御酌
僕にはとってもかっこいい叔母がいたのですけれど。
従兄弟の結婚式。叔母にとっては息子の結婚式。
乾杯なんかも終わって歓談の時間になって僕にこう言いました。
「アタシは今まで一度も男に酌なんかしないと決めてきたんだけど、息子の会社の人たちにお酌した方がいいと思う?」
周りには何人かいたはずなのですけれども僕に聞くあたりがなんというかまぁ、お題を与える的な感じでちょっと憎たらしさを感じつつ。
ああ、やっぱりこの人はかっこいいなぁと思ったわけです。
僕以外に聞けば「当たり前じゃない」の一言で済まされちゃって自分でも、しないわよと逆に頑なになることが分かっているわけですよ。
「自分のために男に酌をしなかったんでしょ?息子のために酌をするのは別の話じゃない?」
と、なんとか即答出来ました。
少し考えて、「それもそうね。アタシのじゃないか」と言ってビール瓶を持って席を立ちました。
なんとか立つ理由になることを言えてよかったなぁと思いつつ。
いや、もっと別の答えが聞きたかったのかもしれないと笑顔で酌をする叔母をみて思ったのでした。
それが「しないでいいよ」だったのか「グラス持っていって酌させろ」だったのか「これからも息子をヨロってことで!」だったのか、未だに僕の中では答えは見つからないのですけれど。
でもその後、すごくご機嫌で得意のシャンソンをこっそり聞かせてくれたし合っていたのかもなと思うことにしています。
ほんとうのことはわからないよ。
僕なんかが生きてきた時代よりもずっと男女格差が大きかっただろうしさ。
負けることもあるわけです。
でもファイティングポーズは崩さない。
涙が流れても、目は光っている。
そういうかっこよさでありました。
闘い方はひとそれぞれだからさ。
まぁ、お酌するのも悪くないしさ。
でもかっこよさってのは共通している。
無意識の服従を赦さなかった叔母はやっぱりかっこよかった。
そこに意思があった。
映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃
「嘘ばかりの世界」だ
「ほんとう」はどこにある
【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一
撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき
【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。
家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。
やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。
◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)
投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。