メタミステリー
今も映画館の予告やポスターを見たり、チラシを手に取ったり、僕の知らないところで少しずつ映画「演者」が広まっている。
それがどこまで届くのか、誰に届くのかはわからないけれど。どこまでも届いてくれると嬉しい。誰かが気になってくれたら。
キャッチコピーや裏面の文章も一新している。
その多くは先行上映の感想を参考に検討を重ねてきたものだ。
もちろん一人でではなくて相談にも乗ってもらいながら。
そのコピーに出てくる「メタミステリー」という一言。
あまり一般的ではないし意味不明かもなぁと心配していたのだけれど。
思ったよりもその言葉そのものに魅力があるという意見をもらった。
なんというか、その言葉が良く見つかったなぁと思う。
そもそもの映画タイトルが「演者」というのがメタだ。
だって出演者は全員が「演者」なのだから。
「演者」を演じるということになる。
二重三重のメタ構造だよなぁと思う。
演じているのですか?と演者が演者に問う。
演じてなどいないですよと演者が演者に答える。
それを演じる。
ああ、ああ、頭がおかしくなりそうだ。
映画を観れば演者を意識することはないかもしれない。
そこに流れる時間と物語があるから。
それでもやっぱりこの作品はメタミステリーと言っていいと思う。
お客様によって驚くほど感想の内容が違う作品だけれど。
多くの方がメタな視点でこの作品のことを口にした。
こういうことって物語構造の枠を超えているから実際に体験しないことにはうまく言語化することが難しいことでもある。
中には、鑑賞している方が物語の一部になっているような感想まであったわけで、それはもう個人的体験に近いものだから、実際の触感のようなものまでは言語化なんか出来るわけない。
ぬるっとしてたみたいな、なんとなくの言葉しか出ない。
みかんの味を言語化できないのと一緒だ。
多くの映画は自分とは違う視点や経験を疑似体験できることが面白いのだと思う。僕自身もそうだし、感情移入できる作品はあっという間に僕の心を揺り動かしていく。その感情移入という部分がとてもとても難しいことなのだけれど、それを出来る監督や俳優がいる。
ただ時々、感情移入ではなくて自分とは違う視点でもなくて、自分の視点そのものを強烈に意識させるような作品がある。
メタ構造は否応なくそういう構造を含んでいるのだと思う。
モキュメンタリーのような作品が何年かに一度話題になるのはメタ構造を持っているからなのだと思う。
ああ。全然うまく説明出来ていない。
そういえば「怪物」とか「君たちはどう生きるか」の感想を読んでいても思ったことだけれど、どうしてもどの感想を読んでもしっくりこなかった。
結局、個人的体験に近い感想は他者の感想をうまくとりこみにくいのかもしれない。
近代化して初めてのパンデミック後の映画館で話題になっている作品には何か共通したテーマが流れているように僕は感じていて。
自分自身の内的なものにコミットしていくという、それぞれ角度が違うとはいえ、自分の中の矛盾のようなモノと正対するような何かがあるなぁと。
違うかもしれないけどさ。人それぞれ。
メタミステリーという言葉。
作品的にも、キャッチコピーとしても。
浮き上がってきたのはそういう背景があるのかもしれない。
何がメタミステリーなのかは、観てくださった皆様の持ち物にしてくださればいい。どこがメタなの?という感想まで含めて。
演じているのか。「ほんとう」なのか。
いつもうまく言葉に出来ている気がしない。
映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃
「嘘ばかりの世界」だ
「ほんとう」はどこにある
【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
劇場窓口にて特別鑑賞券発売中
先着50名様サイン入りポストカード付
出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一
撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき
【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。
家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。
やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。
◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)