思わせる実績。
それが簡単なわけがない。
つまりその簡単じゃないこと、それが届けることだ。
新宿に全力を傾けるべきだ。
それでも僕はその前に発表を目指す。
矛盾しているけれど、ホットなうちに一つでも多くの映画館に届ける。
シモキタから
新宿よりも人口が少ない国があるんだぜ。
信じられないことだ。
でも僕たちは演劇の街シモキタの一番小さな小劇場で実験的に創った舞台から始まった作品を映画化したのだ。
あの街、あの小劇場からみたら新宿のケイズシネマってだけで既にステップアップじゃないか。
誰もが自分の住む街に映画がやってくることを待ってくれる。
そんな作品にしたいよ。
そんな素敵なことなんかないんだから。
シモキタから全国へ。シモキタから世界へ。
微かな心のやり取りがどこまでも拡がっていく。
映画は全国区だからさ。
届けるからさ。待っていてください。
どうかどうか、待っていてください。