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繰り返された「ありがとうございます」

NHK朝の連続テレビ小説にはスタイルがある。
基本的には女性が主人公、その一生を描く。
近・現代を舞台にしている。
すべてではないし例外もあるけれどおおよそはそうだ。
女性を主人公に描くことでその時代時代で放送された作品には放映当時のジェンダーギャップが大きく反映している。
今、放送している「虎に翼」は生活の中はもちろんだけれど、現実的な社会制度の中のジェンダーギャップにも踏み込んでいて、現代作るべき女性を主人公とした作品として真正面から取り組んでいる。

そのスタイルから必然的に戦前・戦中を描く作品も多い。
そしてまたこの作品でも今週、戦中のあのシーンが出てきた。
映画「演者」を観てくださった皆様はきっと思い出したと思う。
「おめでとうございます」「ありがとうございます」
そして猛々しい「ばんざい」がこだまする。
当たり前のように毎作品。繰り返されてきている。

いつものように、役場の戸籍係はドラマに登場した。
国の権力の象徴かのように召集令状を手にして。
まるで徴兵制度そのものかのように。
ほとんどの戦中作品に登場する。
彼らが登場する場面はいつものようにドラマティックなのだろう。
彼らの存在自体がすでにドラマの装置になっている。

主人公の兄と夫。二人が招集された。
武運長久の旗を巻いてはいたけれど当時の常識的な立派な口上などはなかった。
ワタクシハオクニノタメニウンヌン。
兄のシーンではそのやわらかい演出に、少し高齢な登場人物からたしなめるような言葉を出すことでカヴァーしていた。
夫のシーンでは父が立派に見送ることと、見送った後に追いかけることでカヴァーしていた。
現実には別れの場面で妻にだけ優しく声をかけることなどはほとんどなかったはずだけれど、それではドラマにならないのだろう。
シンメイヲトシテ。
自分の命を捨ててでも国を護るという言葉を最後まで口にさせなかった。
現代の朝、それを口にしてその裏側が多くの視聴者まで伝わるかどうか、きっと検討したのだろうなぁと想像をした。

僕の実家には祖父の出征の日の形見がある。
武運長久の旗も残っているし、その日に撮影した写真も残っている。
胸を張り堂々と中央に祖父は座っている。
たくさんの男たちが集まっている。
まだ幼かった叔母を抱いた祖母も写真の中にいる。
あのじいちゃんのことだから、えばって立派なことを言ったのだろうなぁ。
「必ず帰ってきて」は心の中に秘めて口に出来ない言葉だった。

新しい朝ドラになるたびに。
きっとあのシーンが繰り返されるだろう。
時代と共にゆるやかな変化をしながら。
当時を完全再現すればいいというものではない。
今の視聴者に伝わる表現を、毎作品模索するはずだ。
「帰ってきて」はセリフになったけれど「おめでとうございます」だけは、今回も残ってた。
演じるのをやめていたわけではなくて、演じている場所を少しずらしていた。

役場の戸籍係だけは変わることはない。
忌み嫌われた徴兵の象徴として記号的に赤紙と共に存在し続ける。
彼らは体制側のその役割を演じ続けるだろう。

ぶっこわれていたのだ。
ドラマにならないほど。
記号的に描かれるほど。

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小野寺隆一
投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。