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生きて、いたくても――Dec#28

 最初の音が鳴った。
 この季節に似つかわしく響く、乾いた破裂音。近かったから、きっと特別棟と体育館の間にある広場のどれかだろう。僕が待ち望んだ音ではないけれど、その合図は僕に昂りをもたらした。学校の敷地内と言う一定の厳格さがある場所で、クラッカーの紐を引いた人間が居る、と言う事実だけでも、充分な成果なのは間違いない。
 誰が最初に、あの光景を目撃したのかは知らない。靴箱の把手にぶら下げられた、紐のついた手紙の群れを。
 予想以上に反響は早く大きかった。僕が形だけ下校の準備を済ませた頃にはクラスにも一報が入った。玄関の様子を見に行くと、既に幾つかの「着色された夢の構造」は始まっていた。
 三年の靴箱に「ほぼ」ランダムで引っ掛けられた手紙。ここに用意した数は二五通で、見る限り今はそれより少ない。……と、一通り確認した所で気づく。僕の靴箱にも、選ばれた一割の人間だけが見られる夢への、招待の通知が来ている事を。
 知ってか知らずか。いや、細井先生なら知っていて、わざと仕掛けた様な気がする。だとすれば、その意図は歴然だ。
 手紙を取って、
 僕も夢に紛れ込む。


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