なぜこの会社の仕事は深化するのか? サービスの深化を促す二つの仕組み
岡村衡一郎
「『社内新聞』が会社の目に見えない財産だ」とA 社の経営者は言う。
年に数千枚、お客さまから感謝のはがきが届く顧客対応は、売り買いの関係をはるかに超え、まるで家族のように温かい。
A3・4 枚の新聞には、お客さまとの間での学び、貢献できたと思えた出来事などがランダムに取り上げられる。社内新聞は互いの仕事へのエール交換、サービスを見直すためのフィードバック情報の機能をはたす。一読すれば、仲間の頑張りが分かると同時にそれぞれの担当者はお客さま一人一人に思いをはせる機会になる。
「あの人にこんなこと」とわくわくした気持ちが絶えないA社のお客さま対応は日々深化する。背景に統一された作業マニュアルではなく自分マニュアルをつくる習慣がある。身近なモデル事例が満載の社内新聞も参考しながら、家族のようなふれあいを深めていくための理想の対応を考え、マニュアルを更新し続けている。
誰のマニュアルも完成することのない現在進行形の最新号。
過去の整理ではなく未来のストーリーを書き出しているからお客さまの一歩先の応対ができるのだ。
一般的なマニュアルは過去の最良。お客さま満足は得られてもそれ以上には至らないだろう。一カ月前より深化している応対にお客さまは感動するのは言うまでもない。
企業Aにとっての社内新聞と自分マニュアルは、家族のような絆を深めていけるサービスの成長を後押しする手づくりの仕組みだ。新聞を通じて知る仲間の頑張りがもっとこうしようという気づきを生み、自分マニュアルが日々の実践を未来思考にする。
違いをつくる。お客さま感動を目指す。
これらの意味合いで目標を掲げる企業は少なくはない。だが多くの取り組みは精神論的な展開の域をでない。単なるスローガンか、一部の人だけの実践に終わっている。要因としてバックアップする仕組みがないか、働かないかで一時的な盛り上がりになっているのだ。
サービス業で働こうとする人は本来的に人を喜ばせるのが好きな人だ。
何をどうすることが違いなのか。なぜ感動につながったのか。これらの情報が日々外から入ってくれば、適度なプレッシャーのもとに身を置けば、アイデアが涌いてくる人たちである。
A社社員にとって自分マニュアルを刷新する習慣が適度なプレッシャーになり社内新聞が外からの刺激を与え思考を広げてくれる。
仲間のお客さま感動につなげた瞬間と自分の取り組みを比べることで改良点をいつも考えている。
自分の内側からアンテナを高くする実践と、アンテナにジャストフィットの周波数で流れる質的情報。これらに支えられサービスを成長させている。
人を喜ばせようとする実践が個人のレベルか会社レベルの取り組みへ昇華するか。より大きな企てへの発展を支える仕組みは次の二つ。一つはA社の自分マニュアルのように自らサービスの見つめ直しを促すもの。
一つは一人一人の実践がみんなのものに転換する機能を果たす社内新聞のような仕組み。
自分発が必要条件になり、みんな発が十分条件になる。
双方が補完関係になれば、サービスは日々新しくなる。
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