「飾る氷」に新しい価値を!新商品「香氷華®」開発【#10 小野田商店100+ 】
氷に新しい付加価値を
さて突然ですが皆さんは、氷のにおいってどんなものをイメージしますか?
ご家庭の製氷皿で作った氷のにおいをイメージする人も多いかもしれません。(においに敏感な方なら、ほんのりカルキっぽい臭いを感じるかもしれません。…湿っぽい臭いをイメージした方は…多分、冷凍庫がカビってるので掃除しましょう…>_<)
いわゆる純氷や天然氷、小野田の超純氷®︎は無味無臭になります。
これはゆっくりと凍らせた氷は凍結濃縮という作用によって、不純物の少ない、あるいはほぼ無い氷となるためです。
ですが氷は結晶ですので、成長の仕方によってはインクルージョン(内包物)を取り込むことがあり、急速に冷凍した氷では内部に白い気泡などが閉じ込められます。
ゆっくりと凍らせた氷は凍結濃縮という作用によって、不純物の少ない、あるいはほぼ無い氷となりますが、急速に冷凍した氷では内部に白い気泡などが閉じ込められます。
このとき周囲のにおいを取り込むので、場合によっては結構「臭う氷」ができることもあります。
ここで、小野田商店ではこの性質を利用して、逆に氷に「いい匂い」を付けることはできないかと考えていました。
例えば、ほんのりシナモンやレモンなどのフレーバーがする、無味の氷があれば、様々な使い方がありそうですよね。
しかし、設備上や法律上のハードルが意外と高いことが判明し、このアイデアは一旦お蔵入りとなります。
そこでこのアイデアを飲食用ではない形で実現できないかと考えました、
小野田商店が「氷華®」として製造している花氷と組み合わせる形として。
きっかけは当社社長がある展示会で見かけた、陶製の香具に着想を得て、飾ると涼がとれるだけでなく、香りも楽しめるアロマ的な氷華®を作れないだろうかと考えたことでした。
このようにスタートした新商品「香氷華®」開発計画。
当初は氷に「匂い」という付加価値をプラスすることはあまり難しいことだとは思われていませんでしたが香氷華®が完成するまでは長い紆余曲折があるのでした…。
匂い付きの氷は透明にならない?
さて、氷にアロマ的な要素をプラスする上で最初に課題になったのが、まずどうやって氷に匂いをつけるかということです。
そのため、様々な基礎実験が行われました。
氷にそのままアロマフレグランスを投入するテストでは、においがしない部分と、極端ににおいが強く悪臭の域に達している部分が出てきたしまい、またにおいが強い部分は見た目にも白く濁ってしまうなどの問題が起きました。
これも前述の「凍結濃縮」によるもので、氷の結晶は成長する過程で不純物を追い出しながら凍るため、匂い成分が一点に集められてしまうのです。
似たようなケースで、とけてしまったアイスキャンディーを再冷凍したところ、味のしない部分と、味の濃い部分ができてしまったという経験をしたことのある方も多いのではないでしょうか?
特にアイス缶製法では、時間をかけて氷の結晶が大きくなるようにつくるため、この傾向はなおさら顕著になります。
このように、実は透明な氷に匂いという要素をプラスするのはとても困難であったことが基礎実験から明らかになってきてしまいました。
氷と匂いという要素を組みあわせたものとしては、サウナを楽しむ方がロウリュを行う際に、サウナストーンに水をかける代わりに置く氷「キューゲル(kugel)」があります。
キューゲルは氷にアロマエッセンスなどを入れて、融かしながらロウリュとして香りを楽しむものです。
これを氷柱にしたようなものを作っても、サウナストーンの熱による蒸発のような効果がないと、どうしても氷にフレグランスを入れただけでは、アロマとして物足りない匂いになってしまいます。
また、見た目としても白く濁ったものとなってしまい、氷華®の持っている透明な輝きは損なわれてしまいます。
結構難しかった、氷とアロマの組み合わせ。
まずどうやってその二つを共存させるのか、模索が始まりました。
氷と匂いを合わせる、様々なアイデア
氷とアロマを組みあわせるためのアイデアは非常に様々な考えられました。
例えば、以下のようにアロマキャンドルとアイスキャンドルを組み合わせたようなものも考えられました。(というか筆者が考えました。)
しかし、プレゼン資料の出来の悪さもあってかやはり「氷」から匂いがするという要素を大事にしたいこと、見た目の美しさとの兼ね合いもあって難航しました。
様々なアイデアが中で、最終的に現実的なアイデアとして選ばれたのが「フレグランスボトルそのもの」を氷に埋め込むというものでした。
フレグランスボトルには、多孔質である石膏のキャップから毛細管現象で匂いを拡散するタイプのものが選ばれ、石膏のキャップが花のようにデザインされたものを氷に埋め込んでテストを行っていきました。
