社長芸人による芸人経営学.5
前回に引き続いて、芸人事業における流通の説明です。
本コンテンツ執筆時点において「芸」の最大の流通先はテレビです。厳密には、テレビ、ラジオという公共の電波に乗るコンテンツです。
これらの大多数は直接的なスポンサーによって提供されるため、原則として「台本」があります。
どのようなコンテンツとして社会に提供するのか、あらかじめ決めた上でスポンサーをつけた上で制作されるからです。
この場合における「台本」とは、実際に私達芸人などが演じる為の狭義の台本と、番組コンセプトや企画趣旨、具体的な演者案など番組の大枠をまとめた企画書など広義の台本も指します。
つまり、制作側の意図に合致した芸人がキャスティングされる事となります。
一方で、YouTubeを筆頭とする動画投稿サイトや17アプリ、ふわっち、showroom等の配信サイトを用いる事で、芸人は自主的に「芸」を流通させる事ができます。
音楽でいうところの自主レーベルや自主制作のようなものです。
やはり最大のメリットは自分の思い通りに制作したものがすぐに発信できるという点でしょう。
社会通念上適切な内容でさえあればいつでも始められます。コストも手持ちのスマートフォンさえあればほとんどかかりません。
その一方で、参入障壁が著しく低い事による「芸」の供給過多が起きて、熾烈な制作競争が起きています。
また、テレビ等のマスメディアで知名度を得た芸能人が相次いで参入しており、「TVに出られないから動画制作を始めたのに、閲覧してもらうのがテレビに出るくらい難しい」という状況となっています。
しかしながら、スポンサーなどの意向を考える必要がないためニッチな需要に向けたコンテンツを制作する事もできます。
ここ数年で急速にブレイクした「キャンプ動画」がその最たるものです。
「テレビで取り上げるほどでもない個人的な趣味」を「テレビではあり得ないほどそのまま淡々と撮影し、簡易的な編集のみで長時間のコンテンツとして公開する」という手法が、アウトドアブームやそもそものアウトドアという趣味の特性と合致して、動画コンテンツの一大勢力となっています。
数多くの追従者も出てきており、動画再生数を稼ぐためには熾烈な競争に勝たなければなりません。趣味を楽しむ事が二次的な目的になってしまっているという人々も見られる程です。
それでも根強い需要があるため、「テレビへの逆輸入」がされるようになりました。
ここでついに、「動画投稿サイトからテレビへの還流」が起こったのです。これはキャンプ動画だけではありません。
衝撃動画であったり、動物動画であったり、多種多様なコンテンツが動画投稿サイトからテレビに採用されるようになりました。
このある種のメディアミックスが、両者の垣根を低くしていき、「人気YouTuberがテレビに出演して社会的知名度が大きく向上する」という現象にまで発展しました。
テレビ・ラジオと比較した場合、動画投稿サイトを主としたSNSへの広告出稿額が2倍以上になっているというデータもあります。
特に若年層においては、テレビより動画投稿サイトのほうがはるかに閲覧時間が長いという調査結果もあり、芸の流通の主役が動画投稿サイトになるのも時間の問題であると言えます。
それでは、動画投稿サイトで芸を流通させる際にどのような戦略を取るべきか考えていきましょう。
必要な要素は
・誰に
・何を
見せようとするのかです。とはいっても、各個人が制作するとなると出来ることは限られてきます。
そこでまず、自分のコアコンピタンスとなりうる要素を抽出します。
得意な事、専門的な知識がある事、資格や経歴がなければできない事など、他に真似されにくい、また競争になりにくい要素を考えます。
専門性が無い場合は、「時間」や「お金(資金)」を使うしかありません。人間関係というのもいいでしょう。
コアコンピタンスを明確にしたら、次にそれを届けたい層を想定します。
仮に「中華料理が得意」としましょう。
その場合、あなたの動画を届けたいのはどのような層でしょうか?
・中華料理のプロを目指す人
・中華料理のプロ
・家庭で美味しい中華料理を作りたいと思っている人
・料理を作ってるのを見たい人
・失敗を期待する人
・変わった料理、見たことがない料理を見たい人
・料理を食べているところを見たい人
・綺麗な料理や華麗な調理テクニックを見たい人
・料理のコツや意外な方法を見たい人
ざっと考えただけでもこれだけあります。
「家庭で美味しい中華料理を作りたい人」というのは.更に「調理の素人」「調理経験者」などに細分化することができます。
こうして対象者を細分化し明確にターゲティングする事で、制作する動画の方向性が定まります。
次に動画を制作してアップロードし、市場の反応を見て改善していきます。
動画投稿サイトに芸を流通させるというのは、自由な反面、様々な知識と技術が要求される部分が出てきます。
しかし、自分の芸のプレゼンテーションの場が無料で使えると考えると、芸人事業においては欠かせない媒体であるといえます。
詳細な戦略立案については別の機会に述べる事とします。