【ライブレポ】粗品 全国五大都市ツアー『くるみ割り人形』@Zepp DiverCity
喰らいすぎた。
勿論、粗品が本気で音楽をやってるのは知っていた。
だけど、「本気」がこれほどの熱量だということを全く分かっていなかった。
凄まじいほどの迫力に、終始気圧された。
そんなライブだった。
対バン相手である清竜人25の多幸感のあるステージが終わり、粗品バンドのバンドセットが組まれていく。
高く掲げられる横断幕に、徐々に客のボルテージが上がっていく。
クラッシックと共にきっしー → ひかりちん → 粗品の順番で登場。
最初のうちは"お笑いの客"が「こんにちはー、めっちゃこんにちはー」と粗品を煽り、ある意味で茶化すようにレスを求めているのが目立った。
しかし、それに反応を返さず、静観を貫く粗品。
本番中、終始貫かれていたその態度が、アーティストモードの圧倒的な威厳を醸し出していた。
最初に歌ったのは、「ビームが撃てたらいいのに」と「ぷっすんきゅう」だった。
聞きたかった曲でテンションがあがったのは勿論だが、「ぷっすんきゅう」が音源で聴くよりも遥かにロック調でびっくりした。
とんでもなくかっこいい仕上がりだった。
そして、何より3曲目の「宙ぶらりん」がすごかった。
ラスサビの歌詞が、彼が見聞きしてきた芸能界の理不尽に変えられていたのだ。
腐った世界の中で正しく勝ち続けようとしている彼の魂の叫びが聞けて、最高だった。
これらの3曲で客がめちゃくちゃブチ上がった状態で長めのMCに突入。
このMC圧巻だった。
内容は以下の通り。
そんな弱々しさを吐き出す様に、「粗品」ではなく「佐々木直人」が見えた気がした。
「粗品」のことは、お笑いスターのアイコンとして認識していた。
いつでもどこでも面白い、完璧超人のように神聖視していたけど、中にはちゃんと佐々木直人がいるのだなと思わされた。
それなのに、皆と同じ1人の人間が、たった1人の力で、この世界の理不尽と闘いながら、理不尽に負けて死を選ぼうとする人を必死に救おうとしている。
なんて尊いのだろうか。
彼は、「粗品」のことを好きな人が死んでしまうことを、自分のことのように苦しんでいた。
日々何千何万の好奇の目にさらされる芸能人は、顔も名前も知らない誰かのことを想像して一々傷ついていたら、キリがないはずだ。
だから、ある程度の感情の動きはシャットアウトして、自身のパフォーマンスに影響が出ないようにするのも、芸事への正しい向き合い方だと思う。
だから、自己防衛としてある程度冷たく振るまう必要のある芸能人は「変わったね」とか、簡単に言われやすいのではないのだろうか。
でも彼は、そのしんどくて途方もない作業から決して目を背けないのだと分かった。
ファンの自殺を、それを止められなかった自分を、悔いて悔いて、だからこそ、「今この場にいる人は誰も死なせない」という鬼気迫るものがそこにはあった。
そこから、彼は泣きそうな声で「なぁ、死なんといてくれ、お願いだから」と、観客全員の顔をゆっくり確認しながら、一人一人に語りかけていった。
彼は笑わせにきたんじゃなく、救いにきたのだ。
それも、物凄く真剣に。
それが分かった。
「お笑いでは救えない人を音楽で救う」と大言壮語を吐いていた彼。
口だけだと笑った人もいたかもしれない。
でもライブに来たら分かる。
全然、口だけじゃない。
こんなに行動が伴って誠実な男はいない。
カッコ良すぎる。
余りの真剣さに、所々から啜り泣く声が聞こえた。
彼のことが好きな人は、全員漏れなく彼の言葉を真正面から喰らったと思うし、「死にたい」って思った時に、この時のこと浮かんでしまうと思う。
それくらいの力があった。
そこから歌い上げたサルバドルサーガは、さっきまでのように手をあげたりするのも忘れて、棒立ちで聞き惚れてしまった。
死という言葉を徹底的に使わず、「生きて、生きて」を繰り返す力強い歌詞。
ハートフルな応援ソングだと思っていたが、滅茶苦茶ロックな激励ソングだった。
