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生成AIネイティブなプロダクト・UI/UXを考える
こんにちは、株式会社Algomaticの大野です。Algomaticは、スタートアップスタジオ型を取り、生成AIを活用した事業を同時多発的に立ち上げている会社です。
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「AI(人工知能)、機械学習」というと一部のアカデミアだけに任された領域にも聞こえますが、新たな生成AIサービスの爆発的な普及には、UI/UXにおける発明も同様に求められる、と思っています。インターネット革命やスマホ革命で、それぞれ新技術を前提とした全く新しいプロダクトの設計・UI/UXが求められたことと同様に、です。
今日は、AIネイティブなプロダクト・UI/UXのあり方について、よく社内で議論していたり、思考していることをお話できればと思います。
生成AI時代、トップのUXデザイナーが主役になる時代だなとつくづく思います。技術者だけでなく
— 大野峻典 | Algomatic CEO (@ono_shunsuke) November 24, 2023
理由はシンプルで、技術革新により体験設計の正解がリセットされたので、全く新しいスタンダードを発明する必要あるんですよね
実際、既に真にイケてる生成AI系サービス、全く新しいUXを発明している
生成AIの実用性の壁
「ChatGPT」の一世風靡から約一年、2023年は人々がAI技術の新たな可能性に気付き虜になった年でした。未だに、生成AIについて話題を目にしない日はありません。
そうした中で、「生成AIサービスには実用性が足りない」「使いづらい」というネガティブな声も、ちらほら耳にします。
本当に「生成AIサービス」は、実用性が足りないのでしょうか?少なくとも一部の人にとってそう感じる原因はどこにあるのでしょうか?
一見解像度粗く考えると「生成AIモデル」の課題にも見えがちですが、「生成AIモデルの課題」と「生成AIサービスのUI/UXの課題」を分離して考えてみると、「生成AIモデル」そのものではなく「生成AIサービスのUI/UX」に課題があるケースも少なくないと思っています。
「生成AIネイティブなUI/UXの正解」は、まだ誰もわかっておりません。スマホ黎明期やインターネット黎明期に、正解なUI/UXが分からなかったのと同じです。多くの生成AIサービスは、まだ万人向けにUI/UXを洗練することができておらず、その結果、一部のリテラシーが高い人以外にとっては利用のハードルが上がってしまっているのです。
超優秀な部下と、トランシーバーで仕事できるか?
「生成AIモデルの課題」と「生成AIサービスのUI/UXの課題」を分離して考える必要があるという話をする際に、わかりやすさのためによく話す例を紹介します。
例えば、「あなたに、とても優秀な部下を与えます。しかし、部下とのやり取りは、トランシーバーでだけでお願いします。部下には、仕事に関する特別な事前知識はありません。」という環境だとしましょう。
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トランシーバーなので、交互にしか喋れないし、ラグもある。また、仕事の事前知識も特には与えられていない。
この状況で、仕事はしやすいでしょうか?多くの仕事は、かなり難しいですよね。
この場合、「この部下は能力が足りない」ではなく、「仕事の仕方・環境に問題がある」と考えますよね。能力以前に、トランシーバーでしかやりとりできないこと、事前知識が与えられていないことなどが、原因の可能性が高そうだと、考えるわけです。
生成AIサービスにおける、プロダクト・UI/UXの課題
ChatGPTをなんとなく触りながら「生成AIには実用性が足りない」と感じているケースの多くは、上記と似たような状況ではないでしょうか。
ChatGPTは、大規模言語モデル(LLM)と「チャット」という限定的なインターフェースを媒介してやりとりできるサービスです。トランシーバーよりは幾分マシかも知れませんが、その協働のためのインターフェースは、十分なものではありません。仕事で同僚と共有しているような特定のコンテキストも、与えられていません。
使える生成AIサービスを創るには、「十分優れた生成AIモデル」と「AIネイティブなプロダクト・UI/UX」の両輪が必要なのです。
AIネイティブなプロダクト設計に求められる観点
通常、人間と働く際は、「働きやすくするための工夫」をします。仕事に関する事前知識(コンテキスト)を同期したりマニュアルを渡したりという、その人が個としてパフォーマンスを発揮することを支援するような工夫もあれば、チャットツール・オンライン会議用のツールや、定例やコミュニケーションのプロトコルの整備など、他の人とやり取り・協働するための環境を整えることもします。
これと似たような考え方で、LLM等のAIモデルと協働する際にも「働きやすくするための工夫」を考え、それを自然に実現できるような、UI/UXを設計していく必要があります。
具体的には、例えば下記5つの観点について、考えることが多いです。
AIをオンボードしやすくする
AIと協働(Copliot)しやすくする
