食事に「楽しさ」と「驚き」を提供するくら寿司をマーケティングトレース
前回のスシローに引き続き、今回も回転寿司チェーンから「くら寿司」をマーケティングトレースしていこうと思います。(2021年6本目)
くら寿司は、1984年に創業し「100円で本物」をフレーズに回転寿司の提供を開始しました。
現在では、店舗国内、467店舗、海外54店舗(アメリカ・台湾)を展開しています。経営理念には「食の戦前回帰」(*1)を掲げています。
2019年7月には、『kura Sushi USA.Inc』が日経外食企業で初めてアメリカのナスダック市場に上場申請をしたことでも話題になりました。
*1「食の戦前回帰」とは?
添加物を含まない、素材そのものの味わいを求め、 「食」が安心・安全だった戦前のバランスの取れた 理想的で健康的な食生活を取り戻そう。これが私たちの決意です。
また、業績は好調に伸びている一方で、経常利益率に関しては、6%未満と10%台のスシローと比較すると低い印象です。しかし、背景には継続的な店舗の効率化や省人化があります。
前回トレースした、業界1位のスシローとの違いを見つけながら、トレースしていきたいと思います。
直近のくら寿司(2019/11~2020/10/31)
営業利益は、前年比よりも-93.6%となっていまが、売上ベースでは前年比-0.2%と前年比並に売上が回復していることがわかります。(営業利益が減少している背景は後述)
投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)も増えています。背景としては、2020年10月期では、国内25店舗を新規オープンし、2020年2月には、旗艦店として「浅草ROX店」をオープンしたことなど、継続的な新規店の開拓が背景にあります。
売上と原価が前年比並なのに営業利益が低下している背景は、コロナ禍でのマーケティング活動費です。「鬼滅の刃」コラボや「GoToEatキャンペーン」対応などがあげられます。
(GoToEatキャンペーンでは「無限くら寿司」が話題になっていましたね)
これらの効果で、コロナ禍にも関わらず前年比並みに回復することが出来ました。
マーケティングトレース
外部環境や競合店などは、同じ回転寿司チェーンのスシローと同じになると思うので、説明は割愛いたします。
ターゲット層としては、メインターゲットはファミリー層にしているものの、糖質オフメニューを提供するなど女性向けのサービスも行っています。
ポジショニングとしては、ターゲットであるファミリー層目線で考えた際に、外食するお店を選ぶ際に「おいしい」「手が出しやすい価格」「子供向けのメニューがあること」などは前提だと思います。
その上で、くら寿司が差別化になっている点は、店舗での食事体験が「楽しい」という点です。(詳細は後述します。)
4Pマーケティング・ミックスの特徴は、
・創業以来続く100円メニュー(現在174種類)かつ添加物不使用
・価格帯としても、都市でも地方でも変わらない100円
・車でも行きやすい駐車場ありの2階建て
・通販サイトをもっており、Amazonでも商品を販売している
など。
また、直近のCMではダウンタウンを起用し、これまでのネタのシズル感全面したCMがメインだったのに加え、おもしろさなども加わっております。
成功要因まとめ
くら寿司の成功要因としては、以下の3つにまとめました。
成功要因①:創業以来続く、「100円で本物」
100円で提供できる背景としては、仕組みによる徹底的な省人化です。
たとえば、
・客席からお皿の投入口があり、厨房までお皿を流すことができる
・自動皿洗い機は、4人分の働きをする
・シャリを握るロボは一時間で3600貫をつくり、5人分の働きをする
・オーダー管理により、どの時間に何をどれくらい流すかを機械で決めている(ただし、イレギュラー時は店長判断)
など。スシローと同じように徹底的な機械化による省人化を進めているのですね。
加えて、回転するお寿司の抗菌カバーである「鮮度くん」があることで、競合店よりも流れている寿司皿を顧客にとってもらうことが可能です。
結果、通常「タッチパネルからの注文と、レーンから取られる比率は7:3」と言われるなか、くら寿司の割合はほぼ「5:5」です。
これにより、すしの廃棄率を約3%まで抑えることができています。
また、くら寿司の原価率は45.3%(スシローは48.1%)と外食業界の中では、非常に原価率が高く、”本物のお寿司”を提供するためにネタにお金をかけていることがわかります。
