5人に1人がリピーター、リゾート運営の達人星野リゾートを #マーケティングトレース
今回マーケティングトレースをするのは、「星野リゾート」です。
・創業は1904年。リゾートホテル事業を行う。
・リゾートホテル事業は、「星野リゾート」というメインブランド名と「星のや」「BEB」「リゾナーレ」「堺」などのサブブランドのもと、現在50以上の旅館・ホテル・施設を運営。
・経営理念には、「リゾート運営の達人」
直近では業界のオピニオンリーダー的な動きをし、マイクロツーリズムや1年~1年半の「withコロナ時代」を見据えた観光業界の話をしています。
直近の星野リゾートの決算
正確には、星野リゾートの決算ではなく、星野リゾートと賃貸契約をしている星野リゾートREIT(*1)の決算になります。
星野リゾートの物件を管理しているREIT法人の売上(星野リゾート系列のホテルの賃貸料)は、昨年よりも-137(百万円)となりました。
*1:REIT法人とはなにか?
REIT法人とは、星野リゾートの経営を個人投資家や機関投資家などの外部の人間がコントロールできないように、星野リゾートと賃貸契約をするREIT法人を用意し、直接の経営は、REIT法人と契約をしている星野リゾート本体が行うような仕組みです。
星野:「私たちが最終的にREIT(不動産投資信託)にたどりついた理由は、不動産の価値と運営会社の能力が生み出す価値を切り分けていくことによって、投資家が何に投資しているのかを明確にできると考えたからです。所有側は不動産の価値の最大化のために意思決定をする。運営側は資金調達をして運営のしくみに投資する。所有側と運営側の役割を切り分けたうえで、協力して相乗効果を出していくわけです。これは1980年代から世界のホテル業界がやってきたことです。ハイアットもマリオットもヒルトンも、それで急激に世界中に進出しました(日経不動産マーケット情報より)
これによって、星野リゾートの外部の人間が星野リゾートの運営に対して、影響を出せないようにしたり、星野リゾートが運営に集中できるメリットがあります。
マーケティングトレース
①PEST分析
直近のホテル業界の特徴としては、
・コロナウィルスの影響により、遠方への旅行が減っていること
・これまで旅行業界が当てにしていたインバウンド需要がコロナによりなくなり、国内需要を重視する傾向に変わった
・より顧客体験価値を向上させるための技術利用が期待されている(顧客のデータ活用やVRやAR、オンラインツールによるリアルの価値の見直し)
などがあげられるでしょう。
②競合分析
競合としては、ド競合の他の高級ホテルや旅館のほかに、コロナ禍でオンライン体験のマッチングを始め、オフラインとオンラインをかけ合わせた旅行のあり方について話すAirbnbなどもあげられるでしょう。
③STP(ターゲティング)
ターゲティングとしては、星野リゾートのブランドごとに異なるターゲットが設定されているものの、ざっくりファミリー層と若者層で出してみました。星野リゾートの場合、様々な価格帯の宿泊体験を提供しているため、顧客が若いときに獲得に成功すると、LTV(顧客生涯価値)が非常に高くなりそうです。
④STP(ポジショニング)
ポジショニングとしては、高級リゾートなどの醍醐味である非日常体験や、高級リゾートの中でもよい評判が立ち、ターゲット層にとって一度は行ってみたい憧れの存在のようなポジションを獲得しているのではないかと思いました。
⑤4Pマーケティング・ミックス
4Pの特徴としては、
・様々な価格帯のサブブランド提供により、多様な年代層の獲得につながる
・ミシェランにのるほどのおもてなし体験や地域に根ざしたサービス提供
・コロナ対策により、安心した宿泊につながっている
・代表の星野さんはホテル・旅館業界のオピニオンリーダーのような立ち位置として、多くのメディアに露出している。
・非日常体験がUGC(ユーザー生成コンテンツ)を生みやすく、口コミされやすい。
企業理念に「リゾート運営の達人になる」があることからも、業界への提言やメディア露出などは企業理念に沿った活動ということですね。
コロナ禍の対策という面では、「最高水準のコロナ対策宣言」というテーマで様々な三密回避・非接触体験の提供に努めています。(下図が例)
*施設によって内容が異なります。
星野リゾートの成功要因
成功要因①よいおもてなし体験ができるブランド構築
成功要因1つ目は、星野リゾートブランドに対する、「非日常的な体験ができそう」「満足したおもてなし体験を得られそう」といったブランドイメージの構築に成功した点です
その背景には、施設それぞれでサブブランドのコンセプトに沿って施設のデザインを決めていく流れにあります。
星のやでは、”現代を休む”をテーマとする星のやでは、非日常度合いを指標にしており、”王道なのに、あたらしい。”をテーマにする界では、日本の新しい温泉旅館の姿を指標として施設のデザインコンセプトを決めています。
デザインコンセプトを決める際は、「地域の個性をいかに反映させるか」という点を重視して決めています。
マーケティングとはお客さまの声を聞くこと。でも...どうしても競合と同じような商品やサービスが生まれてしまいます。そこにオリジナリティはありません。....オリジナリティが求められる時代、特にサービス提供の場合には自分たちのこだわりを出していく必要があると考えています....そのこだわりに気付いたお客さまは、たちまちファンになり、友人や家族におもしろかったと伝えてくれる「「ありえない、いらない、ウケない」は大歓迎――星野リゾート、反対を“快感”に変える「独自スタンス」」