AIを隠す(カプセル化)
AIによる拡張から自動化(Agent)
AIによるレバレッジを効かせる
それぞれ、下記にまとめます。
AIをオンボードしやすくする
人と一緒に働く時は、タスクを遂行するために必要な情報を渡します。いわゆる「オンボーディング」です。
具体的には、仕事の前提となるコンテキストを同期するし、仕事の進め方を指南するマニュアルを与えることで、タスク遂行に必要な知識を与えます。例えば、ソフトウェアエンジニア(人)と協働する際には、ソースコード全体やドキュメントを共有しながら、「全体としてどういうアプリケーションを作っているのか」「プログラムからだけでは理解しづらい思想(仕様からコーディング規約等お作法まで)」等、コンテキスト・マニュアル的な情報を共有することで、生産的な開発ができるようになります。
AIに対しても、適切なオンボーディングが求められます。例えば、上記同様、プログラミングの業務で協働するケースを考えると、AIからソースコード全体やドキュメントにアクセスできる状態をつくること(それを人が自然と実行するようなUI/UXをつくること)で、生産性の高い協働が実現できます。ChatGPTにコンテキストが足りない中で「〇〇なコードを書いて」と頼むこと以上に質の高いアウトプットが手に入れられるのです。
より具体的に、そのような体験設計がよく練られているAIサービスの例として、Cursorをご紹介します。Cursorは、下記「The AI-first Code Editor」と題されているように、AIを活用したコードエディターです。
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AIをオンボードすべく、ソースコード全体をシェアする(エディタとしてソースコードのフォルダにアクセスできる状態にする)ことはもちろん、ドキュメントを読ませることができます。
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それによって、より質の高いコード(例えば、他のファイルで定義されているものと正しく依存関係を持つようなコードや、規約・仕様にそったコード)を、AIモデルによって自動生成することができたり、
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コードベースについて、チャットベースで問い合わせる際も、より精度の高い回答が得られるようになります。
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このように、ユーザーからAIに、上記の様な情報(コンテキスト・マニュアルなど)がシェアされ、AIがオンボードされるような体験がつくることが、一つの鍵になります。
AIと協働(Copilot)しやすくする
人と一緒に働く時は、協働しやすいようなインターフェース・プロトコル・環境を設計をし、協働しやすくします。
具体的には、柔らかいコミュニケーションにはチャット・通話できるツールを活用したり、何らかのドキュメントを作る場面では、コメント・レビュー・編集提案的な機能を活用したりと、場面に応じて適切なインターフェースやコミュニケーションのプロトコルを選択・設計することで、協働しやすくしています。
AIについても、協働のために適切なインターフェースやプロトコルが求められています。いわゆる「Copilot」的な体験です。タスクに応じて、AIとやりとりするインターフェースやプロトコルを設計することで、「ただChatGPT上で全てをチャットベースで会話する」こと以上に便利で生産性高く協働できるような体験が実現できます。
こちらも同じく、Cursorの例をご紹介します。
コードベースについて問い合わせる等、自由度の高い会話が求められるケースでは、「チャットインターフェース」が利用されています。
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また、特定のコードを編集したいときには、コードの箇所を選択しながら編集の意図を自然言語で伝えることができるような体験になっています。
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「GitHub上で、プルリクエストに対してコメントするような体験」「(非エンジニアの方向けには)Google DocsやNotionで、ドキュメントの箇所を選択してコメントするような体験」と似ていて、ChatGPTのようなチャットオンリーなツールを使って編集するよりも、協働しやすい体験になっております。
また、提案されたコードについても、上記の画像イメージのように、差分を比べながら取捨選択する体験になっていて、こちらも協働しやすさが意識された体験設計になっています。(これもGitやGoogle Docs等の編集リクエスト体験と似ていますね)
AIを隠す(カプセル化)
プログラミングではロジックをモジュールにまとめ、外部から操作する際のプロトコルを制限することを「カプセル化」と言うのですが、それに習い「AIを隠す(カプセル化)」と題しています。