ちなみに、最近では「極みシリーズ」というより高価値な商品ラインナップを充実させており、これまでくら寿司に来なかったような層の獲得、客単価の向上を進めています。
成功要因②:食事を安心して楽しむ設計
くら寿司は、インターブランドジャパンのグループの一員であるC Space Japanが行う、顧客体験価値調査(CX: Customer Experience)で2位にランクインしています。1位のディズニーに次ぐ順位となっており、非常に高い顧客満足度を得ていることが見て取れます。
顧客が楽しむしかけの一例は、「びっくらポン」です。子供が「びっくらポン」を目当てにくら寿司に行きたがるというほど楽しいものだそうです。
また、今後強化していく「スマートくらレストラン」では、店員と最初から最後まで接することがなく、機器にも触れることがない完全非接触型の店舗を実現しています。
機械で案内し、注文や会計ですら店舗のタッチパネルにふれる必要なく、皿も自動でカウントしているため、店員と触れる必要がありません。
またくら寿司側は、サービス充実や多種多様なメニューの提供により集中できるようになっています。
今後同様の形態を増やしていくとのことです。
成功要因③:サイドメニューの充実による広範囲なターゲット層の獲得
くら寿司を利用している人の声でよく聞くのが、お寿司だけではないサイドメニューの充実度です。充実しすぎて巷では、「回転料理屋」と言われているとか。ラーメン、天丼、カレー、うな丼、デザート類などなど合計76種類とファミレス並の品揃えです。
くら寿司では、「アイデア対象」という日常の困りごとや問題点に対して全社員から解決策を募り、優れた案に対してインセンティブを支給する仕組みがあります。2019年時点で試作品の数は、3000品とたくさんアイデアを出し、日々改善を加える組織文化もあります。
くら寿司はアイデアが豊富と言われます。しかし、結局は人間が好きで、いろんなことを面白がってやっているだけなんです。そして、特異性はすべてここから出てくる。そのために経営者が持つべきは「忍耐と勇気」だと思います。新しいことをやる勇気を持ち、面白がっている部下に任せ、ちゃんと見守って責任は問わない。すると、どんどん新しいことを始められます。「くら寿司が“神がかり的”アイデアを連発できる「シンプルな発想法」」
そこから生まれた「シャリコーラ」は2週間で10万本が売れるほど、大ヒット商品になりました。
もし、くら寿司のCMOだったら
CMOとしてくら寿司を伸ばす仮説としては、
①都市型ピックアップ専用店の開設
②シーズンごとの消費を狙った商品の開発
をあげました。
学びまとめ
学び①:人の良さを活かすシステム活用
システムを省人化するために使うだけではなく、本来人が集中するべきこと、人にしかできないことに集中するために使うこと。
「私たちのような外食の店舗は、『ただ食事ができればいい』というスペースではないはずなんです。ほっこりした温かさを感じ、来て良かった、楽しかったね、と思って帰っていただきたい。それは結局のところ、『おもてなし』としての接客に行き着くと思っています。
今、席への自動案内やセルフレジの導入も進めていますが、私たちは無人店舗を目指しているわけではありません。たとえば、海外からのお客様が多い店舗では、外国語を話せるスタッフを配置しています。私たちも外国にいるとき、日本語で話しかけられたら嬉しいですよね。そういった“人でしか出せない温かみ”はさらに強化していく。その余裕を確保するためのシステム化じゃないかな、と考えています」
(「くら寿司が進化させる、回転寿司の“当たり前”。「楽しさ」と「驚き」を顧客に与える、テクノロジーのあり方とは」)
学び②:店舗だからこそできることの意味を考える(オンラインとオフラインの組み合わせ)
くら寿司では、店舗を食事をする場所として捉えるのではなく、来ることで「ほっこりするような場所」として捉えています。
コロナウィルス対策により、オンラインで過ごす比率が増え、オフラインとオンラインが曖昧になっている今だからこそ、オフライン店舗の意味を考え、オフラインだからこそできること・オンラインでいいことを区別して考えるよ良さそうです。
学び③:経営者だけではなく全社員で改善する仕組み作り
くら寿司では、自社の株を社員に持たせる制度があるようです。そうして、経営層だけではなく、社員全体で会社を経営する気持ちをもって、改善案を全社員でたくさん出し改善していく。
名著、『アイデアのつくり方』で紹介されているようなよいアイデアを生むコツを実践してますね。