見出し画像

【獅子をかぶる】

合コン。合同コンパ。だいたい初めましての男女が出会いを求める場所。そんな場所に私はいた。今日のためにメイクも決めて服装もバッチリだ。別に飢えているわけでないが変に見られたくないのはある。だからバッチリしていく。
一通り自己紹介も終わり各々気になった人と雑談をしていく。
「ねぇねぇ」と早速声がかかった。見た目も爽やかだった少し気になる男性だ。

「それ何?」
「それって?」
「頭の上のやつ」

と指を刺す先は私の頭の上というか頭についているというか、噛まれているという表現が一番しっくりくる。

「ライオンだよ」と私は答える。

「なんでライオン?」と返された。
よく聞かれるし、よく返されるんだけどなんでライオンかはわからない。わからないんだ。ごく普通の家庭で育ち、ごく普通に成長してきてある日突然頭にかぶりついていたんだこのライオンが。ライオンの体は実態を持たないのか特に重いとか邪魔になっている感じはない。後ろから頭にかぶりついている形なので、背中にべたりとくっついてるような感じだ。だが、そのべったり感はない。むしろ普通に仰向けになって眠れる。不思議だ。だが、見た目は大きなライオンのかぶりものをしているような見た目になっている。獣臭とはしない。でも目が合うので生きているのだ思う。最初はパニックになって医者に行ったが医者もパニックになっていた。

「でもまぁ体には害がなさそうなんで。とりあえずお薬出しておきますね」

と言われ、軟膏をもらった。塗る場所の指定はなかった。じゃあこれはなんだ。勲章みたいに飾っておけばいいのか。
この状態になってから彼氏ができなくなった。そりゃそうだ。みんな気味悪がる。自分でいうのもあれだが私は見た目はかなり良い方だ。美人だと皆が言うだろう。それでもこのハンデはプラマイゼロにできないようだ。
私は負けたくなかった。負けたくないのでものすごくオシャレをしている。オシャレに全部振り切ってもこのマイナスは大きいようで、いまだに彼氏はできていない。

「というかもう肉食女子だよね」

と友達にもいじられる。これは軽くいじっていいものではない。もう5年はこの状態だ。今日の合コンもそりゃ何もなく終わった。帰り道に声をかけれて写真お願いされたくらいだ。それはよくある。この見た目だ。この辺りでは少し有名になっている。
帰宅して、アクセサリー、メイク、服、全てを脱ぎ捨てる。そして鏡を見る。ライオンがかぶりついている。これは脱ぎ捨てれない。

「ねえ、あんたいつまでいるわけ?」

と鏡越しにライオンと目を合わせて喋る。ライオンが反応するわけでもない。

「だいたいあんたがいるからこんな感じなのよ。あんたなんなの?もうよくない?わたしってそんなに美味しい?なんなの」と少し自暴自棄になっていた。


「ライオンです。」


その声に反応して鏡を見るとライオンが私から口を外して喋っていた。


「なんなのって私はライオンです」とつぶらな瞳でこちらに声をかける。これはチャンスだと思い、問いかける。

「何故、私の頭にかぶりついているんですか?」
そう聞くと、ライオンはゆっくりとまた私の頭にかぶりついた。そのあとどんな言葉を投げかけてもライオンはもう反応することはなかった。
私は小学生の頃に大事にしていた宝箱ボックスをクローゼットの奥の方から出して中を開けた。中には当時流行っていたヨーヨーが入っていた。久々に指つけて、小さなベランダでヨーヨーを回した。ヨーヨーで唯一できる技「ブランコ」をやりながら陽が落ちるのを眺めた。

「私はライオンです」

という妙におじさんっぽい声を脳内反響させながらヨーヨーを眺めた。

いいなと思ったら応援しよう!