例えば、人と働く際にも、特定のタスクを社内のメンバーと行うことが協働(Copilot)だとしたら、外注・BPO等でタスクの入出力のみを定義しアウトソースすることがカプセル化、のイメージです。一部の外注・BPOするケースでは、タスクの入出力のみをケアし、基本的には内部の処理を気にしません(内部の処理をしている人に直接働きかけません)。
AIを活用する際も、密に連携しながら協働するCopilot的な体験とは逆に、密な連携が不要な(むしろ無い方がいい)ケースもあります。達成したい課題がどちらのタイプかを見極め、適切なUXを設計する必要があります。
AIを活用し、かつ、カプセル化するケースでは、ユーザーから直接制御できない内部的な処理でプログラムから呼び出す形で、AIを活用します。
Copilot的体験では柔軟性ゆえにできることが増える反面、プロダクトを利用するユーザーのリテラシーや学習を求めますが、カプセル化する場合はユーザーのリテラシー向上を求めない、シンプルで簡単なUXを実現しやすくなります。
AIによる能力拡張から自動化(Agent)
AI技術は進化していくというスタンスに立つと、長期的には、AIと協働する「Copilot的な体験(人間の能力の拡張)」から、AIがより自律的に価値発揮し自動化されたワークフローの割合が増えていく「Agent的な体験(自動化)」にシフトしていくと考えられます。AIのケーパビリティが高ければ高いほど、AIのみで完結できるタスクが増えるためです。
人間でも、部下が未熟なときはシンプルな切り出されたタスクを任せ密にコミュニケーションを取り、優秀になるにつれて柔らかく複雑なタスクを細かいコミュニケーションなく任せることができるようになるのと同様です。
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例えば、Cursorでも、「Auto-Debug」機能では、AIがバグやソースコードを見ながらよしなに思考をしながら(CoT)、バグを解消するように動いてくれます。これはまさに、AIのパフォーマンスが閾値を超えるケースに、一連の処理の自動化が可能になる例です。
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AIモデルの進化に伴い、共にバリューチェーンを広げていけるような切り口で、プロダクトを設計していく必要もあります。この過渡期に一時的に切り出されているタスクを解くだけでは、最終的にバリューチェーンを広く抑えるプレイヤーにリプレイスされる可能性が高くなります。
AIによるレバレッジを効かせる
人間とAIでは得意・不得意は異なるため、人におけるベストプラクティスに囚われずに、AIのアドバンテージを活かすようなプロダクトを設計する必要があります。
例えば、持っている知識の量は桁違いです。GPT-4は既に司法試験や医師国家試験に合格できたり、ほとんどの大学受験の科目で、多くの人間より高い点数を出すこともできます。また、多くのタスクにおいて、人よりはるかに速く、大量にアウトプットを出すことができ、その体力も無限&24時間マルチスレッドで稼働することもできます。人と比べ、コストが下がるケースもあります。
具体的にAIのアドバンテージを活かしているユースケースを考えてみると、Cursorを使ってプログラミングをする際には、「仕様をきれいにまとめてからコーディングをAIに依頼する」よりも、「まずはラフに要件を伝え、アウトプット(実装)を見ながらよしなに修正していく」という進め方が最速であり最適になったりもします。人と協働する際にこれをやってしまうと「要件を固めてから依頼してくれ」と怒られるようなやり方ですが、AIは人間よりも遥かに高速に・無限の体力とともにプログラムを実装してくれるので、この進め方ができるわけです。
上記の例のように、ときに人と働いていた際のベストプラクティスをアンラーンしながら、新たなAIネイティブなUXを設計していく必要があります。
まとめ・さいごに
以上、AIネイティブなプロダクトを設計する際に考えている観点でした。
AIをオンボードしやすくする
AIと協働(Copliot)しやすくする
AIを隠す(カプセル化)
AIによる拡張から自動化(Agent)
AIによるレバレッジを効かせる
振り返ると、インターネットサービス、スマホサービスにも、今や「スタンダード」となるプロダクト・UI/UXの設計が存在しますが、それらは、インターネット革命や、スマホ革命のタイミングでは全く存在しないものでした。革命後、数年の試行錯誤を経て生まれています。
生成AIネイティブなプロダクト・UI/UXのスタンダードが生まれるのはまさに今だなと思っています。
こういうタイミングで、次世代のデザイナーの代表するような方が生まれるのだろうなと
— 大野峻典 | Algomatic CEO (@ono_shunsuke) November 24, 2023
新しいUXの発明が、ここから数年の生成AI系サービスが爆発的な普及の必要条件で。AIとの協働方法(コミュニケーションプロトコル、インターフェース、コンテキストの同期方法、etc)の新たなスタンダードができる
この時代に、僕らは、傍観者ではなく、自らスタンダードを作りに行くべく、生成AI領域で複数の事業を立ち上げております。
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