連載「record album」⑥
日本語は多くの言語の中でも難しい部類に入ると聞いたことがある。理由の一つは広辞苑の厚みでもわかるように名詞の多さだ。例えば、紫色と藍色とスミレ色と藤色と全ての色の違いを言いあてられる人なんかごくわずかなはずなのだけれどしっかりと名前が付いている。シンプルな「好き」だって「好んでいる」「慕っている」「惚れている」「恋している」「愛している」と細かいニュアンスごとに言語が揃っている。だから僕はどこか勘違いをしていたのかもしれない。多くの意味に名前が付いていると思い込んでいたのだけれど、一つの言葉に多くに意味があると気付かなかったのかもしれない。
「大人」という言葉にはどうやら複数の意味があると今となっては分かる。社会の一員になったという意味での大人。法律で定められた年齢による大人。肉体的な大人。精神的な大人。ただ子供じゃないという意味の大人。毛が生えたってだけの大人。人によって場面によって時間によって「大人」という言葉の定義は様々に変化していく。いや変化というよりも都合よくつかわれている言葉と言った方が正しいのかもしれない。最終的にはそれぞれの個人が自分にとっての「大人」をみつけていくしかない、そんな哲学に近い言葉なのかもしれない。結局、僕は上手に大人になることが出来なかった。
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