喉がはち切れそうなシャウトを繰り返し、息を切らしながら必死に歌を届ける粗品。
本気な彼の歌を、観客でしかない自分も、もっと本気で受け取ろうと思わされた。
メイクをしている彼は、ロックスターそのものだった。強そうに見える装飾を施してるのに、剥き出しの弱々しさも隠さず、曝け出してぶつかってきてくれる。
そんな姿を見て、濃いメイクの意味が、「芸人」とのモデルチェンジだけでなく、魂の具現化のような意味合いもあるように感じた。
その次の「タイムトラベルマシンガン」の後、また長めのMCに入った。
「先ほどは皆んなの話をしたので」と前置きをして、自らの家族の話をし出す粗品。
このMCからの「はるぱらぱれ」は、圧巻だった。
所々歌詞が詰まりながら、必死に歌う彼。
それもそのはず。
後で明かされたのだが、今回の舞台には彼の母親が招待されていたらしい。
母親はライブ前、Zeppの入口で開場を待つ沢山の観客の写真を撮って、粗品にLINEをしたらしい。
「ここにいるファンのおかげで今のアナタがいるのだから、感謝を忘れずに」
なんて素敵で逞しくてかっこいい母親なのだろうか。
はるばらぱれの話に戻る。
何より感動したのはラスサビの歌詞。
こんなふうに、見に来ている大切なお母さんと、天国にいるお父さんへ向けて歌詞を変えて歌っていた。
粗品には「お父さんが見えるのではないか?」ってくらい、迫真のパフォーマンスだった。
後ろで光る目潰しのビームライトが、バンドを神々しく照らしていて、一瞬だけ天国と現世の間にお邪魔してるような感覚になった。
この頃には「お笑いの客」もテンションの違いを感じ取って、笑いを起こしたいという意図の煽りが、ぴたりと止んでいた。
そして、最後のMC。
ここでは、手話を用いたりしながら耳が不自由な方の音声認識アプリ使用を促し、曲への思いを語っていた。
「どんな手段を使ってでも自分の思いを伝えたい」という信念の強さと誠実さが、本当にカッコよかった。
彼は、繰り返しこの言葉を伝えていた。
きっと、耳が不自由な方にも届いたに違いない。
更に、耳が不自由でない"特別"なファンに対しても、語りかけてくれた。
"普通"のファンも、"特別"なファンも、全員を巻き込みながら披露された泣声夜。
音圧がすごくて、しんどいことを思い出そうとしたのに、頭が空っぽになってしまった。
この鑑賞態度が正しかったのか分からないけど、それくらい聞き惚れてしまった。
何にも考えられなくなるくらい、圧巻だった。
すると、この曲でセトリが終わったらしく、粗品バンドが去っていった。
私はしばらく放心状態だったのだが、周りからアンコールを求める声が始まった。
良かったのは、「アンコール、アンコール」の声が勇気ある青年の大声によって「ハゲタコ、太客、エビフライ」に変わっていったこと。
その呼び声に呼応するように、アルコールで帰ってきた粗品は、半分「芸人」に戻っていた。
吉本からの差し入れが"フィナンシェ"だったというトークで軽く爆笑を掻っ攫ってから、曲に入っていった様を見て、芸人モードの凄まじさも受け取った。
もう、人前に立って笑わせることなんか前提で、もうその先を見据えてるんだな。
凄すぎる。
純粋に尊敬した。
アンコールで披露された2曲は「オーディンの騎行」と「絶対大丈夫の歌」だった。
純粋に「明日からの仕事も頑張ろう」と思える2曲で、本当に最高のセトリだった。
普段攻撃的な芸風の彼が吐き出す弱々しい本音。
何もかもをエンタメとして昇華する彼が昇華しきれないでぶちまける悔しさ。
切実な願い。
それが、刺さる刺さる。
「普段のキャラクターとのギャップ」といえば簡単だが、それ以上に「粗品」でしか表現できない音楽があるのだとはっきり分からされたライブだった。
彼がライブの最初に放った
という言葉の通り、忘れられないライブになった。
次のライブツアーも絶対にチケットを当てて見に行きたい。
粗品というアーティストの成長を、これからも追いかけ続けたいと思った。