しかし実際に氷にボトルを埋め込んでみたところ、石膏のキャップにヒビ割れが生じてしまいました。
これは「凍結膨張圧」と呼ばれるもので、寒冷地での水道管の破裂などの原因となります。
毛細管現象で香料を吸い上げるキャップでも同じように圧力による膨張を起こしてしまいました。
また、石膏は湿気も吸水しやすい性質があるため、凍らせるまえに水に入れた時点で脆くなっていた可能性もあります。
このように、石膏キャップを直接氷に閉じ込めると破損してしまうが判明しました。
そのため、石膏キャップだけが出た状態でボトルを氷に閉じ込めて、その上からキャップの周りをくり抜いた氷で蓋をするように、二つの氷を貼り合わせる方向のテストが始まりました。
キャップの周りに空洞を作った氷での埋め込みテストは成功し、この方向で商品化できるように思えましたが、テストを何回か行ううちに、石膏のキャップが氷の外に出してあっても、温度などの影響を受けて割れてしまうことがあることが判明しました。
このことから、石膏のキャップは素材としての耐久性に問題があること、また匂いを拡散する性能も不十分であることがわかってきたため、根本的に素材やコンセプトを見直す必要が出てしまいました。
石膏キャップの代わりに、人工軽量骨材やスポンジ、サンゴの骨格などを使ったディフューザーのアイデアまでありました。
そのアイデアは非常に多岐にわたり、何回もテストが繰り返されました。
様々な検証を重ねた結果、氷の中に埋め込んだフレグランスボトルに、ガラスのストローを埋め込んで、そこにディフューザーとフラワーアレンジメントを挿すというコンセプトにたどり着きました。
中のアロマリキッドとフラワーアレンジメントの色を合わせることで、リキッドの色を吸って花が色づいているような、そんな印象を与えるコンセントとなりました。
一旦はこのデザインでほぼ確定の方向で動いており、量産の準備も進んでいきました。
よりコンセプトデザインを洗練、効率化等を進めて行き「香氷華®」の商品化まであと一歩のところまで来ました。
また、デザインのバリエーションも進んでいき、春夏秋冬の草花のイメージしたバージョンも作成され、これらのうち幾つかは2021年度東京ホテル旅館組合などのイベントで、実際に展示されました。
このようにいよいよ発売間近に思われた「香氷華®」ですが、ここで思われぬ課題に直面します…!
思わぬ課題に直面、そして「香氷華®」完成!
ここまで完成寸前に至った香氷華®でしたが、いざ商品化を現実とした手前で思われぬ課題が判明しました。
それは、制作に用いる技術的、資材的etc…のコストが高すぎるということです。特にハンドメイドのフレグランスボトルは、かなり凝ったデザインとなっていることもあり、長期的に製造を続けていく上で、このデザインで行くのは実際なかなか困難なのではないか…?
そういった結論に至らざるを得ませんでした。
そこで原点回帰、初期アイデアだった石膏キャップのボトルを氷に埋め込んだテストを思い出し、ボトルのキャップだけを氷から出した状態で埋め込み、石膏キャップだった部分を木製キャップにして、使用時はそれを開けてスティックを挿し込むスタイルとしました。
試作品でのテストを繰り返して、ディフューザーの匂いを拡散する力や、製造のコストなどについても充分に検証を重ねた上で、ついに「香氷華®」が完成しました!
こうして完成した香氷華®、ホテルのフロントやレストランなどにさりげなく設置するだけで、涼しげでリッチな雰囲気を演出することができます。
専用の木箱にはロゴが刻まれ、高級感あふれるデザインも特徴です。
ホームパーティーやギフトグッズなどにもピッタリ。
氷が融けた後も中身が残っていれば継続してルームフレグランスとしてご使用いただけます!
まさに五感で楽しめる、唯一無二のアイテムとなりました。
透明な氷の輝きに、さらに進化を
氷華®は、明治時代から作り続けられている日本ならではのアイスアート「花氷(氷中花)」を、現代風にアップデートし、ギフトグッズとして広く楽しんで頂くことを目指したコンセプトとなっています。
時代の変化ともに見かけることが少なくなっている氷のアート、この文化を伝えていくためには、ただ過去の技術を継承していくだけでなく、新しい付加価値をプラスして行かなくてはいけないと考えています。
今回の「香氷華®」開発はその足掛かりとして、小野田商店としても大事な経験となりました。
これからも小野田商店は、氷の可能性を追記し、新たな楽しみ方を提供できるよう、様々な面からチャレンジを続けていきます!
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