そのため、施設ごとに異なるコンセプトが出来上がり、サブブランドの軸となるテーマは統一されているものの、地域によって彩りがでます。施設のテーマを従業員内で共有し、現場主導でサービスを作り上げることで、施設内で提供する料理やアクティビティ企画などに地域色(独自性)が生まれ、口コミ(UGC)につながる仕組みになっています。
成功要因②サービスを支える「人材」を活かす仕組み
2つ目は、ホテル・旅館サービスを提供する人材が活きる仕組み作りにあります。詳細をまとめると、
①フラットな組織設計:お客さんに現場現場で適切なサービスを提供するためにはフラットに上司と現場が話し合える組織設計をしています。たとえば、役職はあくまで権限を示しているだけで、「偉い」というイメージではないという考えをもっており、「偉い人信号」をなくすために「~さん」付け文化、オフィスの机の位置、集合写真の経営者の位置など細かい注意しています。
②会社の情報全公開:現場現場で議論し話し合うためには、経営者や上司と同じ情報量をもつ必要があります。そのため、「顧客満足度」「稼働率」「費用」「売上」などのデータをすべて現場レベルでも確認できるようにしています。
ちなみに、コロナ禍では「倒産確率」を公表し、従業員一人ひとりの経営意識を促しています。
③麓村塾:共有されたデータを活用して、自分たちで改善施策を出すためには、考えるための技術を学ぶ必要があります。そのための技術を学びたい社員が自発的に学べる社内塾「麓村塾」をもっています。(参加義務なし)
④マルチタスク:一般的なホテルは、分業によりそれぞれの役割で専業化していきますが、星野リゾートでは、マルチタスクという1人で数役を掛け持ちする体制をもっています。これにより、役割による評価の差をなくすメリットや顧客主導で何をするべきかを柔軟に考えられるメリットがあります。
⑤現場主導:現場現場で顧客の満足度向上のために何ができるかを考え、実行していく体制になっています。
⑥昇格の立候補制度:ユニットディレクターと言われるリーダーポジションには、立候補で応募できます。立候補後、チームをどんなチームにするかをプレゼンし、社員のアンケートや施設の総支配人の意見で、次期ユニットディレクターがきまります。誰でも挑戦できる機会がもらえ、フラットな組織作りに役立ちます。
成功要因③ブランドイメージを活用したリピーター(ファン)獲得
星野リゾートは、一度どこかの星野リゾートを利用した顧客が別の星野リゾートを使ってみたいと思ってもらう顧客体験価値・おもてなし体験への高い満足度があると思います。(*星野リゾートで運営している施設の一覧)
これにより、顧客の様々な旅行タイミングや年代が変わったとしても、星野リゾートブランドを繰り返して利用し、売上の向上につながっている仕組みになっていそうです。(宿泊者の5人に一人がリピーター)
リピートを増やすためには、星野リゾートでは、従業員が顧客の「気づき」を集めます。例えば、生野菜が好きだ、◯◯は苦手だという「気づき」を顧客データベースに登録しておき、そのデータをもとに次回は生野菜を増やす、〇〇をなくす、といった顧客一人一人に合わせたサービス提供をしています。
また、早くからIT投資を進めており、様々な旅行予約サイトがある中でも自社の予約サイトをもち、自社経由の予約は5割を超える割合とのことです。結果、顧客のニーズに合わせた施設の提案ができ、期待値調整につながり、顧客満足度にもつながっています。
旅のニーズというのは、実は行きたい場所から決まるわけではありません。「おばあちゃんを連れて、良い温泉に行きたい」とか「おばあちゃんが喜ぶ温泉旅館に行きたい」というような動機がまずあって、それに適した宿はどこにあるのか?ということなのです。...90歳になるおばあちゃんが安心して泊まれる温泉旅館ってどこだろう? そういうニーズからのリゾートや旅館の選択というのは、自社ホームページでの予約システムだからこそ可能なのだと思います。「星野リゾート代表が語る「強い組織」の作り方。未来を担う人材はこうして育つ」
CMO仮説:旅行周辺サービスor一生使い続けられる旅館・リゾートホテル化
いかに、リピート率を今よりも向上させるかが成長させる鍵かなと思いました。そのために、海外での星野リゾートブランド施設の開拓を通して、星野リゾートブランドを繰り返し利用してもらえるようにし、「海外のどこで食べてもマクドナルドは安心して食べられる」のようなポジションを構築できるとよいのかなと思いました。
まとめ
今回のトレースでは、
・独自性を活かした尖ったブランドコンセプトを作ることで、競合との差別化になり口コミが生まれやすい(似たものは口コミされにくい)
・地域それぞれで尖ったコンセプト・ブランドイメージを構築するためには、コンセプトを実行し形づくっていく現場が現場でコンセプトをどう体現するかを考え、実行できる体制作りが必要。(情報全共有、フラット組織作りなど)
・業界の常識とは異なるやり方をとることで、業界人から批判はされるが競合に真似されにくい。(ただし、理念から落とし込んだ場合に限る)
などが学びになりました。
よりトレースを深くするために、マーケティング関連の古典なども読みながら応用して深めていきたいと思います。また、決算分析もよりできるように学びたいなと。次回も引き続きマーケティングトレースしていきます。