見出し画像

【特許図面図鑑 No.07】バウハウスにまつわるデザイン図面

ユニークで奥深い「特許図面」の世界を紹介するこのコラム。今回は、芸術の総合的教育機関「バウハウス」に関連する図面を紹介します。

バウハウスは第一次世界大戦後の1919年にドイツで誕生し、1933年に閉校。その歴史は14年間という短い期間であったものの、その後の建築界・デザイン界に影響を与える幾多の著名人を輩出しました。(参考:「バウハウス」Wikipedia)

図面を眺めながら、一緒にバウハウスの歴史に思いを馳せていきましょう。

<用語説明>
・バウホイスラー:バウハウスに所属したメンバーのこと
・マイスター:バウハウスの教員のこと
 参考:バウハウスってなあに?(白水社 2019年)

01 マルセル・ブロイヤー:Marcel Breuer 氏(1902-1981)

Marcel Breuer - Google Arts & Culture

一期目のバウホイスラーであるブロイヤー氏による代表作「ワシリーチェア」。チューブ型のスチールを用いた構造は自転車から着想を得たとのこと。(参考:「Marcel Breuer」Knoll HP)

FR640760A:Metal tube furniture(フランス)

画像1

FR640760A(優先日:1926.9.13、出願日:1927.9.12)Espacenet リンク

02 ミース・ファン・デル・ローエ:Mies van der Rohe 氏(1886-1969)

Ludwig Mies van der Rohe - Google Arts & Culture

バウハウス三代目校長である同氏による代表作「カンチレバーチェア」。上記ブロイヤー氏のワシリーチェアとほぼ同時期に出願されています。

DE467242C:chair(ドイツ)

画像2

DE467242C(出願日:1927.8.24)Espacenet リンク

他にも色々な形状の椅子について、オーストリアやドイツにて出願されています。

AT128771B:Seating furniture with a spring-loaded frame(オーストリア)

画像3

AT128771B(優先日:1929.12.20、出願日:1930.11.18)Espacenet リンク

DE652791C:Seat, especially for motor vehicles(ドイツ)

画像4

DE652791C(出願日:1935.10.24)Espacenet リンク

乗物用の椅子についてもデザインされていたのですね。

なお、詳細は不明なものの、同氏は著名なフレーズ『神は細部に宿る』にも関わっています。(参考:『「神は細部に宿る」は誰が言った言葉か』レファレンス共同データベース)

03 モホリ=ナジ・ラースロー:Moholy-Nagy László 氏(1895-1946)

László Moholy-Nagy - Google Arts & Culture

次は、マイスターであったモホリ=ナジ氏に関する図面を紹介します。

ハンガリー出身でドイツへ亡命後にバウハウスの教員となり、様々な制作活動を行っていた同氏。こちらの米国特許の図面は、机上に置くペンホルダー&ペンのセットについてです。(参考:「László Moholy-Nagy Prototype desk set」PHILLIPS HP)

US2510648A:Pen desk set(米国)

画像5

US2510648A(出願日:1945.12.22)Espacenet リンク

その他、万年筆の意匠権もあります。

USD146806S:Design for a fountain pen(米国)*意匠権

画像6

USD146806S(出願日:1946.2.11)Google Patents リンク

04 マックス・ビル:Max Bill 氏(1908-1994)

Max Bill - Google Arts & Culture

バウホイスラーであり、時計のデザイナーとしても有名なマックス・ビル氏。座席に関する特許出願がありました。

CH359259A:Seating(スイス)

画像7

CH359259A(出願日:1957.11.16)Espacenet リンク

教室や映画館等における利用を想定してデザインされた座席。安価で頑丈な構造を実現するアイデアです。

なお、同氏は1953年にドイツで開校された「ウルム造形大学」初代学長でもあります。同校はバウハウスの精神を現代へと継承した学校であり、後のデザイン界へ大きな影響を与えました。(参考:「max bill」)

05 ヴァルター・グロピウス:Walter Gropius 氏(1883-1969)

Walter Gropius - Google Arts & Culture

バウハウス初代校長であるグロピウス氏の代表作かつ遺作であるティーポットに関する意匠権。

USD219165S:Tea pot(米国)*意匠権

画像8

USD219165S(出願日:1969.5.23)Google Patents リンク

本件の出願日は命日(1969.7.5)の直前である 1969.5.23。生涯を終える直前まで活躍していた様子がうかがえます。なお、本作品は現在も通信販売にて購入可能です。(参考:Rosental TAC ホワイト ティーポットS

【おまけ】アルヴァ・アアルト:Alvar Aalto 氏(1898‐1976)

Alvar Aalto - Google Arts & Culture

最後はこちら。「バウホイスラー」や「マイスター」ではなかったものの、グロピウス氏とも交流のあったアアルト氏の図面について紹介します。

同氏が発明した曲木技法「L-レッグ」に関するものです。販売されているスツールの写真をよく眺めてみると、湾曲部には特許図面と同様の縞模様が見受けられます。誕生から90年近く経った今もなお活用されている技術なのかもしれませんね。

GB423686A:Improvements relating to a process of bending wood and to articles made thereby(英国)

画像9

GB423686A(出願日:1933.11.8)Espacenet リンク

FI28191A:Taivutettujen puukappaleiden yhdistelmä(訳:A combination of bent pieces of wood)(フィンランド)

画像10

FI28191A(発行日:1956.2.10)Espacenet リンク

以上、バウハウスの関係者達によって生み出された「知的財産」である図面を紹介しました。いずれも権利としては既に消滅しており、「他社/他者には使わせず、独占できる」といった効果やそれに基づく価値は存在しません。しかし図面には、その対象物に纏わる歴史的な価値があります。

特許等の知的財産権に関する文献は、権利を証明する文書というだけでなく、発明者/創作者の多大な苦労や思考に基づく創作結果を後世へと残すための作品。そんな側面を意識しながら、今後も「知的財産」を発掘して紹介していきたいと思います。

(参考文献)
バウハウスってなあに?(白水社 2019年)
Was Alvar Aalto part of the Bauhaus Art Movement?(AALTO USA)

記事をご覧いただき有難うございました!