Netflixオリジナル『地面師たち』感想
大根監督作品で、日本映画界の宝みたいなキャスト陣。面白くないはずないとは思っていたが、夜通しで一気見してしまうくらいに面白かった。
Netflixの勝手に次の話が再生される機能考えた人、悪魔すぎる。
____________________
「地面師たち」は2017年に実際に起こった「積水ハウス地面師詐欺事件」をモチーフに描かれている。
そもそも、この事件が超面白い。
調べる手が止まらない。
現実世界では「海喜館」という旅館の土地が詐欺に使用されたらしいのだが、本作では「寺とその周辺の敷地」に変更されていることなど、多少のマイナーチェンジはある。
だが調べれば調べるほど、
所有者の写真を近隣住民や知人に見せる本人確認手法を取らなかったこと、
社内でも不動産部長は反対し続けていたこと、
真の所有者から売買契約はしてない旨の通知があったこと、
社長自ら現地視察をしたことで「社長案件」となり承認体制が機能していなかったこと
など、本作が史実にかなり則って作られていることが分かり、それが逆に驚きだった。
こんな大胆で大規模な詐欺が日本で実際に起こっていたこという事実。
そして、それが2017年というかなり最近に起こっていること。
更に、よく知っている場所であることなどが、作品をより身近さに感じさせてくれた。
それこそが、より今作に深く没入できた要因な気がする。
まさに「事実は小説よりも奇なり」を地でいってる。
なんでこんな大きな事件だったのに知らなかったのだろう。
とりあえず、題材にする上でこんなに面白い事件はない。
目の付け所が流石すぎる。
そして、作品の流れも完璧だった。
1話目で雑魚敵相手に華麗な詐欺を決め、それぞれの役割とキャラクターを完全に理解させた後、100億規模の巨大詐欺計画が始まることで本題にスッと入り込めた。
2話目以降も地面師達それぞれの視点、刑事のリリーフランキー/池田エライザの視点、なりすまし相手の住職とその周りのホストの視点など、様々な視点と場面転換が入り乱れるのに、ストーリーに全く混乱する点がなかった。
そして、次から次へと怒涛の展開がなだれ込んでくるから全く飽きなかった。
というか、合計で何人死んだ?
出てきたキャスト、半分以上死んだんじゃないか?
人が死ぬシーンの中でも、リリー・フランキーが殺されるシーンが、1番心臓がキュッとなった。
まず作中で、トヨエツが綾野剛に向かって、
『映画ダイハードの「3.2.1.0」のカウントで突き落とすシーンは、役者に黙って「1」で突き落としたからこそリアルな驚きの表情が撮れた』という高説を大仰に披露する伏線があった。
なので、トヨエツがリリーフ・ランキーに自殺を迫るシーンに差し掛かった時、「あぁ…こんな残酷な伏線回収するんだ…」と思っていた。
すると、トヨエツは私のその浅はかな予想を悠々と裏切って「3」のカウントで突き落とし、リリー・フランキーが驚きに満ちた表情で落ちていくスローモーション映像が流れるのである。
あまりにも不意打ちすぎて、リリーフランキーと同じような表情をしてしまった気がする。
トヨエツ演じるハリソン山中は、本当に誰も信じてないんだろうなと思った。
人の死によってしか自分の生を感じれないなんて、なんて悲しい人生なんだろう。
金がどれだけあったって、ヒリヒリさせられるものが犯罪しかないのは、さぞ生き辛かろう。
彼がどんな幼少期を過ごして、これほどまでに残忍な人格が形成されたのかが、非常に気になった。
暴力団出身らしいので、そこら辺の出自にヒントがあるのではないか。
なので、陳腐になってしまう気もするが、ハリソン山中のアナザーストーリーを見てみたいと思った。
何より、どんな時でも全く声のトーンが変わらないほどの異常な落ち着きと、そこから放たれる圧倒的なオーラはなんなんだ。
演じるトヨエツが余りにも偉大すぎる。
また、綾野剛の過去などがフィクションとして足された部分だと思うのだが、そのあたりのシーンが特に見応えあった。
同時に、1番見るのがキツかった。
中でも、焼身自殺に失敗して家族皆殺しにした上で生き残ってしまうという、背負いきれない罪科を負った父親役の猪俣さんの演技が、リアルすぎて本当に息が詰まった。面会のシーンでの気の触れ方は、その場にいると錯覚するくらい迫力があった。
そして、火事のことを思い出すたびに吐き気を催して嗚咽する綾野剛の演技も素晴らしく、一視聴者でしかない自分ですら、気分が悪くなった気がした。
ともかく、重い腰を上げて配信ドラマを見た甲斐があった。
地面師たちを見たおかげで、綾野剛の作品がおすすめにたくさん出てきたので、これを機に他の作品も見ていこうかなと思った。